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お前を愛することは無い
まどろっこしいのは嫌なので
しおりを挟む「貴女を愛する事はできない」
非常に言い難そうにホテルの庭園で、婚約相手はそう告げた。
――ふうん。そう来たか。
「ええ、良いですわよ」
私が笑顔でそう言ったのを耳にして驚きで目が大きくなる彼。
「え、でも・・・」
「所詮政略ありきの婚約ですもの。愛だの恋だの微睡こしい言葉など不必要ですわ」
これでもかという位には美しい笑顔で微笑んでやるのは、彼に対する嫌がらせだ。
いや、この場合は彼の家に対する嫌がらせか。
「いや、でも女性なら・・・」
「? 女性だから愛や恋に夢を持てとでも仰るのですか? 平民じゃあるまいし。私共は貴族ですわ。しかも領地貴族です。領民の血税でその身を作り上げているのですわ。言うならば贅沢をするのは領地を守る責務の為、言うならば領地の為の贄。特に貴族女性は領地と家の為に生かされていると言っても過言ではありません」
「贄・・・」
「そうですわ。平民なら恋愛結婚が主流になりつつあるこのご時世でも、私達の家長の世代はそうではありません。貴族女性は家長の意向に絶対服従なのが今だに当たり前の事」
「・・・」
「貴方様がこの婚約に乗り気で無いのは先程の言い分でよく理解しました」
「・・・」
チラリと彼の顔を見上げると、その秀麗な顔が青褪めてゆくのがよく分かる。
嫌味なくらいきれいな顔だ。
――甘ちゃんだわね。
「我が家に婚約の申し入れをしてきたのはそちらの都合。爵位が同じだからと言っても我が家は分家の派生でそちらは主家筋ですわ」
言外にこちらからは断れない事を言い含める私。――権力があるのはあちら側なのは一目瞭然だ。
「婚姻誓約書の提出は予定通りで宜しいですわ。それでは」
嫌味ったらしい位の美しいカーテシーを披露してやった。
×××
2週間後に父親が苦虫を噛み潰した様な顔で執務室で座っていた。
「嫡男が逃げた。どうやら駆け落ちらしい。例の『又従妹』とやらを連れて、隣国に渡ったらしいな」
「あら、そうですの」
「どうせならもっと早くに駆け落ちをすればいいものを。お陰でお前は社交界では傷物扱いだ」
「良いじゃありませんか。これで大手を振って私も好きな様に出来ますもの」
「お前、何かしたのか?」
「いいえ。『貴女を愛する事はできない』なんて言いますから、愛だの恋だの政略婚には関係ないでしょうって言っただけですわ」
「・・・その程度で揺らぐんじゃなぁ。お前の旦那には無理だよな」
「ええ。精神的に弱すぎてついて来れませんわねぇ」
「見るからにお坊ちゃんだったもんなぁ・・・」
平民スレスレの貴族家の親族、しかも年頃の又従妹を離れに住まわせて世話をしているというのは社交界でも有名だった。
その女性と嫡男がどうやら恋人同士らしいという事も――だから彼は優良物件に見えても貴族の娘達から忌避されていた。
ただ夫人がその又従妹を伯爵夫人に据えるのは反対していて婚姻は出来ないらしく、家政を取り仕切る事のできる健康で頭の良い貴族の娘を欲していたらしい。
しかも下位貴族の娘ではなく同格の爵位若しくはもっと上の家格の娘を夫人が望んだらしく、私がそのお眼鏡に叶ったらしい。
非常に迷惑極まりないが――
「で、お前はどうするんだ?」
「あら、傷物扱いですから領地に引き籠もりますわよ? 当たり前じゃないですか」
「引きこもりの令嬢が魔獣狩りの装備の手入れを父親の眼の前でするんじゃないよ」
呆れ顔の父親。
「良いじゃないですか。どうせ私の婿は領地から出ていきませんし、私も出ていけませんからね。私共が領地に貢献して社交はお兄様とお義姉様が熟してくれるでしょ?」
「結局お前、思い通りにしたなぁ・・・まぁいいか」
「ワタクシ、まどろっこしい社交なんかより魔獣狩りしてる方が性に合ってますもの」
「確かになぁ」
ウフフと笑うと、父が肩を竦めた。
「お嬢様、出発の準備が整いました」
専属執事が執務室の外からノックをしながら声を掛けてくる。
彼も既に魔獣狩りの為の装備を身に着けて凛々しい姿になっている筈だ――
「じゃあ、出発しますわ、後は宜しくお父様」
「ああ。婚姻届は提出しとくから。頑張って領地に貢献しといてくれ。明日からお前平民扱いだよ? いいのか?」
「ええ、彼と結婚できるのなら全く持って問題ありませんわ」
ガチャリ、と重々しい鎧の音をさせて、私は父に向かって最上級のカーテシーを披露した――
愛も恋も、好きな相手じゃ無いと意味はありませんわよね?
――――――――――了
お嬢様が一枚上手でした~ヘ( ̄ω ̄ヘ)
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