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色戦争、その前
第23話 8月17日-2 空を翔ける
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外で食事をするとお金を払わなければならない。誰かが弁当を作ってくれるのならこんなことで悩まなくていいのに。そんなことを考えながら五木は白群高校部活棟の階段を一人降りていた。
お盆の最中、十五日に五木はきょうだいと共に五行家のお墓参りに行ったりはしたものの、市内の墓地なので一日で済んでしまった。
七日間、部活動と関わらない日があったが、召喚士案件での動きはなかった。嵐の前の静けさ、そんなところかもしれない。
時分は昼前、毎日の義務で不可解部に顔を出した後だ。
今日は風名どころか剣にも会えなかった。そのことに一抹の寂しさを覚える。
いつの間にか、いやゴールデンウィークの辺りからか、二人は五木にとって大切な存在になっていた。
風名に関しては会っていないどころか既読無視されている。「よい夏休みを」なんて文言に対して返事に困ったのかもしれない。と五木は思っていた。
ここまで尾を引くようなやらかしをしてしまっただろうか。考えども何も思い当る節はなかった。
今日も風名に何かしらのメッセージを送ろうとして送られないまま、五木は画面を見つめる。それを待っていたかのように端末が短く鳴動した。
文字を認識した途端、五木は階段を降りるのをやめ、落ちるように一階へ、部活棟の出入口へ走る。
外に出ると胴に朱雀の鎧、脚に麒麟の脛当てとブーツを顕し、空中を蹴る。地面が離れていく。近くに見える逸美原駅付近の高層マンション――二十五階建てくらいのその高さを目指す。
(逸美原神社、狼三頭)
送られてきたのはそれだけだった。風名が遅れをとるとは思えないが、返信する時間も惜しい。
あの広い境内と公園、もしかしたら方山にいるかもしれない。着いてからのことを考えるのはやめた。
二十五階の高さに到達する。一階につきおよそ三メートルと聞いたことがあるから現在の高度は七十メートルは超えているはずだ。さらに上を目指す。およそ五キロ先、目的地の森林は既に視界に入っている。
全身に朱雀の鎧。全身を覆う赤いフルプレートにはところどころ赤い羽根飾りがあしらわれ、背には巨大な金属の翼。兜は頭をすべて覆っている。ハウンスカルに見えるが、その突起は嘴のようになっていた。
中国由来の神獣の鎧とは思えないくらいのデザインだ。もっとも世界の鎧について造詣深い五木ではない。
マンションの高さの倍程度まで上昇した。ここまで一分足らず。
生身では時速百キロを超える飛行に耐えられない。
急降下する。三秒の自由落下で時速百キロを超える。ビルの倍、およそ百五十メートルなら七十五メートルあるマンションの高さまで落下すれば、速度は十分出る。
翼をはためかせ弧を描く。方向を水平に調整する。何よりも怖いのは間に合わないことだ。これならば三分くらいで辿り着くだろう。
飛行中は集中力を要するものの本当に暇だ。哨戒するほどのことはない。厭でも何かを思考することになる。考えないようにしていた風名の探し方を再び考えてしまう。
五獣の力に感知能力は今のところない。
過去の風名とのやり取りに思考が巡った。
「ほら、こうやると何か感じない?」
入学してすぐの頃だったろうか。風名は得意げに魔法を見せてくれた。彼女の掌の上で桜の花びらが躍っていた。
いや、見せてくれたのは自分の為だったと五木は思い出す。
もっともその時、五木はその花びらよりも風名の手を見ていた。
入学当初、何が理由で不可解部に入る羽目になったのかわからなかった五木に、風名と剣はいろいろ試した。
剣が何をしてくれたかは覚えていない。薄情なものである。
風名が魔法を見せるのは、五木に魔力を感じることができるかどうかを知るためだった。
「魔力もだめかぁ。……五行君は魔法系じゃないのかな?」
顎に手をやる仕草、何かを考えているらしい。
「魔法使いじゃなくても相手の魔力を感じられるようになるって話は聞いたことあるね」
