没落貴族令嬢ですが、王子様が私を優しく癒してくれます

冬後ハル(とうご はる)

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5 二人の距離が少しだけ縮まった日の出来事

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「申し訳ございませんが、ご子息との婚約は出来ません。娘には、既に決まった相手がおりますので、お許しを」

モブ家の次男、ランボからの婚約の申し出を、『ノンストーン』の貴族家は丁重に断った。

「くそっ、また駄目か。『ノンストーン』の分際で、『スチール』の俺の申し出を断りやがって」

ランボは、荒れていた。

なぜなら、ソフィアとの婚約を破棄してから、十数件続けて婚約の申し出を断られているのだ。

周辺の貴族家で、ランボの素性を知らない者はいない上に、王国建国記念日の舞踏会でのソフィアに対する仕打ちを『ノンストーン』の貴族家たちは皆知っているのだ。

通常であれば、『スチール』からの申し出を『ノンストーン』が拒むことはあり得なかったが、ランボに対しては違っていた。

『ノンストーン』の者たちは、誰が可愛い娘をランボの嫁にするものかと口々に言い、皆、何かしらの理由をつけてモブ家からの申し出を断っているのだ。

ついにランボは、周辺の『ノンストーン』の貴族で年頃の娘がいるすべての家から、婚姻の申し出を断られてしまった。

それは、ソフィアが舞踏会でレオン王子にプロポーズをされた日から、たった1ヶ月での出来事であった。



「ソフィア様、私の知ってるお店で夕食を一緒に食べない?」

ソフィアが子供院で働き始めて1ヶ月が過ぎた頃、ローラがソフィアを夕食に誘ってきた。

ソフィアは、ローラに呼び捨てにして欲しいとお願いしているが、ローラは、「平民が貴族の方を呼び捨てにはできない」と言って、様を付けてソフィアを呼ぶのだ。

ただ、ローラは、ソフィアのことを「ソフィア様」と呼んでいるだけで、友人のようにソフィアに接していた。

ソフィアも、そんなローラに心を許し、身分の差などを感じさせない付き合いをしていた。

ソフィアは、すぐにローラの申し出を了承して、夕食の約束をした。

翌日、2人は少し早めに仕事を終わらせて、帰りの挨拶をするためにメアリーの部屋を訪れた。

「メアリー先生、私たち、今日はもう帰りますね。失礼します」

メアリーは、足早に部屋を出ようとするローラを呼び止めた。

「ローラ、今夜はカインドが来る予定なの。カインドから聞いていなかった?」

「先生、今日は、ソフィア様とお食事に行くんです。だから、今晩は、カインド様と親子水入らずの時間を過ごして下さい」

「あなたも、私の娘みたいなものなのに……、分かったわ、ソフィアさんと楽しんでいらっしゃい」

ローラは、メアリーに頭を下げると、ソフィアの手を取って部屋を出た。

「あ、あの、ローラ、よかったの? 私なら予定を変更しても大丈夫よ」

「とんでもない、今日はソフィア様と食事をするために朝から頑張ったんだから。もう、お腹ペコペコよ、早くいきましょう」

ソフィアは、ローラの案内で、子供院の近くにある食堂にやってきた。

食堂の中は、賑やかで活気があった。

ソフィアたちは、窓際のテーブルに案内される。

ソフィアは、先ほどのメアリーの言葉の意味をローラに確かめた。

「実はね、私も子供院に通っていたの。父だけの収入では生活が苦しかったから、母は私を子供院に預けて働いていたわ。だから、私は、朝から晩まで子供院で過ごしたの。その時、私の面倒を見てくれていたのが、メアリー先生なの。先生は、私のお母さんみたいなもんだったわ」

ローラは、昔を懐かしむように目を細めて言う。

ソフィアとローラは、料理が運ばれてくるまで、いろいろな話をした。

ソフィアは、ランボとのことも話した。

ローラは、ランボからの仕打ちを、まるで自分がされたことのように怒っていた。

ソフィアは、レオン王子のことは内緒にしている。

その後も2人が話を続けていると、テーブルに料理が運ばれてきた。

「さあ、ソフィア様、食べてみて。美味しいわよ」

ソフィアは、ローラに促されて料理に手を伸ばす。

「美味しい!」

「でしょ、そっちのも食べてみて」

ローラの言った通り、どの料理もとても美味しくて、ソフィア好みの味付けであった。

ソフィアは、ローラと料理を食べながら、いろんな話をした。

「ところで、その髪飾り、とても似合ってるわ。まさか、さっき言っていたランボからの贈り物って訳はないよね?」

「まさかっ、違うわよ。ランボからもらったのは、とっくに返したわ」

ローラは、ソフィアの顔を覗き込む。

「へぇー、じゃあ誰にもらったの?」

「えっ、べ、別にそんなんじゃ……」

ソフィアは、口ごもり、頬を赤らめた。

ローラは、何かを察したような笑みを浮かべている。

「でも、本当によく似合ってるわよ。それをくれた人は、本当にソフィア様のことを思って選んでくれたのね。羨ましいわ」

「ロ、ローラも早く食べて」

ソフィアは、髪飾りから話題を変えようとする。

「もしかしたら、今日、王子様もカインド様とご一緒だったかもしれないわね。その髪飾りを見たら、王子様もソフィア様のことを」

ローラは、話題を変えるつもりはないようである。

ソフィアは、顔を赤らめて早口でローラに言い返す。

「だ、だから、私は、王子様のことを好きとか、そんなんじゃないから」

その時、ソフィアたちの姿を窓の外から見ている姿があった。

ローラがソフィアのことを冷やかしていると、食堂の入り口の扉が乱暴に押し開けられる。

扉が壁に当たり、大きな音を立て、食堂内は一瞬にして静かになる。

ランボとその取り巻きが、食堂の中に入ってきた。

「おい、ソフィア! お前、ずいぶん楽しそうだな。お前のせいで、この俺が『ノンストーン』どもにバカにされているっていうのに」

ランボは、テーブルを力一杯叩いた。

他のお客たちは、ランボと関り合いになりたくないらしく、皆、席を動き始めていた。

「まあいい、おい、ソフィア、この女はお前の知り合いか? ん? こいつ平民だろ。おいお前、俺は『スチール』だ。俺に酌をしろ。それにしても、なかなか可愛い顔をしているな、俺の妾にしてやってもいいぞ」

