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色戦争、その前
第17話 8月8日-1 火種
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不可解部に顔を出しても特に普段と変わらない。そんな日だった。
本当に予知夢の日まで何もしなくていいのか甚だ疑問だが、確かにやることはない。
召喚士の拠点と正体はわからない。騎士団が調べても突き止めることができないことを調べるのは徒労だろう。
お盆ということで八月十日から十六日の間は不可解部出席を免除される。明日の参加でしばらくお休み。
部室では剣は窓際でボーっとして、風名は何やら本を読んでいるか勉強をしているかだった。
五木もまた本を読むかスマホを弄るかしかやることがない。
騎士団の面々は何をしているのだろうか。それぞれの携帯電話の番号は教えてもらったが、どこを拠点にしているのかは知らない。
部活動。とはいえ、あまり活動はしていないが、それを終え、五木は白郡高校前駅へと急いでいた。
「悪い。遅くなった」
「私も今来たところです」
デートの待ち合わせをしているカップルが良くやる恒例の会話を交わした。相手が妹でなければどれだけよかったことかと五木は思う。例えば風名。あまりこういったビジョンは思い浮かばないが。
待ち合わせの相手は五木の上の妹、雅金だった。
ストレートで腰に近いところまで伸びた髪、前髪は左右に流し額を出している。そして目元に添えられた銀色の縁の眼鏡が知的な雰囲気を醸し出していた。
セーラ服に膝下の長さのスカートといった出で立ちはいかにもまじめな学生だ。法的には中高生は生徒だったか。
棚乃と比べると雅金の方が文学少女然としている。そんなことを思うのは五木が棚乃のあの性格を知っているが故だろう。
どうやらここまで買い物の足を延ばしたらしい。部活に顔を出し、用もないので退散したとき、丁度電話がかかってきたのだった。
何のことはない。荷物持ちの任を命じられた。
「来てくれてありがとうございます。兄さん」
年子で一つ下の雅金だが、兄である五木を嫌っていない。それでも基本はこのクールな調子だ。
「いいよ。家に帰るついで、だからな。何なりとお命じ下さい」
「ふふっ」
五木がふざけて見せるとこうして小さくお淑やかに笑い破顔する。意外と冗談が通じるし、笑いもする。
「じゃあ行きましょう」
そう言って雅金は先導した。駅直結のデパート、その地階のスーパーへ足が向いているようだった。
夕方のスーパーはまだオフィス街の退勤時間に重ならないのか、そこまで混んでいなかった。おそらく周辺のマンションに住んでいるであろう主婦層の客が多い時間だ。
買い物籠はもちろん五木が持っている。
「何か食べたいものはありますか?」
青果のコーナーの終わり際に雅金は訊いた。
「いや、特には。なんでもいい」
「もう、兄さん、それが一番困るんですからね。女の子になんでもいいはご法度ですよ」
ベースはクールな少女だが、最近は表情が豊かになっている気がすると五木は考えていた。以前ならこのような拗ねたような怒り方はしなかった。ただ「そう」とだけ言って会話が終わっていたような気がする。それに関しては五木の返答が良くないせいもあるが。
ゴールデンウィークのあの事件。忘れてはいてもきょうだいたちはどこか変わった。
成長したと、いうべきなのだろう。それをあの事件がもたらしたことだと考えると素直に喜ぶことができない。
「ごめんごめん。そうだな。肉じゃが、とか」
以前と比べ、いい方向に変わった妹に免じて答えを出す。
「それは準備が必要なのでちょっと……ごめんなさい」
謝らせてしまった。料理に関する知識がゼロに近いせいだ。
「いや、謝らないで! 適当に言った僕が悪かった!」
五木は慌ててそう言った。
「兄さん、慌てすぎ」
雅金は微笑していた。
「すみません。少しからかってみようと、この時間ですし、夕食はお惣菜で済ませようと思っていました」
「雅金さん、冗談が過ぎるぞ」
五木は項垂れた。下の妹速水と同じように手を焼く妹が増えたような気がした。雅金に手を焼いたことは今まで本当になかったからこれくらいは甘んじて受け入れよう。
横を歩いていた雅金の足がぴたりと止まった。
「雅金、どうした?」
「いえ」
雅金がそう言うと同時に彼女が見ていたものに五木は気が付いた。スイーツコーナーだった。
歩き出そうとする彼女の肩を掴み止める。
驚いたのか体を一度震わせた。
「……なんか甘いものが食べたいな」
「……奇遇ですね。私もです」
素直に提案に乗る雅金だった。何かしらのスイーツを買いたかったらしい。
「ここケーキ屋あったよな? 買い物が済んだら行こう」
「でも」
「たまにはいいだろ、僕はガトーショコラが食べたい」
少し遠慮を示す雅金に畳みかけるように言った。
「そうですね。ふふっ、そういうことでしたら」
今日一番の笑顔で雅金は言った。物わかりのいい妹だ。これが下の妹、速水だったら、見た瞬間に食べたいと訴えてきて遠慮などしない。どちらにしても可愛い妹ではあるのだが。
「ありがとうございます。兄さん」
少し照れたように雅金は言った。
どうやら五木の演技(食べたい気持ちもないわけではなかったが)は看破していたらしい。
あれだけ急に肩を掴んでは悟られてしまうだろう。次はもっと上手くやらねば。
小さい頃から表情に乏しかったが、両親がケーキを買ってくると目を輝かせてにこにこしていたのを思い出す。昔と変わっていないところもあってすこしほっとした五木だった。
