【完結】引きこもり王女の恋もよう〜ハイドランジア王国物語〜

hazuki.mikado

文字の大きさ
15 / 100
episode1 出会い。其れは唐突にやって来る♡

15話 花より●●●!

しおりを挟む

 その日は曇り空が広がるあまり良い天気とは言えない日であった。

 夜会前日に転移門を使い、ハイドランジア王国のフリージア城に戻ると自室へと籠もりトリステス帝国で入手した紡績に関する資料を整理して自身の管理する棚に溜息を付きながら置くと


 「夜会は嫌いなのよねえ」


 と呟くシンシア王女。

 自国の夜会ですら出来るだけ出席したくないのに、他国の夜会とか気が重い。こんなことなら最初から社交不要の申し出をしておくべきだったと今更ながら悔やむ王女殿下。


 「面倒臭いけど仕方ないわね・・・」


 一緒に帰ってきた侍女が最新のドレスをトルソーに着せ、手入れをするのをソファーに座りながら見つめる。


 「お披露目の機会と思って我慢するしかないわね・・・」


 トルソーにかけてあるドレスはハイドランジアに昨年出来たばかりのダンジョンで採掘された赤い魔石を染料として作ったものである。

 真っ赤な布地全体に星のように輝く銀色の輝きが散りばめられていてとても軽いのが特徴である。

 煌めきを演出するには普通ならドレスを仕立てた後でガラスや宝石のビーズを縫い付け輝きを付け加えるのだが、この新しい布地はそれ自体が煌めきをもつため、ビーズを使う必要がなく軽い仕上がりになるのだ。

 そして、この布を発案し研究を重ねて作り上げたのはシンシアである。


 「此のために紡績を学びに行ったんだからアピールしなくちゃいけないんだけど・・・」


 何しろ本来引きこもりが大大大好きな王女である。


 「自信ないわぁ・・・」


 なんとも心許無い次第である。


××××××××××


 「で? 俺にどうしろと?」


 ルクス神殿の応接室である。


 「一緒に夜会に・・・」

 「行けるわけ無いだろう。あの国にはがいるんだぞ?」

 「そこをなんとか」


 弟分であるミゲルはハイドランジアの夜会において度々シンシアのエスコート役を務めていた。

 其のため社交が苦手なシンシアは彼が居ることに慣れきっている。

 今回の帝国の夜会に一緒に出てもらえないかお願いしに来たのであるが・・・


 「俺を国際的ストーカーの餌食にしたいのか?」


 額に井桁マークが浮かぶミゲル。

 そう、トリステスの皇城の夜会でロザリア皇女に会わずに済むわけが無いのである。


 「今回トリステスに護衛で俺たちが行けたのは隠蔽魔法で姿を消していたからであって、それなしの夜会とかは絶対に無理! トリステスに喧嘩売りに行くようなもんだろ? アレが俺に近寄ったら帝国が賠償金払う取り決めがあるんだぞ!?」


