不可解部の活動記録01 File02色戦争 ~悪魔やら謎の組織が出てきて夏休みは犠牲になりそうですが、仲間と共にこの街を救います~

西東惟助

文字の大きさ
7 / 30
色戦争、その前

第7話 8月5日-4 黒の襲撃

しおりを挟む
 風名かぜなの登校方法はというと徒歩だった。自転車での通学も考えたが、歩く方が性に合っていた。自転車を運転しながら何かを考えていては危ないと常々思う。

 五木のことを考えていた。ゴールデンウィークの事件を経て、彼はある記憶を失っている。本人は知らないが。

 何がきっかけで記憶を取り戻すかわからない。些細なことでも試していた。

 多少攻撃的に見えるだろう五木への接し方もその一環だ。あれは先の事件以前の風名の態度だった。

 異能を持つ人間は基本的に警戒心が強い。前々から知っていた剣にはそんな警戒を抱くことも無用だった。対して、ゴールデンウィークまでその異能をベールに包まれていた五木を風名は警戒した。

 ノーマーク、そして情報皆無。得体の知れない少年。異能を知らない。そんな五木の異能を知りたいと風名は思った。なんとかして引き出そうと、あえて厳しく接した。

 友人から五木が気になっているのでは、と指摘された時には否定したものだ。だって単なる好奇心しかなかったのだから。そう

 それがいつ変わったのかはわからない。

 気配を感じた。
 
 調べもののため手にしていたスマートフォンは思考に耽っているうちに画面が暗転していた。
 ロックを解除し、チャットアプリを起動する。
 
 フリック入力で「追跡者あり」と、二名に送信。そもそも両名に刺客が迫っているのかはわからないが、念のため。

 魔力を練る。

 風の衣で身の回りを包み、簡易的な鎧を作る。
 この一連の魔法を相手に気取られることないよう、詠唱せずに行う。

 風の衣の構築を待っていたかのように、バレーボール大の火の玉が迫りつつあった。それも一つではなく十を超える数だ。

 それはすべてその体、衣服に火を落とすことなく掻き消えた。ちょっとした攻撃なら自動で風の衣が防いでくれる。

 やはり襲撃しゅうげきか。昨夜の犬と無関係ではあるまい。刺客の正体については例の狼の正体が正しければ、推測通りだろう。

「魔力を感知させないなんて、若いのにいい技持ってるじゃない」
「へえ、おねえさんも魔法使いかぁ」

 女性の声に対し、振り返らずに風名は言った。
 改めて向き直ると、相手は黒いフード付きローブを着た人物だった。その物言いから、自分より年上だろうと風名は当たりを付けた。

 火の玉に込められた魔力の量はごく少ないものだったが、それでも風名には魔法の産物であることは感知された。相手もおそらく無詠唱で魔法を使ったのだろう。

「私は黒騎士」
「……色の騎士団コロル・エクェス?」

 自身の推測は当たっていた。なら、昨日の狼の正体は――。

「そう。知ってるんだ」

 黒騎士は看破かんぱされても大して驚いた様子を見せない。

「ちょっと待ってねメール打つから」

 黒騎士の思惑は測りかねた。攻撃してきたと思えばすぐに姿を現し、メールを打ち始める。黒いガラケー。その指さばきはとても速い。

 仲間でも呼んでいるのではないか、そう思い、ガラケー目掛けて風を放つ。ラピドゥス・ウェントゥス。速い風。音を超えない速度の小さな風の刃。
 不可視の刃は黒騎士の手から十数センチのところで燃えた。

「あなたも無詠唱?」

 知ってはいたが、風名はいた。

「そっちこそ。安心して、仲間を呼ぶわけじゃないから、ただの報告」

 黒騎士は画面から目を離さず言った。

「報告?」
「あなたは及第点ってこと」

 メールを送信したのか、黒騎士はガラケーを閉じ、黒装束のポケットにしまう。

「あなた、昨日の狼と関係あるの?」
「時間もあることだし、お話ししましょうか」

 質問には答えず、黒騎士は右を指さす。公園がある。指は四阿あずまやに向いていた。
 四阿の下には四人掛けのテーブルと椅子がある。

「立ち話じゃなんだからってこと?」

 思わず笑いそうになる。得体のしれない人物と座って話など、風名はそう思いつつも考量し、提案に乗ることにした。

「いいじゃない。あなたならわかるでしょ。私に戦闘の意思はないって」

 その通りだ。同じ魔法使いならなんとなくではあるが敵意殺意の有無はわかる。事件について手がかりがないことも手伝って、話をした方が得策だという思惑もある。それに自分の推測の答え合わせもしたかった。

「わかった」

 本当に小さな公園だった。庭付き一戸建てが立ちそうな敷地に四阿とブランコ、滑り台程度しかない。

 道もなく、短く揃えられた草むらの上を歩いた。四阿に到着すると、お互いに向かい合って座る。

 黒騎士は黒いフードを外す。金色の髪が揺れる。
 金髪碧眼へきがんの少女。とはいえ対峙したときにわかったように背は風名より高い。ゲームや物語のエルフがそのまま出てきたような風貌。それでもその顔つきは自分よりも年下なのではないかと思うくらいだ。

