【完結】引きこもり王女の恋もよう〜ハイドランジア王国物語〜

hazuki.mikado

文字の大きさ
69 / 100
episode3 幸せになりたいなら、なりなさい

11話 価値 

しおりを挟む
 色々と思い出し渋顔になりながら珈琲を一口飲むグエン。


 「兎に角だな、俺は領主である王弟殿下の要請でここに来たんだ。愚王からの要求が余りにもおかしいからっていうんで、取り急ぎ俺だけスクロールで移転してきた所だったんだよ。俺の私兵連中はもうすぐ船で追っかけて入港する予定だ」

 「要求がおかしいとは?」


 ハイドランジアのギルド長である強面のダンが首を傾げながらグエンを見つめ、他の二人も同様に褐色の皇帝に目を向けた。


 「首都であるクラーグに来いってのは分かるんだが、この領を国王の直轄地にするってんだ。つまり、王弟である公爵閣下の領地を取り上げるってことだな」

 「「「は?」」」

 「おかしいだろ?」

 「確かに・・・」

 「しかも、領主館を引き払うようにという国王からの命令も出たらしい」

 「はあ? つまり国王が完全にこの領地を取り上げるつもりってことですよね?」


 今度はシャガルのギルド長であるセインが呆れた声を出しながら、ズレそうになった銀縁眼鏡を手で抑えた。


 「何の咎も無いのにですか?」


 複雑な顔をするミハイルミゲル
 

 「ああ。特に理由はないらしい。ただなぁ、ここの公爵である王弟殿下は国王の異母弟ではあるんだが、母親がちょっと特殊でな・・・」

 「特殊?」

 「奴隷階級の娘だったらしいんだ」

 「「「?!」」」

 「驚くなよ? 公爵閣下の瞳の色は、濃紺でな、小さいが金色の星が浮かんでるんだよ」

 「「「! それって・・・」」」

 「彼の母親が元を辿ればハイドランジアの王族に繋がる血筋の女性だったらしいな。そのせいっていうか、お陰って言やあいいのか分かんねぇが、未だに生きてるんだよ」

 「未だに?」


 ミハイルが首を傾げたがダンとセインは頷き、首を捻る彼に説明する。


 「他の兄弟達は全員が不審死を遂げてます。残った甥や姪はいますが、全員が王宮に引き取られていますね。奥方達は色々で、それこそ実家に帰った者や夫の死後王城に登城して後宮に入った者、中には夫婦揃って亡くなった方もいるようですが・・・ まあ、この国の王族は代々そんな感じみたいですね」


 説明しながらセインが珈琲カップに口を付けた。


 「私もこの国のギルド長になってから知りましたが、まあ知れば知る程生臭い国ですよ」


 眼鏡の奥の切れ長の目は細められ、何を思っているのかは伺い知れない。
 この閉鎖的で時代錯誤な国では、ギルドも色々な苦労があるのだろう。


 「公的には知らされていないし、諸外国にも伝わってはいないが内部に入って歴史を知れば、まぁ推察するのは簡単だからな。ただ物的証拠がなさ過ぎるんで憶測の域を出ないって状態だ。ギルドでも上層部にしか知られてないが、閣下は流石にご存知のようですね」


 厳つい顔のダンがそう言うのを聞きながらグエンは肩をすくめた。


 「まあ、蛇の道は蛇って言うだろう? 一応商売だからな」


 グエンは一口冷めかけた珈琲を啜ると


 「今回ばっかりは身の危険を感じ取ったらしく王弟殿下から要請が来たんだよ魔法便でな。相談って事にはなってるが、どうもが彼を公爵の地位から引きずり落としてにするつもりかも知れないって書かれてたんだ」

 「「「!?」」」


 ギルドの三人組が驚いて同時に飲みかけの珈琲を吹きそうになる。


 「いくらなんでもそれは・・・」

 「一国の王弟を奴隷にするなんて醜聞でしょう。しかも義理とはいえ自分と血の繋がりが・・・」

 「・・・・」


 冷めてしまった珈琲を飲み干すグエン。


 「このシャガルって国は王位争いを血の繋がった兄弟同士で絶え間なく続けてきた歴史を持ってる国だ。今の王だって他の兄弟を押しのけて王になった筈だ。そんな奴が今まで愛妾から生まれた義弟を生かして置いた理由は?」

 「「「・・・」」」


 三人は押し黙った。


 「其れだけの価値があるということでしょうね」


 珈琲の飛沫が付いてしまった眼鏡のレンズをハンカチで拭きながらセインが答えると、頷くグエン。


 「聖魔法が使えるからか?」


 ミハイルが忌々しそうに答えると、グエンは首を横に振った。


 「いや、実はな、瞳の星が発現したのはここ半年位の事で、聖魔法の事は愚王は知らんらしい。ただ魔力持ちで多少なりとも魔法が使えるから便利な駒として生かされているのだろうと本人は言ってた。まあどちらにせよ豚野郎にとっての彼の価値はそこら辺なんだろうな」


 そう言ってのけた彼の顔は、再び渋顔に戻っていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

一体何のことですか?【意外なオチシリーズ第1弾】

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【あの……身に覚えが無いのですけど】 私は由緒正しい伯爵家の娘で、学園内ではクールビューティーと呼ばれている。基本的に群れるのは嫌いで、1人の時間をこよなく愛している。ある日、私は見慣れない女子生徒に「彼に手を出さないで!」と言いがかりをつけられる。その話、全く身に覚えが無いのですけど……? *短編です。あっさり終わります *他サイトでも投稿中

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...