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40 子供
しおりを挟む唐突に彼女が『諦めて一度戻るわ』と言い残して侯爵家に戻って2ヶ月。
空気の焼けたような熱い匂いが風に混じり始めて外回りをしていると額に汗が滲む。
気がつけば夏が近い。
弟と元妻が立ち上げたモデル事務所は稼働を始めたようだが俺の仕事はあまり変わり映えする筈もなく、相変わらず朝出社してはドサ回りだ。
彼女の事はアイツと上手くやっているのかが気にはなったが、敢えて連絡はしなかった。
夫婦喧嘩は犬も食わないって云うだろう? 下手に元夫なんかが手を貸すと余計に拗れる原因になりかねない。
そう思っていたんだ。
『ねえ、また別邸を貸してくれる?』
彼女が泣いて電話をしてくる迄は――
「どうした? 何かあったのか?」
電話の向こうで鼻を啜り上げる音がした。
『もう、ここには居たくないの』
「?」
『子供が出来たの』
「え?」
『彼に子供が出来たのよ』
「えぇ・・・、君にじゃなくてアイツの? え? 学生の時男だったよな?」
動揺して変なことを言ったけど、多分違う――
『あの時の女に子供が出来たのよ』
ああ・・・ 最悪だ・・・
「迎えに行こうか?」
『ううん、1人で行けるわ』
彼女は、辻馬車で1人で来るという。
「いや、迎えに行く。待ってろ」
アイツを殴らないと俺の気が済まない。
今度こそ鼻をへし折ってやる――
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