ランボは、ローラに肩に手を回し、ローラを抱き寄せようとした。

「きゃっ」

ローラは、ランボから逃れようとしたが、強く肩を掴まれて無理だった。

「ランボ様、やめて下さい」

ソフィアは、ランボの腕を掴む。

「ふんっ、だったら代わりにお前が俺たちに酌をしろっ」

ランボは、ローラの肩から手を退けた。

「おい、平民。今日はもう終わりだ。お前は、もう帰れ。いいか、もし、このことを誰かに言ったら、……分かっているだろうな。それとも、お前にも酌をさせてやろうか?」

ソフィアは、ランボたちにローラに手を出さないように言った。

「さあ、関係ない奴は店を出ろ」

食堂にいた客は、我先にと食堂を出ていく。

「ほら、お前も早くしろっ」

ランボの取り巻きが、ローラの肩を押す。

ソフィアは、ローラの顔を見てうなずく。

ランボたちは、食堂の主人に酒とつまみを持ってくるように命令する。

ローラは、走って食堂を出ていった。

「あ~あ、あの平民、お前を置いて逃げちまったぞ」

ランボは、ソフィアの横に座りながら言う。

食堂の主人が、酒とつまみを持ってきた。

「おい、ソフィア、酌をしろ」

ソフィアは、ランボに酌をする。

「おい、ソフィア、今からでも俺の嫁になれ。そしたら、今までのことは許してやる」

「おいおいランボ、まさか、こいつに未練があったのか?」

ランボの取り巻きが、さっそく冷やかす。

「はあ? 男としての面子だよっ。いつまでも『ノンストーン』どもに、バカにされたままでいられるかよっ」

ランボは、ぐいっと顔を近づけてくる。

「おい、どうなんだ?」

「申し訳ありません、お断り致します」

「はあ? なんだと! 『ノンストーン』が『スチール』に逆らうのか?」

ランボは、隣のテーブルを蹴り倒し、ソフィアの腕を掴む。

「俺は、別にお前の意見はどうでもいいんだよ。黙って俺の嫁になればいいんだ、お前は」

ランボが、ソフィアの体を引き寄せる。

「止めて下さい」

「へっ、お前だって相手がいないんだろ。俺がお前の相手してやるよ」

その時、入り口の扉が開く。

「その手を放せ」

ソフィアの腕を掴むランボの手を、レオンが捻りあげる。

「これ以上、ソフィアに何かすれば私が黙っていない」

ランボの取り巻きは、突然の王子の登場に驚き立ち尽くしている。

ランボは、王子に手を放すように懇願している。

「わ、わかったよ。もう、こいつには関わらねえよ」

レオンは、ランボの手を放す。

ランボたちは、逃げるように店の外へ駆けていった。

「ソフィア、大丈夫か?」

王子は、ランボが掴んでいた辺りを心配そうに見ている。

「大丈夫です。でも、どうしてここに?」

「そなたの友が、私たちを呼びに来たんだ」

カインドとローラが、店内に入ってきた。

「ソフィア様……」

「ローラ、ありがとう……」

ローラは、ソフィアの手を取ってソフィアの無事を喜んだ。

「大袈裟よ、ローラ。ランボは、酔ってたし、お店の中だったから、何も出来なかったはずよ」

「でも、取り巻きもいたし、どこかに連れ去られていたら……」

「ありがとう、ローラ。王子様も、ありがとうございました」

カインドは、ランボたちが倒したテーブルや椅子を片付けている。

「ソフィア、少し動かないでくれ」

レオンは、ソフィアの髪飾りを直した。

「主人、今晩は騒がせて申し訳なかった。これで、ソフィアたちに何か温かいものを食べさせてやってくれないか?」

王子は、カインドに命じて主人に金貨を渡す。

「そんな、これは頂き過ぎです」

「いや、主人が強めの酒を出してくれたから、ランボたちも酔いが早く回ったのであろう。おかげで、ソフィアを無事に助けることが出来たのだ。遠慮せずに貰ってくれ」

食堂の主人たちは、深く王子に頭を下げて調理場へと向かった。

「レオン王子様、王子様たちもご一緒にいかがでしょうか? お礼をさせて下さい」

ソフィアは、帰ろうとする王子たちに声をかける。

「メアリーを待たせているからな、今日は2人で楽しんでくれ」

そう言って王子は、ソフィアを見つめる。

「やはり、その髪飾りを選んで正解だったな、よく似合っている。ソフィア……」

カインドが、傍にいたローラの耳を慌ててふさぐ。

「ソフィア、結婚を前提にお付き合いをさせて欲しい……。もう、今日のような気持ちにはなりたくない」

「つ、謹んで、お断り致します」

「そうか、返事はまた聞かせてくれ」

王子は、颯爽と食堂を出て行った。

ソフィアは、頬を真っ赤にしてうつむいている。

ローラは、目を真ん丸にしてソフィアを見ていた。



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