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137 隣国訛

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 軽くつまめる軽食やオードブルの並ぶテーブルに共に歩いていく間、領主の新しい妻が夫にエスコートされているにも関わらず、隣から何度も頬を染めて上目遣いで此方を見上げて来るのが不快だったが、話しかけられて受け答えをするうちに、僅かに異国訛があるように感じた。


 「失礼ですが今の奥様は、隣国の方ですか?」


 驚いたような顔をする夫妻を横目にニコリと笑いながら、


 「少し隣国の訛があるような気がしただけですよ」


 そう返すと、


 「ええ、妻は隣国に留学した経験がありましてね、その時の訛りが抜けないようです」

 「ほう、お若いのに言葉が元に戻らないとは結構長い間あちらに滞在していたのですね」


 よく見れば俺とあまり変わらないか少し年上位の年齢だろう? 

 30年前に締結したとはいえ隣国は戦争をした相手だ。 

 本当に女性が留学していたのなら、えらく先進的な考えの家の生まれだな? 


 成る程な・・・






 その後はテーブルに載っていた料理を勧められて渋々ローストビーフに手を付けた。


 あちらも其れは食べていたからに過ぎないが・・・


 やって来たウェイターの銀盆トレンチの上に乗っていた飲み物を勧められたが、ウィスキーグラスを手に乾杯をしただけで飲んだふりで口にはせずやり過ごす。


 「綺麗な色ですねそのカクテル」


 サーシャ嬢がカクテルグラスに入った薄桃色の飲み物を手にしていた妻と名乗る女性に声を掛けた。


 「え? ええ。先程の給仕係が持っていた中にありましたのよ。お気付きではありませんでしたの?」

 「ええ。全く」


 無邪気に笑うサーシャに俺は首を傾げた。


 「私のものと交換して頂けます? 私もまだ口は付けていませんの」


 彼女が差し出したのは薄紫のカクテルだった。


 「え?」


 一瞬だが戸惑った後妻はサーシャ嬢とカクテルを交換したが、渋々といった様子に見えた気がした。


 「いやあ、若いお嬢さんは好奇心旺盛で良いですな」


 伯爵はサーシャ嬢がソレをチビチビ飲んでいるのを笑って見ていたが、後妻の方は何だか顔色が悪いような気がした・・・




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