没落貴族令嬢ですが、王子様が私を優しく癒してくれます

冬後ハル(とうご はる)

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6 ソフィアの決断

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ローラとの夕食を終えて家に帰ったソフィアは、髪飾りを手に取り眺めていた。

「やはり、よく似合っている」

王子の言葉がよみがえった。

あの後、ローラは何か聞きたそうにしていたが、結局、王子のことについては聞いてこなかった。

ソフィアは、ローラのことを親友と思っている。

「やっぱり、ローラには話すべきよね」

ソフィアは、手の中の髪飾りを見ながら呟いた。

翌朝、ソフィアは、子供院の門の前でローラに出会った。

「お、おはよう、ローラ。……あのね、」

「ソフィア様、おはようございます。王子様のことでお伺いしたいことがあります」

ローラが、ソフィアの言葉を遮って話し始める。

「ソフィア様、失礼ながら私は昨日、王子様のお言葉を聞きました。とてもお似合いなお二人だと思いました。でも、王子様は……、ソフィア様は、それでいいのですか?」

ローラは、言葉を濁す。

「……えっと、王子様がどうしたの?」

ソフィアは、ローラの言っている意味が分からなかった。

「本当に分からないのですか? 今朝、町中で噂になっていることですよ。では、申し上げます。王子様は、明日より隣国の王女様と美景湖に行かれるそうです。これがどういうことか、分かりますか?」

美景湖は、歴代の国王が王太子時に、将来王妃となる女性ともに訪れる湖畔である。

ソフィアは、何も知らなかった。

ソフィアは、子供院に着くまで、ローラに王子のことを何と伝えるか、そればかりを考えており、正直、周りの声など耳に入ってこなかったのである。

昨日、王子と会った時には、もちろん王子は何もソフィアに告げていない。

普通に考えれば、自身の行動ついて、王子がソフィアに話すことではないだろう。

王子とソフィアの身分差を考えれば、今までのことの方が異例なのである。

ソフィアは、無意識に、王子から貰った髪飾りを手に取っていた。

「ソフィア様、もしかして、……本当に何も」

ローラの言葉に、ソフィアは黙ってうなづく。

「ローラ、私ね、今日、ローラに会ったら、昨日のことをちゃんと話そうと思っていたの。だって、ローラは、親友だから……。でも、私1人で舞い上がっていたみたい……」

「ソフィア様……」

「ローラ、ごめんなさい。先にいくね」

ソフィアは、足早に子供院の中に入っていく。

ソフィアは、その日たくさんの失敗をした。

心ここに在らずのソフィアに、周りの者も気を使い、少し早めに家に帰ることを勧めた。

ソフィアは、ローラに寄り添われながら、家へと帰って行った。

ローラが、ソフィアを送り届けて子供院に戻ってくると、カインドがメアリーと話していた。

「あっ、ローラ。ソフィアは無事に家に帰った?」

ローラに気がついたメアリーが尋ねてくる。

「メアリー先生、ソフィア様、明日はお休みさせて欲しいとのことでした」

「そうね、今日は、少し変だったからね。明日は、負担をかけるかもしれないけどお願いね」

ローラが、メアリーたちに頭を下げてその場を立ち去ろうとした時に、カインドがローラを呼び止めた。

「ローラ、ソフィア殿に王子様からの手紙を渡したいのだが」

ローラは、自分のことのように悲しみの表情を浮かべてカインドに言い返した。

「今、ソフィア様に王子様の話は酷だということが分からないのですか? 正直、王子様にも失望しました」

カインドを睨みつけているローラを、メアリーがなだめる。

「ロ、ローラ、なんてことを言うのです。カインド、この娘も少し疲れてて……」

カインドは、ローラの肩を掴み、真っ直ぐにローラの目を見て尋ねる。

「ローラ、何を言っているか分かるように言ってくれ。誤解なら、今解かねばならない」

ローラは、カインドの真剣な眼差しに少し怯んだが、王子のソフィアに対する不義をカインドに対して抗議した。

「そのことは……、王子様も気になされている。だからこそ、この手紙をソフィア殿にお渡ししなければならないのだ」

カインドは、ローラに一緒にソフィアの家に来てくれるように頼んだ。

「ローラ、私からもお願い。昨晩、王子様からソフィアが誤解しないように協力して欲しいとお願いされていたのよ……」

ローラは、再びソフィアの家をカインドと訪れた。

しかし、ソフィアは家にいなかった。

ローラは、ソフィアを家まで送って行ったが、通りの手前で良いと言われ、そこでソフィアと別れていたのだ。

ソフィアの母親の話では、ソフィアは、ローラと夕食を食べる約束があると言って家を出たそうだ。

もちろん、ローラはそんな約束はしていない。

ローラは、カインドとソフィアを探したが、ソフィアを見つけることは出来なかった。

カインドは、明日の王子の護衛の任務の関係上、これ以上の時間を取ることが出来なかった。

王子からの手紙について、カインドはローラに託すことも考えたが、王子からの命令はソフィアに手渡すことであり、勝手な行動は取れないと城に持ち帰ることにした。

「ローラ、ソフィア殿には王子様から説明がある。王子様を信じて欲しいと、君からソフィア殿に告げてくれ」

カインドは、ローラにソフィアのことを託すと、城に帰って行った。

ローラは、しばらくソフィアの行きそうなところを探したが、ついにソフィアを見つけることができなかった。

次の日、ソフィアは予定通り子供院には出勤してこなかった。

ローラは、仕事を終えた後、ソフィアの家を訪ねたが、今日はいつもと変わらず家を出たとソフィアの母親に言われた。

ローラは、ソフィアと連絡が取れないことは不安であったが、母親の様子からソフィアが変な気を起こすことはないと思い、心から安堵していた。

実際、その翌日から、ソフィアは子供院に出勤してきている。

但し、子供たちへの態度は今までと変わらなかったが、その他の場面での口数はほぼゼロになっていた。

ローラの問いかけにも、ソフィアは首を縦、もしくは横に振るだけだった。

メアリーは、その様なソフィアの態度を心配したが、今回の件については、ソフィアと王子の問題であり、口を出すことは出来なかった。

ソフィアは、王子と隣国の王女との件以来、王子から貰った髪飾りを外していた。

ローラは、無理にソフィアの心の傷には触れようとせずに、髪飾りについても素知らぬ振りをしていた。

ローラは、いたずらに優しい言葉をソフィアにかけるよりは、時間に解決を任せる方が良いと判断したのだ。

ソフィアも、王子のことについては、ローラに話してこないのである。

数週間が過ぎた頃、ようやくソフィアはローラの問いかけに言葉を返すようになった。

少しづつであるが、ソフィアの心の傷が癒えていっているようであった。

王子とカインドは、湖畔に行った日以来、子供院を訪れていない。

ソフィアは、仕事を休んだ翌日に、メアリーに対して体調不良を理由に子供院の退職を申し出ており、ソフィアが子供院を退職する日まで、あと3日となっていた。
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