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23 狼狽
しおりを挟むいいか、俺、よく聞け俺。
彼女はもう俺の妻じゃない。
アイツの嫁だ。
他所んちの嫁さんだ。
しかもウチの商会の宝飾品部門のモデルさんだ。
俺は云うならば彼女の雇い主であって保護する責任がぁ・・・ じゃ無くて、安全に彼女の家に送り届ける責任があるんだから。
よしッ、俺は大丈夫 ――
「とにかく落ち着こう」
「あら、私は落ち着いてるわよ。貴方が慌ててるのよ?」
「・・・ スマン。確かに」
「ウ~ン、困ったわね。タウンハウスに私も泊まるつもりだったのに。鉢合わせしちゃうのかしら? どうしようかしら」
腕を組んで考える彼女。
「行ってみてから、考えるか?」
「そうね。私も急に仕事になったから、予定を彼には伝えてないのよね」
意外にあっけらかんとした彼女に眉を顰める。
「ひょっとして、前からあんな事が度々あったのか?」
「昔っから、寄ってくる女の子を構う癖はあったけれど。まあ優柔不断なのよね、結婚するのは絶対に私だって言い張ってたくせにね。でも浮気の現場を見たの初めてよ? 彼は釣った魚は逃げないとでも思っているのかしらね」
彼女の形の良い眉がピクリと上がる。
でもその下のエメラルドの瞳が少し揺れてるのが見えて・・・
俺がアイツに騙された気分になってるのは、イケナイことじゃないと思いたい――
「じゃあ、君んちのタウンハウス迄行こう。考えるのはそれからだな」
「貴方、目が据わってるわよ、大丈夫なの?」
「大丈夫じゃない。アイツに騙された気分で無性に腹が立ってる」
「ほんと、正反対の性格よね貴方達って。だから仲良くなれたのかもね」
彼女は少しだけ微笑んだあと、降り続く小雨で烟る窓の外の景色に視線を移す。
俺は御者に行き先の変更を告げた。
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