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12.穴を掘る道具をください
しおりを挟むやらかした……
盛大に、やらかした……
もう2度と理不尽に殺されたりするものか!
――という誓いを胸に、なけなしの経験値をぶっ込んで最新鋭のライオットシールドを手に入れたにもかかわらず……
1手首と1匹の仲間を従え、「いざ出陣!」などと粋がって宣言したにもかかわらず……
結果、まさかの自爆――
それもその大事な盾を放り投げ、必死に止めるミギエさんの忠告を無視して、一人敵陣に特攻し……
結果、まさかの発狂死――
嗚呼……
は、恥ずかしい! 穴掘りたい! 何個でも掘りたい! めっちゃ穴掘って埋まりたい!
残念なゴブリンによる謎のメンタル崩壊死から一体どれほどの時間が経過したのかーー
私はスキル『富江』の発動により、今回も無事100万と2回目の死から蘇った。二日酔いの100倍はあろうかという倦怠感と頭痛が目蓋を重くする。
もちろんそれが原因でというわけではないが、目が…… 目が…… 開けられない。開ける勇気が出ない。
あの時、あの後あの場がどうなったのか非常に気にはなるのだが、どうしても目を開けられない。怖い。
目を開けた瞬間、豆腐メンタルキャパオーバーな光景でも目の当たりにしようものなら、『富江』the リターンズともいうべき事態になりかねない。
うーん。果たして私は、いつ目覚めるべきなのかーー
死ぬ間際の騒然とした状況が嘘のように、辺りはやけに静かだった。そこがまた余計に、いらぬ想像を掻き立て不安を煽る。
時折、ミギエさんのあの独特な口調が、あちらこちらで聞こえる気がするのは、私の幻聴だと思いたい。思おう。思っておいた方がいい。嫌な幻聴だ。生き返ったばかりだというのに、心臓に悪い。
たまに何かが覗き込んでくるような気配がするのも、同じく気のせいだと思いたい。気のせい、気のせい。私は何も気付いてない。
だから、もう少し……もう少しだけ、このままでいさせて……
ガスッ! ガスッ!
「ヒィッ!」
「あっ、あっ……」
なんて、そんな淡い希望は、暴君ミギエの前では泡と消えるのが通常運転なわけでーー
「お、おはようございます……」
無理やり開けさせられた両眼前で、怪しく微笑む仁王立ちのミギエさんと目があった。
「それであの…… これは一体、どういう状況なのでしょうか……?」
死に戻り早々、度肝を抜かれたのは目の前に所狭しと積みあげられた人間の死体――の山、山、山……と、ーーん? ここには3人だけ……川?
男女のくくりはなくレベル帯別に仕分けされてるらしく、皆一様に下着姿。衣服や靴、装備品やアクセサリー等は、これまたきちんと整理された状態で、山の前面に並べられている。
――デジャブ! なんという既視感! これはきっと間違いなく彼女の仕業によるもの。
一体どんな事態が起こればこんな状況になるのか……
「御生還、心よりお喜び申し上げます。眼前にございますのは、我々一同よりのほんのささやかな供物で御座います。どうぞお納め下さいますようお願い申し上げます」
聞き覚えのあるイケボに、背後からそう声をかけられた。
振り返るとそこにあの小さき王の姿はなく、3メートルはあろうかという巨大な緑色のドブネズミモドキーー身体のあちらこちらから、同じく緑色の手が何本も生えているーーというか、どう見てもネズミの化け物です。はい、ごめんなさい。
「えーっと…… 一応確認しておきますが、もしかしてハツカデモルモトの王様? ……だったりします?」
首を傾げ苦笑いの私に、彼は前あし……否、右手を差し出した。その爪の先には、あの小さき王専用一角兜がーー
「我が願いをお聞き届けくださり、心より感謝いたします。貴女様のお力により、人間共に踏みにじられ続けた我々一同の尊厳、取り返すことが出来ました。貴女様は我々にとって神にも等しいお方…… これで皆思い残すことなくーー」
「――ちょちょちょ、ちょっと待って! 話が見えない! 神って何? 私の力って言われても、私何もしてない……ってか、自爆して死んでただけだから!」
あ、自分で言っちゃった…… 穴を、穴を掘れぇぇぇ!