 「ああぁ。そうだったわ・・・ 忘れてた!」


 眉をハの字にして額を押さえてしまうシンシア王女。


 「お前のエスコートは皇帝陛下がしてくれるんだろ? だったら男は駄目だ。第一魔石の染料のお披露目なら其のためのドレスなり貴族服なりが必要だろうが」

 「なるほど・・・ ドレスならあるわ」

 「? お前のドレスだろ?」

 「ううん。他にもあるの。母上とエリーナとミリアちゃんのドレスよ」

 「・・・ おい。エリーナと姉上はまだしも何でミリーのがあるんだよ?」

 「え、縫製班が作ってたわ。母上の指示で。エリーナのを作るならミリアちゃんのも作るんだって張り切ってたわよ」

 「・・・ ミリーは駄目だ! トリステスの夜会なんかには出さねえからな!」

 「ケチ」

 「ケチで上等だ!!」


 睨み合う2人。


 「あのう・・・」


 先ほどからミゲルの膝の上に鎮座しているミリアが恐る恐る手を上げる。


 「私、ここにいるんですけどお」

 「「知ってる」」

 「あ、ハイ」

 「俺がエスコート出来ない夜会になんか出席させねえ!」

 「「あ、ハイ」」


 ミゲルが本気でオカンムリ! である。


 「かと言って、エリーナは皇太子の婚約者だし、ハイドランジアの王妃を引っ張っていくわけにはいかないし・・・」

 「お前1人で頑張ってこいや」


 冷たい叔父である。シンシアより年下だが。


 「そこを何とか・・・」


 食い下がるシンシアを見て、ふと気がついたミリアンヌ。


 「シンシア様、男性の夜会服はあるんですか?」

 「え? 男性用のタキシードとかならあった気がするけど。体型によっては多少手直しが必要かも」

 「じゃあ、それをミハイルさんに着てもらってドレスを私が着て出席するのはどうでしょうかね? 要はミゲル様とミリアンヌじゃなければいいんでしょう?」


 因みにミハイルはミゲルの冒険者としての活動名である。


 「「・・・・」」

 「私も、色変えの魔法は上手になりましたよほら」


 ミゲルの膝の上のミリアンヌの艷やかなストロベリーブロンドが、ダークブロンドに変化した。随分印象が変わるが、目の色は元のままのスミレの様なタンザナイトブルーである。


 「ギルドに行くときは髪の色で身バレするんで、習得しました。ミゲル様は元々上手だから目の色も変えられるんですけど、おぇっ!」


 ミゲルが突然ぎゅむっとミリアを抱え込むと不満げな顔でシンシアを睨む。


 「あー、狭量なんだから・・・ じゃあ、お礼に何か・・・ そうだ! リンデンのチョコレートとかは? お母様がお取り寄せしてる年に1回しか手に入らない王族御用達の限定品よ!」

 「え、リンデンの取り寄せチョコレート! え、ほしいです! 夜会行きます! ミゲル様、お願い!」


 因みにリンデンは別名『お菓子大国』である。


 「分かった・・・」


 腕の中でチョコレート欲しさに暴れている恋人にガックリ肩を落とすミゲルであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

キズモノ令嬢絶賛発情中♡~乙女ゲームのモブ、ヒロイン・悪役令嬢を押しのけ主役になりあがる

青の雀
恋愛
侯爵令嬢ミッシェル・アインシュタインには、れっきとした婚約者がいるにもかかわらず、ある日、突然、婚約破棄されてしまう そのショックで、発熱の上、寝込んでしまったのだが、その間に夢の中でこの世界は前世遊んでいた乙女ゲームの世界だときづいてしまう ただ、残念ながら、乙女ゲームのヒロインでもなく、悪役令嬢でもないセリフもなければ、端役でもない記憶の片隅にもとどめ置かれない完全なるモブとして転生したことに気づいてしまう 婚約者だった相手は、ヒロインに恋をし、それも攻略対象者でもないのに、勝手にヒロインに恋をして、そのためにミッシェルが邪魔になり、捨てたのだ 悲しみのあまり、ミッシェルは神に祈る「どうか、神様、モブでも女の幸せを下さい」 ミッシェルのカラダが一瞬、光に包まれ、以来、いつでもどこでも発情しっぱなしになり攻略対象者はミッシェルのフェロモンにイチコロになるという話になる予定 番外編は、前世記憶持ちの悪役令嬢とコラボしました

【完結】平安の姫が悪役令嬢になったなら

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢に転生した、平安おかめ姫と皇太子の恋物語。  悪役令嬢のイザベルはある日、恨みをかったことで階段から突き落とされて、前世の記憶を思い出した。  平安のお姫様だったことを思い出したイザベルは今の自分を醜いと思い、おかめのお面を作りことあるごとに被ろうとする。  以前と変わったイザベルに興味を持ち始めた皇太子は、徐々にイザベルに引かれていき……。  本編完結しました。番外編を時折投稿していきたいと思います。  設定甘めです。細かいことは気にせずに書いています。

処理中です...