雅金と楽し気に買い物していたひとときを見ていた人物がいたことに五木は気が付かなかった。
本当に予知夢の日まで何もしなくていいのか甚だ疑問だが、確かにやることはない。
召喚士の拠点と正体はわからない。騎士団が調べても突き止めることができないことを調べるのは徒労だろう。
お盆ということで八月十日から十六日の間は不可解部出席を免除される。明日の参加でしばらくお休み。
部室では剣は窓際でボーっとして、風名は何やら本を読んでいるか勉強をしているかだった。
五木もまた本を読むかスマホを弄るかしかやることがない。
騎士団の面々は何をしているのだろうか。それぞれの携帯電話の番号は教えてもらったが、どこを拠点にしているのかは知らない。
部活動。とはいえ、あまり活動はしていないが、それを終え、五木は白郡高校前駅へと急いでいた。
「悪い。遅くなった」
「私も今来たところです」
デートの待ち合わせをしているカップルが良くやる恒例の会話を交わした。相手が妹でなければどれだけよかったことかと五木は思う。例えば風名。あまりこういったビジョンは思い浮かばないが。
待ち合わせの相手は五木の上の妹、雅金だった。
ストレートで腰に近いところまで伸びた髪、前髪は左右に流し額を出している。そして目元に添えられた銀色の縁の眼鏡が知的な雰囲気を醸し出していた。
セーラ服に膝下の長さのスカートといった出で立ちはいかにもまじめな学生だ。法的には中高生は生徒だったか。
棚乃と比べると雅金の方が文学少女然としている。そんなことを思うのは五木が棚乃のあの性格を知っているが故だろう。
どうやらここまで買い物の足を延ばしたらしい。部活に顔を出し、用もないので退散したとき、丁度電話がかかってきたのだった。
何のことはない。荷物持ちの任を命じられた。
「来てくれてありがとうございます。兄さん」
年子で一つ下の雅金だが、兄である五木を嫌っていない。それでも基本はこのクールな調子だ。
「いいよ。家に帰るついで、だからな。何なりとお命じ下さい」
「ふふっ」
五木がふざけて見せるとこうして小さくお淑やかに笑い破顔する。意外と冗談が通じるし、笑いもする。
「じゃあ行きましょう」
そう言って雅金は先導した。駅直結のデパート、その地階のスーパーへ足が向いているようだった。
夕方のスーパーはまだオフィス街の退勤時間に重ならないのか、そこまで混んでいなかった。おそらく周辺のマンションに住んでいるであろう主婦層の客が多い時間だ。
買い物籠はもちろん五木が持っている。
「何か食べたいものはありますか?」
青果のコーナーの終わり際に雅金は訊いた。
「いや、特には。なんでもいい」
「もう、兄さん、それが一番困るんですからね。女の子になんでもいいはご法度ですよ」
ベースはクールな少女だが、最近は表情が豊かになっている気がすると五木は考えていた。以前ならこのような拗ねたような怒り方はしなかった。ただ「そう」とだけ言って会話が終わっていたような気がする。それに関しては五木の返答が良くないせいもあるが。
ゴールデンウィークのあの事件。忘れてはいてもきょうだいたちはどこか変わった。
成長したと、いうべきなのだろう。それをあの事件がもたらしたことだと考えると素直に喜ぶことができない。
「ごめんごめん。そうだな。肉じゃが、とか」
以前と比べ、いい方向に変わった妹に免じて答えを出す。
「それは準備が必要なのでちょっと……ごめんなさい」
謝らせてしまった。料理に関する知識がゼロに近いせいだ。
「いや、謝らないで! 適当に言った僕が悪かった!」
五木は慌ててそう言った。
「兄さん、慌てすぎ」
雅金は微笑していた。
「すみません。少しからかってみようと、この時間ですし、夕食はお惣菜で済ませようと思っていました」
「雅金さん、冗談が過ぎるぞ」
五木は項垂れた。下の妹速水と同じように手を焼く妹が増えたような気がした。雅金に手を焼いたことは今まで本当になかったからこれくらいは甘んじて受け入れよう。
横を歩いていた雅金の足がぴたりと止まった。
「雅金、どうした?」
「いえ」
雅金がそう言うと同時に彼女が見ていたものに五木は気が付いた。スイーツコーナーだった。
歩き出そうとする彼女の肩を掴み止める。
驚いたのか体を一度震わせた。
「……なんか甘いものが食べたいな」
「……奇遇ですね。私もです」
素直に提案に乗る雅金だった。何かしらのスイーツを買いたかったらしい。
「ここケーキ屋あったよな? 買い物が済んだら行こう」
「でも」
「たまにはいいだろ、僕はガトーショコラが食べたい」
少し遠慮を示す雅金に畳みかけるように言った。
「そうですね。ふふっ、そういうことでしたら」
今日一番の笑顔で雅金は言った。物わかりのいい妹だ。これが下の妹、速水だったら、見た瞬間に食べたいと訴えてきて遠慮などしない。どちらにしても可愛い妹ではあるのだが。
「ありがとうございます。兄さん」
少し照れたように雅金は言った。
どうやら五木の演技(食べたい気持ちもないわけではなかったが)は看破していたらしい。
あれだけ急に肩を掴んでは悟られてしまうだろう。次はもっと上手くやらねば。
小さい頃から表情に乏しかったが、両親がケーキを買ってくると目を輝かせてにこにこしていたのを思い出す。昔と変わっていないところもあってすこしほっとした五木だった。
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