「でもそれって対象の魔法使いを信頼するくらいの関係性にならないとダメって」
「確かに僕たちは出逢ったばかりだからね。五行としてはこの……化物の間に放り込まれて困っているだろう」
剣はこの時、五木に向かって化物を自称していた。そう言うたびに剣の無表情が少し悲しげな空気を纏うのを五木は感じていた。
巡らせた記憶の中に五木の言葉はない。思い出した本人が不要としたのか、それとも人との会話で何を言ったのか一々記憶していないだけか。
風名のことは信頼している。剣も同様だ。
風名が魔法で応戦したとき一定の距離にいればその存在を感じられるのではないか。
そんな期待を五木は抱いた。
思考を回想から引き戻す。
神社の上空の近くに差し掛かっていた。神社に隣接する公園、そのある箇所がドーム状の結界のようなものに覆われていた。あからさま過ぎる。
ドームの真上に一人の人間が浮遊していることに五木は気が付いた。
こんな上空にいるのはただの人間だとは思えない。
距離が近づく徐々にその姿ははっきりしたものになっていく。
鳥の着ぐるみ――人間大の鳥から皮を剥いでそのまま身に着けたような装束の青年だった。額の辺りからは嘴が伸びている。
既に剣――細身の片手剣を構えている。
五木はその名を知らない。
その悪魔の名はカイム。剣を持つツグミの悪魔。その人間体。風名救出を阻もうとする召喚士の配置した駒。
「私は序列五十三番の大総裁、カイム! いざ尋常にしょ――」
「じゃ、ま、だぁ!」
悪魔カイムが名乗りを終えることはなかった。
五木にしてみればそんなものに構っている暇はなかった。時間が、惜しい。
その装甲と百キロ超の速度を頼りにそのまま突っ込むとカイムに激突する。
五木を多少の衝撃が襲ったものの、その一撃でカイムは腹から上下に分かれ、光の粒となり霧散した。ちなみに五木にはカイムという名前とそのあとしか聞こえていなかった。
後で風名に聞くか、調べてみるとしよう、五木はそう思った。
妨害が入ったものの、結界の上部に辿り着いた。
ここに風名がいる確信はない。だが、上空に悪魔がいたことも相まって怪しいのはそこだけだ。
既に連絡から五分近くが経過した。召喚士の駒はまだいるかもしれない。警戒しつつ降下する。結界は五木を阻むことなく侵入を許した。
お盆の最中、十五日に五木はきょうだいと共に五行家のお墓参りに行ったりはしたものの、市内の墓地なので一日で済んでしまった。
七日間、部活動と関わらない日があったが、召喚士案件での動きはなかった。嵐の前の静けさ、そんなところかもしれない。
時分は昼前、毎日の義務で不可解部に顔を出した後だ。
今日は風名どころか剣にも会えなかった。そのことに一抹の寂しさを覚える。
いつの間にか、いやゴールデンウィークの辺りからか、二人は五木にとって大切な存在になっていた。
風名に関しては会っていないどころか既読無視されている。「よい夏休みを」なんて文言に対して返事に困ったのかもしれない。と五木は思っていた。
ここまで尾を引くようなやらかしをしてしまっただろうか。考えども何も思い当る節はなかった。
今日も風名に何かしらのメッセージを送ろうとして送られないまま、五木は画面を見つめる。それを待っていたかのように端末が短く鳴動した。
文字を認識した途端、五木は階段を降りるのをやめ、落ちるように一階へ、部活棟の出入口へ走る。
外に出ると胴に朱雀の鎧、脚に麒麟の脛当てとブーツを顕し、空中を蹴る。地面が離れていく。近くに見える逸美原駅付近の高層マンション――二十五階建てくらいのその高さを目指す。
(逸美原神社、狼三頭)
送られてきたのはそれだけだった。風名が遅れをとるとは思えないが、返信する時間も惜しい。
あの広い境内と公園、もしかしたら方山にいるかもしれない。着いてからのことを考えるのはやめた。
二十五階の高さに到達する。一階につきおよそ三メートルと聞いたことがあるから現在の高度は七十メートルは超えているはずだ。さらに上を目指す。およそ五キロ先、目的地の森林は既に視界に入っている。
