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色戦争、その前
第16話 8月7日- 召喚士
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そろそろ悪魔たちの限界も近い。召喚士は部屋で一人そう考えた。裸電球一個の照明では部屋を全て照らすには足りない。
簡素な部屋だった。パイプベッドと木材をただ組んだだけのような机と椅子しかない。召喚士はベッドにその体を横たえていた。
現状マルコシアスが頑張っているが、近頃はその成果も芳しくない。立っているのはもちろん座っているのも辛い。
色の騎士団の三名が逸美原市に来たその日、マルコシアスの分身五十数体を一夜にして壊滅させたことも記憶に新しい。一日に作る分身は三十体が限度、それでも悪魔たちの食物たる人間の血肉を集めてもらわなくてはならない。マルコシアスに仕事を頼みすぎだろうか。そんなことも考えてしまう。
これまでこの街で活動していた召喚士だったがここ近年飢えを感じるようになっていた。悪魔の力が高められればられる程、生命エネルギーの消費も激しい。
加えて使役する悪魔は七十余りの数を誇る。
そんなときにこんな話を聞いた。「四百四十四人分の魂を食った悪魔はエネルギーが満ち、自己ですべてを完結させることができるようになる」というものだった。
四百四十四という数字からして胡散臭い上に、出どころ不明。そんな話を聞いたこともなかった。
話の通りにならなくともそれだけの魂があれば、当分持ちこたえられるであろう。生きるため、他の召喚士同様、人殺しにならなければならない。
悪魔たちは姿形が違うだけで人間と大きな違いはない。生きている。いままでずっと人を殺さないように血肉を拝借してきたが、限界がそう遠くないことは既に察している。
このままでは自分ごと悪魔たちも死んでしまう。道は限られている。
四百四十四を七十でかける、およそ三万の魂。それだけの人間を殺害する力は有している。その自負はある。
「アスモデウス」
「はい、マスター」
裸電球が少し揺れる。
「三万人、殺せる?」
「マスター次第では? それは楽しんで殺すのか?」
年若い声、少年とも少女とも区別がつかぬ声で発せられる召喚士の問い。それに答えるのは虚空。アスモデウスの姿はない。まだ召喚しておらず、ただパスを繋げているだけゆえだ。
アスモデウス、龍に跨った悪魔。快楽至上主義者の変態。
戦闘、殺戮すら、快楽を感じるための手段に過ぎないと嘯く。
そんな悪魔だがその力は凄まじい。中でも龍のブレスは大量破壊兵器といっても差し支えのない火力を誇る。
「そんなわけない。今まで誰も殺してない」
「わかるとも」
「なら訊くな」
「しっつれーい」
冷たくあしらっても、罵倒でさえもアスモデウスにとっては快楽だ。何をしても喜ぶ。これを苦しめる方法はいまだにわからない。
三万人を殺すことは容易いだろう。あとは自分次第か。
近頃は本当に苦しい。短い時間だが時折意識が飛ぶこともある。生命エネルギーが吸われていると実感するようになったのはいつのことだったろうか。強い力を持つ召喚士はその悪魔も強くなる。
それは召喚士としては優秀ということだが、そう言って崇める奴らはこの苦しみを知らないのだろう。それを知らない有象無象に過ぎない。
そもそも召喚士の目的というものを知らない。現代では悪魔を生き永らえさせるために人を脅かしているだけに過ぎないとさえ思える。召喚士の生命エネルギーを糧にすることは、ただ単に、契約した悪魔を放り出して捨て置けなくするためのうまいシステムになっている。
自死以外で解放される方法があるのならそれに縋りたい。咎める者がいるのなら、それは死ねと言っているようなものだ。逸美原市は二百万都市だ。中心部を焼き払えばすぐに三万人の命を奪うことができるだろう。
他に方法はないのだろうか、まだそんなことを考えてしまう。
この苦しみから解放されても、待っているのは大量殺戮者という悪名。
それでも悪魔は生きている。
人殺しが許されないこと、それが生きる妨げになる理由はない。
「アスモデウス」
「はっ」
「準備して、マルコシアスが集めた血肉の半分をあなたに回す」
「それでは他の者が……」
「ほんの少しの間我慢してもらうしかない。じゃなきゃ、私共々死ぬだけ」
「……」
アスモデウスは沈黙した。言い返せるわけがなかった。多数の悪魔の為に主が戦おうとしていることはわかる。
「アスモデウス、あなたが頼りだ」
「主人にそう言われてはやらぬわけに行かぬでしょうな」
「かの王はどうやってあなたたちを維持していたのか、知らない?」
「……プルソンやイポス、ラウムあたりにでも聞いてみればいかがでしょう。過去や未来を識る者は多いですから」
「わからなかったから、あなたにまで聞いてるんだけれども、この役立たず」
「ほおあ、今のは良い! とても良い! もう一度言ってくだされ、さあ、さあ、さあ!」
変態のスイッチを誤って押してしまったようだ。何を言われても快楽に結びつく。無視するのが一番だ。
人を殺す事に躊躇いはある。