「あっ、あっ、あっ」
「いやいや、いいから黙って受け入れろって言われても…… 出来れば私が死んだ辺りから、全部まるっと説明してくれるとーー」
「あっ! あっ!」
「え? そんな時間はないって、どういう……」
――意味? って聞きかけた私の前に、小さき王――今はもう巨大な王だけどーーの背後から、緑色の手のひらサイズの塊がゾロゾロと這い出して来た。その身体には明らかに混じり物が見て取れる。毛だったり、目らしきものだったり、手足だったりーー
「「「「「あっ……あっ……あっ……」」」」」
ミギエさんと同じ口調だが、彼等の言葉は理解出来ない。だが、その体が苦しさで震えているらしきことは、すぐに分かった。
前に小さき王がこぼした「ひどく痛むのだ」という言葉が脳裏をかすめる。
これはきっと私の影響――
私は彼等の1人を両手のひらに乗せて声をかけた。
「この姿は、あなた達が頑張って戦ってくれた結果ってことなんだね……」
思わず涙が溢れたーー
手のひらの子が、お辞儀をするように身をかがめる。
――時間がない……か……
「供物の詳細は、ミギエ様にお伝えして御座います。後ほど、ご確認下されば…… ガフッ!」
「――王ッ!」
小さき王が、深青の血を吐いた。
「我々はもうじき果てることになるでしょう。しかし、皆、悔いはございません。ですが、一つだけ主様にお願いしたき儀がございます」
「いいよ、なんでも言って」
その言葉に、手のひらの子が「あっ、あっ」と興奮して跳ね上がった。
「タラバ殿、前へーー」
小さき王の背後から、目を見張るほど美しい左耳のない少年が現れた。
少年の名は、タラバというらしい。なんでもたった一人、凌辱される魔物達を庇い、己も深い傷を負ったのだという。
「こ、この度は、我々人間が…… グスッ…… す、すみません。あの…… このような仕打ち、人間として心から謝罪いたします! 申しわけありません! 僕のことも殺して下さい! 本当にごめんなさい!」
「え?」
突然、殺して欲しいと土下座された。
――その途端、巨ネズミと緑の仲間達が一斉に騒ぎ出した。あちらこちらで「あっ、あっ」「あっ、あっ」と大騒ぎ。
「どうか! どうかこの者の生命をお救い下さいますよう…… ご慈悲を!」
「あっ、あっ」
ミギエさんにも、肩を叩かれた。
待て待て待て待て! 私は一言も、殺すなんて言ってない。一言も発してない。殺して欲しいと頼まれただけ!
「恩人を殺す趣味なんてないよ……」
ため息混じりにそう呟くと、皆の目が一斉にこちらを向いた。やだ、怖い。
件の少年も号泣しすぎで、鼻水垂らした顔のままこちらを見つめている。それでも美少年なんて、貴方どれだけ美少年なの?
「細かい経緯は全く分からないけど、私は人間だから全てが悪だなんて思ってないよ。もちろん後ろで積み上げられてるような奴らは死んで当然だと思うけど…… 皆がそれほど彼を庇うってことは、彼がそれだけのことをして信頼を勝ち得たってことなんでしょ?」
緑の衆からホッとしたような「あっ……」が漏れ聞こえる。
私は手のひらの子を丁重に床へと下ろすと、少年へと歩み寄った。
再び場に緊張が走る。
――殺さないってば! てか、殺せないよ、非力過ぎて…… なめんな、最弱のゴブリン!
私は少年の前に跪くと、三つ指をつきーー
「私は、ここに居る皆の神様でもなければ主人でもないんです。多少…… というか大分悪影響は及ぼしていますが、基本的には初対面ですし、そもそも私が偉そうに意見するのはお門違いなんですが……」
私の言葉を、皆静かに聞いてくれている。
「それでも…… 私の大切な仲間達を助けてくださり、ありがとうございました。心から感謝します」
彼の瞳を真っ直ぐに見つめ、そして深く頭を下げたーー
「あぁっ…………」
そして一斉に始まった啜り泣きが、辺りを包み込んだ。
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