「これでも飲酒はできる歳だから」

 風名の疑問に気が付いたのか、黒騎士は笑ってそういった。若く見られることに慣れているのだろう。
 確かに上背は西洋人の成人女性のそれだ。そしてその西洋人然とした顔から発せられる言語は流暢な日本語であることも風名を驚かせた。

「本題に」

 そう言って黒騎士が取り出したのは天秤てんびんだった。

「マギア・リーブラ。えっと、魔法の天秤。嘘を看破する」

「黒騎士の天秤……」

 ふと漏らした風名の言葉に黒騎士は黙って頷いた。
 黒騎士は片側に白い羽をそっと乗せる。当然羽の方に天秤は傾く。

「私は男」

 天秤の何も乗っていない方が下がった。

「話した言葉に嘘があれば羽は持ち上がる。嘘は羽よりも重いらしくてね」

 この場で話すことに偽りはないという意思表示だろう。同時に風名の逃げ道をもふさいだ。互いに嘘がけない状況を黒騎士は作り出した。

「あの狼について見当はついてる?」
「ええ、少しは」

 天秤は羽の方へ傾く。こちとら大した情報は持っていない。あるのは推測だけだ。それならば存分にこの訳知り顔の黒騎士を利用してやろう。

「あれが悪魔、それもソロモンのものだということも?」
「マルコシアス、でしょ」

 すぐに切り込む。回りくどいのはなしだ。
 
「直接見ていないのにわかるのね」

 黒騎士は感心したように言った。「狼 悪魔」の検索でトップにWikipediaが出てきた。そのことは黙っておく。直接見ていないことは言っていないはずだが、何かからくりがあるのだろう。

「ほとんど当て推量。とりあえず名前を出してみただけ。それと、騎士団が来ているから、確信した。これは、召喚士案件?」
「その通り。悪魔を使役する召喚士が騎士団の敵の一つだから」

 天秤は傾いたままだ。ここまで嘘はない。

「ジョルジュ・ランベールはご存じ?」
「あの予知夢よちむの? 彼も騎士団なの?」
「協力者ね。その予知夢の彼のおかげで私たちはここへ来た」

 ジョルジュ・ランベール。フランスの特殊魔法使い。魔法の才能は普通だが、彼の最大の魔法は夢の中で十全に発揮される。

 人呼んで予知夢のランベール。

 彼の見る予知夢が実際に起こる確率は九割を超える。そしてその予知夢は人間の行動次第で変えることができる。
 外れたとみなされているものはすべて誰かが変えるという意思を以って介入し、結果を変えたものだ。

「どんな夢?」
「それは明日まとめて話す。明日の午後四時、あなたたちの部室に行く。待っててね」

 悪戯っぽく笑って見せる表情は飲酒できる大人がするには歳不相応にみえるが、その顔にはとても似合っている。初心な男や、あのお人よしの五木あたりは騙されてしまいそうだとさえ、風名は思った。

「嵐呼家は最近どう? お姉さんは元気?」

 黒騎士はもう本題の話をする気はなさそうだった。急に姉の話をされて驚いた。

 姉は行方不明になっている。

「うちは、良くも悪くも普通。姉は……」
「お姉さんのことはまだわからない。そうでしょ。私も探してる」

 答えに困った風名に黒騎士は言った。その口から姉の話題が出るとは予想もしていなかった。

「ヒカタは私の学友でね。親友、だったと私は思っている」

 ヒカタ。嵐呼日方ひかた、確かに姉の名だ。ふと姉の話によく出てくる名前があったことを思い出した。それが黒騎士なのだろうか。

「あなたは――」
「名前は言わないで。今は黒騎士、だからね」

 風名の言葉をさえぎる。寂しげな表情を浮かべる黒騎士はおそらく姉のよく話していた人物に違いない。姉のことについて尋ねたい衝動しょうどうられたが、その感情は抑え込んだ。
 
 おそらく黒騎士も姉を捜しているのだろう。ただ、何かを知っているようには見えない。

「……お話はここまで。あ、最後にもう一個質問。五行五木君は風名ちゃんにとって特別な存在?」

 童のように悪戯っぽい笑顔で黒騎士は言った。

 風が強く吹いた。天秤の羽は空へと舞い上がり、薄闇うすやみの中に呑まれて消えた。

「五木はただの仲間。あとちゃんはいらない」

 風名はゴールデンウィークのことを思い出しながらもそう答えた。これは嘘だ。だから羽を風で飛ばした。

 飛んで消えた羽が乗っていた方の天秤が浮き上がったのを見たのは黒騎士だけだった。

 嵐呼風名にとって五行五木は特別な存在。そんなことは自分自身が一番知っている。天秤を見るまでもない。

「だいぶ今回の件から話が逸れたね。これだけ教える。ここに危機が迫っている。明日、必ず待っていて」

 黒騎士は立ち上がりそう言った。

「ええ、納得のいく説明をお願い」

 続いて風名も立ち上がる。

 風名が欧州の飲酒可能年齢に思い至り、黒騎士は油断ならない女性だと思うのは少し後の話だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

処理中です...