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異世界1.
29. 1日の終わりに
しおりを挟む魔物が何処から侵入したのか侵入経路を確かめるために、ルーカスは厨房に行くと告げて去って行った。
「水の嫌いなフレイムスライムが下水道管を通ってくるはずがない、なら空調か・・・」
などと小さな声で呟きながら去っていく後ろ姿を見送る望は、ふと、彼に会った時に何か懐かしいものが胸に込み上げて来た事を思い出した。
――何だかそのままにしちゃいけない気がするんだけど・・・ なんだったかしら? え~と・・・
「望さん、もう寝ましょうよ~」
不意に涼子が話しかけてくる。
「ええ。あら、えと?」
何だか又掴みかけた何かが消えてしまった・・・
×××
入浴はありがたいことに普通に蛇口をひねったらお湯が出たので、そのままゆっくりと湯船にお湯を張り身体を沈めて今日1日の出来事を思い浮かべる望。
朝、空港から国際線のゲートを潜り、飛行機でフランスに向けて旅立った筈だったのだ。
シートに座りシートベルトをして動き始めた機体の振動で、まぶたが自然と下がりハイヒールもシートベルトもそのままで眠ってしまった・・・
そして目が覚めたら異世界に召喚されていて魔女だと言われ、世界を救ってくれと頼まれた。
しかもこの世界の男性と何やら愛あるセックスをしないと、この世界には定着せずに存在が消えてしまうのだという・・・
――そもそも恋愛する資格のない望に愛あるセックス? って・・・
「なにそれ?
よく考えたらどんな無理ゲーよ・・・」
風呂の湯の表面がポチャンと揺れた。
「健一以外の人と恋愛なんか出来るわけ無いじゃない・・・」
大好きだった幼馴染はもうこの世にはいない。
彼は天国に行ってしまったのだ。
――私が殺してしまったから・・・
×××
『旅行やめるか?』
電話の向こうでそう言った健一に、せっかくだからフランスに行ってきなよと背中を押したのは私だった。
初めての海外だからやっぱり一緒に行きたいと、ホントは思ってたのにキャンセルしてくれとは言えなかった。
ル・マンレースのサーキットを肉眼で見てみたいと以前笑いながら彼が言っていたのを覚えていたから。
彼と一緒にいられるのなら別に何処だって良かったのに。
素直に一緒にいて欲しい、母一人子一人だからホントは手術なんか心細いって。
言えばよかった。
止めれば良かった。
でも後悔したって遅い。
彼はもう帰ってこないから――
私が元の世界の飛行機事故で死んでしまったのは、きっと健一を死なせてしまった私への多分罰なのだ。
誰も私を責めなかったから。
神様がきっと罰を与えてくれたんだ。
10年も遅れてやってきたしっぺ返しよね。
甘んじて受けるわよ?
異世界救って、皆幸せになったら健一だけを思いながら幻の様に消えておしまいにしてしまえる。
それってなんて幸せなんだろう。
神様ありがとうございます。
そう、望はもう誰も愛さないと決めたのだ。
「そうだ!
どうせ死ぬんだから、最後に思い切り魔女ごっこやっちゃおうっと」
なんか新たに妙な決意を彼女がした気がするのは、たぶん思い違いじゃないだろう・・・
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