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異世界1.
27. 警備隊
しおりを挟むルーカスが離宮に戻ってきたのは、夕方過ぎで既に空には一番星が見え始める頃だった。
副師団長に業務の引き継ぎをして団員の訓練に付き合った後、騎士団寮で入浴を済ませてからやっと馬上の人になったのだ。
「遅くなった・・・ 望大丈夫かな」
何が大丈夫で、大丈夫じゃないのかが分からないので呟いた本人が言ったそばから否定した。
「いや、アイツのことだから絶対に変なことを何かチマチマやってるハズだ・・・」
10年離れていたとはいえ、誰かが側にいるならまだしも1人にすると突拍子もない事を思いついて実行しては、周りが驚かされるのは多分変わってないはずだ。
人間そう簡単に変われるとは思えない。
慌てて愛馬の手綱をグイと引いて離宮に馬を走らせた。
×××
離宮の庭には何時ものように、モフモフ達が耳を立ち上げたり後足で立ち上がったりして警戒をしている。
「よう、お疲れさん」
馬に乗った人物が自分達のリーダーであることが分かったのだろう。
警戒を解いて4本足に戻り、庭のクローバーを食べ始める。
「お前ら人よりやっぱ優秀だな」
彼はクスリと笑って馬を裏庭まで走らせて厩舎に繋ぐと、エントランスに向けて歩き出す、と同時に。
「きゃああぁぁぁ!」
『ガチャーン』
女性の悲鳴が聞こえ、ガラスの割れる音がして周りにいたモフモフ達が一斉に声のした方を向いて駆け出した。
ルーカスも慌てて声のした方に向かって転移魔法を展開しすぐさま跳んだ。
×××
「お食事をお持ちしました」
夕食が運び込まれ、ローテブルに並べ始められたのは夕方過ぎだったろうか。
「すご~い。
わかんないけど美味しそう。
コース料理が一斉に並んだ感じ?」
「ホントね~」
透き通ったスープは金色で湯気を立てていて、カリカリに焼いたパンや、一口大のステーキ、色鮮やかなサラダ等が次々に並べられた。
「御口に合えばよろしいのですけど」
ローザ夫人が笑顔で取り仕切る。
「この世界の食事は過去の聖女様達の御口に合うモノも多数く取り揃っているはずなのですが、どれがお好きなのかが分かりませんでしたので、一通り色々と作らせてみました」
「あ、唐揚げがある」
「出汁巻き卵?」
「これ、ひょっとしてお刺身?」
「オニギリ・・・?」
段々と並んでいくうちに見慣れたモノも並び始めるので困惑する2人。
「お好きなものはありましたでしょうか?」
「あ。はい、ありがとうございます」
「何だかお誕生日会みたいだね・・・」
取り敢えず、望はスプーンを。
涼子は割り箸を取って手を合わせた。
「「いただきま~す!」」
「あら、やっぱりソレ言うんですのね」
夫人が嬉しそうに微笑んだ。
「過去の魔女様も聖女様もその食事前のお祈りは欠かさなかったそうですのよ」
あ。やっぱ日本人だったのか・・・と思う2人である。
×××
「食後のデザートをお持ちしました」
お料理をたらふく堪能した後に、シルバーのワゴンに紅茶のポットと、銀色の大皿の上にクローシュが乗ったデザートがメイドによって運ばれて来た。
「ウ~ン、やっぱりホテルのレストランみたいだね」
「そうねえ」
2人がそういいながら開けられたクローシュの中に鎮座していた赤いゼリーのようなモノを覗き込む。
大きな丸い透明なガラスの器に、淡桃色の層と透明な赤い層が幾重にも重なったものだったのだが・・・
『ムニュリ・・・』
そのゼリーが勝手に動いたのである・・・
「キャッ!?」
「何これ?!」
「ヤダ! 何でこんなモノが!
お2人共離れてッ それは魔物ですわッ!」
「きゃああぁあ!!
フレイムスライムッ!」
部屋の中にいた全員、つまり望と涼子達だけでなく、メイドも侯爵夫人も魔物に驚いて叫び声を上げた・・・
と思ったら、あっという間にガラスの器ごと魔物は窓から外へ向かって『ポーイ』と投げ捨てられたのである・・・・
「埴輪ちゃん達・・・」
「あ。
埴輪ちゃんがおっきい」
「え。なんですの、コレ?
新種の魔物?」
「きゃああぁ!」
乳白色をした15センチ程の背丈だったはずの埴輪警備隊員が、何故か80センチほどに巨大化した姿でローテブルの上に立っていたのである。
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