全身に朱雀の鎧。全身を覆う赤いフルプレートにはところどころ赤い羽根飾りがあしらわれ、背には巨大な金属の翼。兜は頭をすべて覆っている。ハウンスカルに見えるが、その突起は嘴のようになっていた。
中国由来の神獣の鎧とは思えないくらいのデザインだ。もっとも世界の鎧について造詣深い五木ではない。
マンションの高さの倍程度まで上昇した。ここまで一分足らず。
生身では時速百キロを超える飛行に耐えられない。
急降下する。三秒の自由落下で時速百キロを超える。ビルの倍、およそ百五十メートルなら七十五メートルあるマンションの高さまで落下すれば、速度は十分出る。
翼をはためかせ弧を描く。方向を水平に調整する。何よりも怖いのは間に合わないことだ。これならば三分くらいで辿り着くだろう。
飛行中は集中力を要するものの本当に暇だ。哨戒するほどのことはない。厭でも何かを思考することになる。考えないようにしていた風名の探し方を再び考えてしまう。
五獣の力に感知能力は今のところない。
過去の風名とのやり取りに思考が巡った。
「ほら、こうやると何か感じない?」
入学してすぐの頃だったろうか。風名は得意げに魔法を見せてくれた。彼女の掌の上で桜の花びらが躍っていた。
いや、見せてくれたのは自分の為だったと五木は思い出す。
もっともその時、五木はその花びらよりも風名の手を見ていた。
入学当初、何が理由で不可解部に入る羽目になったのかわからなかった五木に、風名と剣はいろいろ試した。
剣が何をしてくれたかは覚えていない。薄情なものである。
風名が魔法を見せるのは、五木に魔力を感じることができるかどうかを知るためだった。
「魔力もだめかぁ。……五行君は魔法系じゃないのかな?」
顎に手をやる仕草、何かを考えているらしい。
「魔法使いじゃなくても相手の魔力を感じられるようになるって話は聞いたことあるね」
「でもそれって対象の魔法使いを信頼するくらいの関係性にならないとダメって」
「確かに僕たちは出逢ったばかりだからね。五行としてはこの……化物の間に放り込まれて困っているだろう」
剣はこの時、五木に向かって化物を自称していた。そう言うたびに剣の無表情が少し悲しげな空気を纏うのを五木は感じていた。
巡らせた記憶の中に五木の言葉はない。思い出した本人が不要としたのか、それとも人との会話で何を言ったのか一々記憶していないだけか。
風名のことは信頼している。剣も同様だ。
風名が魔法で応戦したとき一定の距離にいればその存在を感じられるのではないか。
そんな期待を五木は抱いた。
思考を回想から引き戻す。
神社の上空の近くに差し掛かっていた。神社に隣接する公園、そのある箇所がドーム状の結界のようなものに覆われていた。あからさま過ぎる。
ドームの真上に一人の人間が浮遊していることに五木は気が付いた。
こんな上空にいるのはただの人間だとは思えない。
距離が近づく徐々にその姿ははっきりしたものになっていく。
鳥の着ぐるみ――人間大の鳥から皮を剥いでそのまま身に着けたような装束の青年だった。額の辺りからは嘴が伸びている。
既に剣――細身の片手剣を構えている。
五木はその名を知らない。
その悪魔の名はカイム。剣を持つツグミの悪魔。その人間体。風名救出を阻もうとする召喚士の配置した駒。
「私は序列五十三番の大総裁、カイム! いざ尋常にしょ――」
「じゃ、ま、だぁ!」
悪魔カイムが名乗りを終えることはなかった。
五木にしてみればそんなものに構っている暇はなかった。時間が、惜しい。
その装甲と百キロ超の速度を頼りにそのまま突っ込むとカイムに激突する。
五木を多少の衝撃が襲ったものの、その一撃でカイムは腹から上下に分かれ、光の粒となり霧散した。ちなみに五木にはカイムという名前とそのあとしか聞こえていなかった。
後で風名に聞くか、調べてみるとしよう、五木はそう思った。
妨害が入ったものの、結界の上部に辿り着いた。
ここに風名がいる確信はない。だが、上空に悪魔がいたことも相まって怪しいのはそこだけだ。
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