【完結】引きこもり王女の恋もよう〜ハイドランジア王国物語〜

hazuki.mikado

文字の大きさ
83 / 100
episode3 幸せになりたいなら、なりなさい

25話 猫の価値観 

しおりを挟む
 「待ってくれ、聖獣殿! 城が崩落って!?」

 「聖獣殿? どういうことでしょう!?」


 メルヘンは両耳を後ろに向けて


 「吾輩、耳が良いのでそれ程大声で言わずとも聞こえます」


 迷惑そうに尻尾をパタリと動かした。


 「ギルド所属の冒険者が坑道跡を突き破りまして。出た場所が偶々王城の地下牢でしたが、そこに偶々シンシア殿下がいたのです」

 「「はあ?」」

 「吾輩も偶々シンシア殿下を救出に出向き其の場におりましたので、王女殿下と、あくまでもに冒険者達を神殿に送った後で地下牢に戻り彼等の作った亀裂を調べたのです。時すでに遅く、亀裂の始まりとなった地下牢は埋没して消失しておりましたが、廊下はまだ健在でした。吾輩の見積もりではまあ、ほぼ全部壊滅というところでしょうね」


 若干引き攣りながら2人がメルヘンに向って、


 「「それって王城が?」」

 「そうで御座います」


 メルヘンは丁寧に立ち上がってお辞儀をする。


 「そもそも吾輩、主人であるミゲル様以外の命令は受け付けませんがシャガル王国製の粗悪転移スクロールが吾輩の結界に干渉し大変不快な思いを致しました故、王女殿下もお救いしましたし、冒険者達はミゲル様のお知り合いでしたので連れ帰ることに致しました」


 呆然とする2人を他所に、淡々と続けるメルヘン。


 「ここに報告に来ましたのは、ミリアンヌ様とネイサン様のにて参りました。一国の王城の崩壊は大変な事件らしいのですが、吾輩の優先順位は主であるミゲル様の安全ですので、大変な事かどうかは御二方にご判断を委ねる所存で御座います」

 「・・・・・・」


 公爵が無言になり、


 「そういや、聖獣殿はミゲル殿以外の命令は、聞かないんだったな」


 頭を抱えてグエンが呟く。


 「はい。ミリアンヌ様とネイサン様のお願いは聞くようにとミゲル様から承っております故」


 更に丁寧にお辞儀をする白猫。


 「それでは此れにて失礼して・・・」

 「待て待て待て待て!! 待ってくれ!! 聖獣殿ストップッ!」

 
 メルヘンが又耳を後ろに向ける。


 「何で御座いましょう? グエン陛下」

 「頼むから待ってくれ、城が崩壊したら中の人間が呑み込まれちまうんじゃ無いのか?」

 「まあ、普通はそうで御座いますね」


 白猫は事も無げにそう言いながら毛づくろいを始めた。


 「罪の無い人が死んじまうじゃないか!?」


 メルヘンはキョトンとしてグエンの言葉に首を傾げる。


 「死にませんよ」

 「「え?」」

 「ミリアンヌ様がそんなことはお許しになられないでしょうから」

 「え?」

 「え~と、どういう事だい?」


 2人が同時に白猫に問うと


 「『他所のお城が壊れてしまいますわ、どうしましょう?』とシンシア様が神殿で心配なされまして」

 「へ?」

 「え?」

 「ミリアンヌ様が、『じゃあ、チョットそれ止めてくる』と言って転移なさいました」

 「へ?」

 「え?」

 「お勉強中でした故、ネイサン様が怒って追いかけまして」

 「「??」」

 「『崩落はあの国にとっていいだから、生き物だけ助けなさい』と説教しましたので、人は多分大丈夫でしょう。人も生き物ですよね?」

 「「はぁ・・・」」


 どうやら聖獣の価値観は自分達とは全く違うらしいと思い知ったグエン陛下と、スハイド公爵。


 「聖獣殿確認していいかな?」

 「はい。何でございましょう陛下」

 「さっきの良いことと悪いことの2つ、な?」

 「はい」

 「ひょっとしてシンシア殿がミゲル殿の親族だから『良し・悪し』があったのか?」


 白猫はさも当然だろうという感じで尻尾を左右に動かすと


 「当たり前で御座いましょう。シンシア殿下はミゲル様の姪御様、家族同然で御座います」


 そう答えたのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん
恋愛
傲慢で横暴で尊大な絶世の美女だった公爵令嬢ギゼラは聖女に婚約者の皇太子を奪われて嫉妬に駆られ、悪意の罰として火刑という最後を遂げましたとさ、ざまぁ! めでたしめでたし。 ……なんて地獄の未来から舞い戻ったギゼラことあたしは、隣国に逃げることにした。役目とか知るかバーカ。好き放題させてもらうわ。なんなら意気投合した隣国王子と一緒にな! ※小説家になろう様にも投稿してます。

忖度令嬢、忖度やめて最強になる

ハートリオ
恋愛
エクアは13才の伯爵令嬢。 5才年上の婚約者アーテル侯爵令息とは上手くいっていない。 週末のお茶会を頑張ろうとは思うもののアーテルの態度はいつも上の空。 そんなある週末、エクアは自分が裏切られていることを知り―― 忖度ばかりして来たエクアは忖度をやめ、思いをぶちまける。 そんなエクアをキラキラした瞳で見る人がいた。 中世風異世界でのお話です。 2話ずつ投稿していきたいですが途切れたらネット環境まごついていると思ってください。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

キズモノ令嬢絶賛発情中♡~乙女ゲームのモブ、ヒロイン・悪役令嬢を押しのけ主役になりあがる

青の雀
恋愛
侯爵令嬢ミッシェル・アインシュタインには、れっきとした婚約者がいるにもかかわらず、ある日、突然、婚約破棄されてしまう そのショックで、発熱の上、寝込んでしまったのだが、その間に夢の中でこの世界は前世遊んでいた乙女ゲームの世界だときづいてしまう ただ、残念ながら、乙女ゲームのヒロインでもなく、悪役令嬢でもないセリフもなければ、端役でもない記憶の片隅にもとどめ置かれない完全なるモブとして転生したことに気づいてしまう 婚約者だった相手は、ヒロインに恋をし、それも攻略対象者でもないのに、勝手にヒロインに恋をして、そのためにミッシェルが邪魔になり、捨てたのだ 悲しみのあまり、ミッシェルは神に祈る「どうか、神様、モブでも女の幸せを下さい」 ミッシェルのカラダが一瞬、光に包まれ、以来、いつでもどこでも発情しっぱなしになり攻略対象者はミッシェルのフェロモンにイチコロになるという話になる予定 番外編は、前世記憶持ちの悪役令嬢とコラボしました

【完結】平安の姫が悪役令嬢になったなら

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢に転生した、平安おかめ姫と皇太子の恋物語。  悪役令嬢のイザベルはある日、恨みをかったことで階段から突き落とされて、前世の記憶を思い出した。  平安のお姫様だったことを思い出したイザベルは今の自分を醜いと思い、おかめのお面を作りことあるごとに被ろうとする。  以前と変わったイザベルに興味を持ち始めた皇太子は、徐々にイザベルに引かれていき……。  本編完結しました。番外編を時折投稿していきたいと思います。  設定甘めです。細かいことは気にせずに書いています。

処理中です...