没落貴族令嬢ですが、王子様が私を優しく癒してくれます

冬後ハル(とうご はる)

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4―2 王国建国記念日の翌日の出来事

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ソフィアは、王子に連れられて子供院に来た。

子供院は、ソフィアの家から馬車で15分程度の場所にある。

王子の馬車が院に着くと、院長のメアリーが出迎えた。

メアリーは、初老の女性であり、白髪を後ろでひとつに束ねていた。

「王子様、この様な所までよくお越し下さいました。今日は、どのようなご用件でしょうか?」

メアリーは、王子の横に立つソフィアを見ながら尋ねる。

「以前、人が足りないと申していただろう。この者を新しく雇おうかと思ってな」

「やはり、そうでしたか。ありがとうございます。お嬢さん、お名前は何と言うの?」

「ソフィア・スプリングです。私は、この様な場所で働いたことはないのですが、一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします」

ソフィアは、メアリーに頭を下げた。

「でも、王子様直々にお連れされるなんて、……いったい、どのようなご関係なの?」

メアリーは、王子の後ろに控えるカインドに尋ねた。

カインドは、何も答えずに王子を見ている。

「メアリー、カインドが困っているだろう」

王子は、市場での出来事をメアリーに話した。

「なるほど、そういうことでしたか。もう、カインド、そうならそうと言いなさい。もしかしてって思うでしょ」

ソフィアは、メアリーとカインドのやり取りを不思議そうに聞いていた。

「母さん、王子様に失礼ですよ」

「気にするな、母と子の戯れ言ではないか。久しぶりに会ったんだ、しっかり親孝行をしてこい」

カインドは王子に頭を下げると、メアリーの側に行き、メアリーの手を取る。

メアリーは、カインドに手を引かれながら建物に向かって歩き始めた。

「カインドは、この子供院の出身なのだ」

王子は、ソフィアの疑問に小声で答えた。

「門に置き去りにされていた赤子を、メアリーが見つけ、その子をカインドと名付けて育てたんだ。だから、カインドはメアリーを母さんと呼ぶのだ。私が、カインドという信頼できる臣下を得ることができたのは、メアリーのおかげだ」