生きるためにはやるしかない。それは人を殺していい理由になるだろうか。それは何度も自分に問うた。そろそろ答えを先送りにはできなくなっている。
召喚士はそっと目を閉じた。瞼の表面に電球の光が時折ちらついたがそれもすぐに気にならなくなった。
簡素な部屋だった。パイプベッドと木材をただ組んだだけのような机と椅子しかない。召喚士はベッドにその体を横たえていた。
現状マルコシアスが頑張っているが、近頃はその成果も芳しくない。立っているのはもちろん座っているのも辛い。
色の騎士団の三名が逸美原市に来たその日、マルコシアスの分身五十数体を一夜にして壊滅させたことも記憶に新しい。一日に作る分身は三十体が限度、それでも悪魔たちの食物たる人間の血肉を集めてもらわなくてはならない。マルコシアスに仕事を頼みすぎだろうか。そんなことも考えてしまう。
これまでこの街で活動していた召喚士だったがここ近年飢えを感じるようになっていた。悪魔の力が高められればられる程、生命エネルギーの消費も激しい。
加えて使役する悪魔は七十余りの数を誇る。
そんなときにこんな話を聞いた。「四百四十四人分の魂を食った悪魔はエネルギーが満ち、自己ですべてを完結させることができるようになる」というものだった。
四百四十四という数字からして胡散臭い上に、出どころ不明。そんな話を聞いたこともなかった。
話の通りにならなくともそれだけの魂があれば、当分持ちこたえられるであろう。生きるため、他の召喚士同様、人殺しにならなければならない。
悪魔たちは姿形が違うだけで人間と大きな違いはない。生きている。いままでずっと人を殺さないように血肉を拝借してきたが、限界がそう遠くないことは既に察している。
このままでは自分ごと悪魔たちも死んでしまう。道は限られている。
四百四十四を七十でかける、およそ三万の魂。それだけの人間を殺害する力は有している。その自負はある。
「アスモデウス」
「はい、マスター」
裸電球が少し揺れる。
「三万人、殺せる?」
「マスター次第では? それは楽しんで殺すのか?」
年若い声、少年とも少女とも区別がつかぬ声で発せられる召喚士の問い。それに答えるのは虚空。アスモデウスの姿はない。まだ召喚しておらず、ただパスを繋げているだけゆえだ。
アスモデウス、龍に跨った悪魔。快楽至上主義者の変態。
戦闘、殺戮すら、快楽を感じるための手段に過ぎないと嘯く。
そんな悪魔だがその力は凄まじい。中でも龍のブレスは大量破壊兵器といっても差し支えのない火力を誇る。
「そんなわけない。今まで誰も殺してない」
「わかるとも」
「なら訊くな」
「しっつれーい」
冷たくあしらっても、罵倒でさえもアスモデウスにとっては快楽だ。何をしても喜ぶ。これを苦しめる方法はいまだにわからない。
三万人を殺すことは容易いだろう。あとは自分次第か。
近頃は本当に苦しい。短い時間だが時折意識が飛ぶこともある。生命エネルギーが吸われていると実感するようになったのはいつのことだったろうか。強い力を持つ召喚士はその悪魔も強くなる。
それは召喚士としては優秀ということだが、そう言って崇める奴らはこの苦しみを知らないのだろう。それを知らない有象無象に過ぎない。
そもそも召喚士の目的というものを知らない。現代では悪魔を生き永らえさせるために人を脅かしているだけに過ぎないとさえ思える。召喚士の生命エネルギーを糧にすることは、ただ単に、契約した悪魔を放り出して捨て置けなくするためのうまいシステムになっている。
自死以外で解放される方法があるのならそれに縋りたい。咎める者がいるのなら、それは死ねと言っているようなものだ。逸美原市は二百万都市だ。中心部を焼き払えばすぐに三万人の命を奪うことができるだろう。
他に方法はないのだろうか、まだそんなことを考えてしまう。
この苦しみから解放されても、待っているのは大量殺戮者という悪名。
それでも悪魔は生きている。
人殺しが許されないこと、それが生きる妨げになる理由はない。
「アスモデウス」
「はっ」
「準備して、マルコシアスが集めた血肉の半分をあなたに回す」
「それでは他の者が……」
「ほんの少しの間我慢してもらうしかない。じゃなきゃ、私共々死ぬだけ」
「……」
アスモデウスは沈黙した。言い返せるわけがなかった。多数の悪魔の為に主が戦おうとしていることはわかる。
「アスモデウス、あなたが頼りだ」
「主人にそう言われてはやらぬわけに行かぬでしょうな」
「かの王はどうやってあなたたちを維持していたのか、知らない?」
「……プルソンやイポス、ラウムあたりにでも聞いてみればいかがでしょう。過去や未来を識る者は多いですから」
「わからなかったから、あなたにまで聞いてるんだけれども、この役立たず」
「ほおあ、今のは良い! とても良い! もう一度言ってくだされ、さあ、さあ、さあ!」
変態のスイッチを誤って押してしまったようだ。何を言われても快楽に結びつく。無視するのが一番だ。
人を殺す事に躊躇いはある。
生きるためにはやるしかない。それは人を殺していい理由になるだろうか。それは何度も自分に問うた。そろそろ答えを先送りにはできなくなっている。
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