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異世界6.
92. 清濁①
しおりを挟むそろそろ離宮に戻ろうか、という頃になると、やっと涼子達5人も戻ってきた―― 何故かメイド2人は艶々しているし、護衛2人はゲッソリしている。
勿論だが涼子は通常運転。
「望さん、ルーカスさん、デザート食べたら戻ろうか!」
「ああ、そういやなんか残ってたな・・・」
1つだけ残っていたバスケットをいそいそと開ける涼子。
「おおープリンだ~~ ひゃ~~」
ガラス製の器に入った薄いクリーム色の上にカラメルが載ったやつだ。
「いただきまーす・・・ ウマ~~」
望はジッとガラス製の器を眺めながら、ふと初日に現れたフレイムスライムを思い出した。
「ねえ、そう言えばエル? ナントカ公爵家のバーナード? だっけ。
あの人どうなったの?」
「ん? ああ、まだ拘束中だな。あの家にとっては1人息子だから。
公爵家は対応に困ってるみたいだが。
王家側は災厄騒ぎで処理が遅れてるらしい」
「何であんな事したのかしら?」
と、望が頬に手を当てて首を傾げる。
「単に馬鹿なんじゃない?」
全然考えずに答えながら、2個目のプリンに手を伸ばす涼子。
「どうも、俺が離宮の警備に着任したんで邪魔しようと考えたらしいな」
何かを思い出す様な顔でそう言いながら、眉を顰めるルーカス。
「ぇえ? その為にあんな事したの?!」
「やっぱ馬鹿だ・・・」
――ルーカスの足を引っ張るのが生き甲斐なのかしら?
「凄い執着だね~。
ヤンデレなファン?
話し聞く限りマジでストーカーだよね。
でもさ私達に被害が起きてバレたら自分もタダじゃ済まないって何でああいう人達って理解できないんだろうね?」
涼子がプリンを頬張りながら首を捻る。
「俺にも分からん。
犯罪者の心理は複雑だ。
ただバーナードの場合は単に考えが足らんせいだとは思うが・・・」
複雑な表情をするルーカスはちょっとばかり歯切れが悪い返事をした。
「執着が病的なら、精神異常の可能性もあるわね。
この世界ってそういう病院無いの?」
「あるな・・・」
女子2人はかなり辛辣である。
まぁ、埴輪ホワイト隊とツノウサギが配備されていなかったら自分達もどうなっていたのかわからないのだから、当然といえば当然なのだが――
「ただ、あのことに関しては俺達王家側の落ち度でもある。
まさか『召喚の乙女』の滞在する場所に、よりによって魔物を紛れ込まそうとするような心持ちのある国民がいるとは考えなかったからな。
それと散々エルドモス公爵家の横暴を陳情していたフォルテリア侯爵家の言い分に耳を貸さなかった王家と重鎮達は何らかの責任を問われる可能性もある」
――もっとも、そう仕向けたのも恐らくは・・・
「ルーカス?」
「ん? ああどうした?」
「又怖い顔になってるよ?」
――ああ。
あの人のことだから、彼女達の存在が好機だと思ったんだろうな・・・
ある意味アイツは被害者なのかもな。
「いや、なんでもないよ。
食べ終わったんならそろそろ離宮に戻ろう」
日差しは既に傾きかけていて、気温が下がって来ているように感じ、ルーカスは自分のコートを脱いで隣に座る望の肩に羽織らせた。
「まぁ、望達が気にする必要はない」
「でもさ~、ルーカスさん達護衛騎士にトバッチリが来るんじゃないの?」
「そうよ、どちらかっていうとソレが気になるわ・・・」
望が心配そうな顔をして、ルーカスの顔を見上げていた。
――望、随分俺の顔に慣れてきたかな?
言葉には出さず彼が微笑むと、うっすら顔がピンク色に染まるのが可愛いと思った―― が、その反面。
「・・・」
「どうしたの?」
「いや、何でも無いよ。帰ろうか」
今度はルーカスの顔に照れる望に複雑な思いが過ぎる健一・・・ まぁ、彼の顔が変わってしまったのは仕方がない事なのだが。
男心もイロイロと複雑なのである・・・
×××
国王陛下と王太子の合同執務室・・・ 元は陛下だけの部屋だったのだが、押しかけ王太子が居座って一緒に執務をこなしている場所だ。
――現在、国王は次々と訪れる外交官との謁見に王妃と共に駆り出され、席を外している。
周りにいる文官や侍従達も慣れたもので、各自自分の主の仕事を手際よく捌いていく優秀さだ。
その中の1人が王太子の執務机に歩いて行き無言で書類を差し出し
「指示をお願いします」
と、臣下の礼をした。
「うん? ああ。
やっと処分出来るか・・・」
サラサラとペンを走らせ差し出された書類にサインをした後で、既に作成済みの1枚の指示書を机の引き出しから取り出した。
「この指示で動いてくれ。
後は各自で仕分け作業で頼む。
騎士団を通して至急人員を向かわせてくれ」
「はい。
残りはどうなさいますか?」
「ああ。
アレらは罪状というほどじゃないから放置だな。
適当な時間が経ったら代替わりをさせる。
自分達の身分が危うくなったら無駄口を叩く暇はないだろうからね」
顔はよく似ているが、フィンレー王子とは全く違う鋭い目つきが幾許か緩む王太子。
「聖女殿と魔女殿に感謝だな。
被害が出なくて良かった。
害虫駆除中の畑から間諜は引き上げさせろ」
文官はもう一度丁寧に臣下の礼を取ってドアから出て行った。
「いつまでも王家との繋がりの上に胡座をかくからだな」
王太子は一言漏らすと、次の書類に目を通し始めた。
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