ソフィアは、カインドは身分の高い貴族の子息だと思っていたらしく、王子の話にとても驚いていた。

「さあ、カインドの話はここまでだ。私たちも行こう」



ソフィアは、子供院の院長室でお給金や、仕事の内容についてメアリーから説明を受けた。

そして、これから一緒に院で働く女性たちを紹介してもらった。

ソフィアは、仕事に慣れるまでは、10歳以下の子供たちのお世話を任されることになった。

そして、一緒にお世話を行うのは、ソフィアと同い年のローラという女性だと教えてもらった。

ローラは、今庭で子供たちと遊んでいるとのことだったので、後から挨拶に行くことにした。

メアリーから提示されたお給金は、ランボの実家が提示した金額よりずっとよかった。

メアリーは、ソフィアへの説明を終えると、微笑みながら王子に言った。

「王子様、ソフィアに院内を案内して頂いてもいいですか? 私は、カインドに積もる話がありますので」

「か、母さん」

カインドは、慌ててメアリーの言葉を取り消そうとする。

ソフィアは、2人の様子を見ていて、本当に仲がいい母子だと思った。

「わかった、私に任せろ。ただ、メアリーが要らぬ気を回しているのが気になるが、……まあ良い、ソフィア、行こうか」

「お願いしますね、王子様」

メアリーは、母親が子供に言い聞かせるような、優しい口調で王子に言った。

「まったく、メアリーの前では、私もただの子供にされてしまう」

そう言った王子の顔は、なぜか嬉しそうだった。

王子とソフィアは、10歳以下の子供たちが遊んでいる庭に向かった。

子供たちは、靴飛ばしをしていた。

「あっ、王子様だ」

王子の姿を見つけると、子供たちは一斉に集まってきた。

「王子様、靴飛ばしをしようよ」

「お姉ちゃんもいいでしょ?」

ソフィアの手を、女の子が掴む。

「えぇっと、……」

ソフィアは、王子の顔を見る。

王子は、子供たちに伝えた。

「このお姉さんは、新しい先生だぞ。ソフィア、自己紹介を」

「こんにちは、ソフィア・スプリングです。今日からここで働くようになったの、よろしくね」

ソフィアは、その場にいたローラにも挨拶をする。

「ローラです、よろしくね」

ローラは、ブラウンの髪を後ろでひとつに束ねている。

小柄な体で、笑顔が可愛らしい女性であった。

「王子様、靴飛ばし始めよーよ」

王子は、子供たちに優しい笑顔を見せている。

「よし、やるか」

王子は、子供たちに混じって靴飛ばしを始めた。

ソフィアは、子供たちが上手く遠くに靴を飛ばすのに驚いた。

王子も、靴下を泥まみれにしながら靴を飛ばしている。

子供たちと一緒に遊ぶ王子は、子供のような笑顔を見せていた。

「王子様も、あの様な笑顔をされるのですね」

ローラが、ソフィアに話しかけてくる。

「本当ですね、私は王子様と知り合ってまだ数日ですけど、あの笑顔には心が……、って何を私は言っているのでしょうか、わ、忘れて下さい」

慌ててソフィアは、自分の言葉を撤回する。

「私たちは、恋敵ですね」

そう言って、ローラは微笑んだ。

「どうした、ソフィアも早くこっちへ。子供たちが待っている」

子供たちが、ソフィアを見る。

「さあ、王子様がお待ちですよ」

ローラが、ソフィアの背中を押す。

子供たちのところに来たソフィアは、右足をおもいっきり蹴りあげた。

しかし、ソフィアの靴は、子供たちの半分も飛ばなかった。

何回やっても、ソフィアの靴は、全然遠くに飛ばなかった。

すると、王子が側に来て、ソフィアの足を持ちながら、足の蹴りあげ方を教えた。

ソフィアは、王子に教えてもらった通りに足を蹴りあげた。

ソフィアの靴は、空に向かって舞い上がり、今までの倍以上に靴は遠くまで飛んだ。

「上手いぞ、ソフィア」

「王子様の教え方がお上手なのです。次は、もっと遠くへ飛ばしますよ」

ソフィアは、靴飛ばしに夢中になった。

ソフィアは、自然と笑顔が多くなり、王子と微笑み合い、たくさん話をした。

「みんなぁー、おやつにしますよ」

ローラが、こっちへ向かって大声で叫んでいる。

「わーい、おやつだー」

子供たちは、ローラの方に走って行く。

ソフィアは、庭に王子と2人で取り残されていた。

ソフィアは、王子の片足が靴下であることに気がついた。

ソフィアは、王子の靴を拾い王子の前で地面に正座をする。

「王子様、おみ足をお出し下さい」

「自分で履ける、その様なことはせずともよい」

王子は、ソフィアから自分の靴を受け取った。

ソフィアは、その時、自分の靴がどこにも見当たらないことに気がついた。

「ソフィア、足を出してくれ」

王子が、ソフィアの前で片膝をついている。

「あ、あの、私も自分で履けます。どうかお立ち下さい」

ソフィアは、子供たちにこの様なところを見せてはいけないと思い、小声で王子に答える。

「良いから出すのだ、失礼」

王子は、ソフィアの足を持つと、その足を自分の手拭きで拭き始めた。

「少しくすぐったいかもしれないが、我慢してくれ」

ソフィアは、裸足だったのだ。

王子は、指の隙間まできれいに土を拭きとり、ソフィアに靴を履かせた。

「あ、ありがとうございます」

ソフィアは、頬を赤らめている。

「王子様、早くしないとおやつ全部食べちゃうよー」

子供たちの声に、王子は反応する。

「私たち2人はいいから、みんなで仲良く食べるといい」

「やったー」

子供たちから、歓喜の声があがる。

王子は、優しい笑顔を子供たちに向けていた。

ソフィアは、王子の笑顔に見とれている。

「ソフィア、結婚を前提にお付き合いさせて欲しい」

王子が、不意にソフィアの方を向いて言う。

「つ、謹んでお断り致します」

ソフィアは、顔を真っ赤にしながら断った。

「そうか、ゆっくり考えてくれ。答えは、またで良い」
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