東方のレッセイ・ギルド

すけたか

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第一幕

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「装、天!」

チカチカといくつもの光が瞬き回路が出現する。
レッセイたちの不香の花にして無二の武器。
咲かないほうがありがたい花というのは悲しいものだと彼らは思う。
見た目だけなら美しいそれはいつも冷気と血で染まっている。

「クリスタリスは三体!」
九十が叫ぶ。十メートルはある巨体のクリスタリスが二体のクリスタリスを引き連れてズシンズシンと走ってくる。巨体のクリスタリスは奇妙な姿だった。姿は確かに岩でできた猿のような造形なのに、顔はまるで鉈でそぎ落とされたかのように真っ平なのだ。目や鼻など見当たらないのにレッセイを追うことに躊躇はない。
岩石群ゼーベ」だ。
他の二体は背中に水晶が証の結晶群クラスター。レッセイたちは走りながらクリスタリスと対峙する。九十は前後を振り向きながら、
「いや、まだ出てくる! もう一体」
どこからともなく丘陵の上にその姿がある。獣の結晶群クラスター
「水を探していたところを狙われるとは……どうします一二三!」
「でかいのは私がやる。他はお前が指示を取れ。一番目が利く」
「御意!」
「前方は任せろ」
五十五が一体を回路で打ち抜く。金紅石ルチルが複数刺さって身動きが取れなくなったところをすかさず八十九が攻撃し表面の岩を割る。五十五が再装天したのは先の鋭い針状結晶、嵌めた鉱石は珪化木けいかぼく
「ぬん!」
装天された細長い回路が獣に振り下ろされると生成された木の根があっという間にのびてクリスタリスの核を打ち砕いた。珪化木は年月を経て石化した樹木の姿である。回路に取り込まれることでその姿を再生し、太い根が核の辰砂シナバーを突き破る。岩をも貫く植物の力は侮れない。
「まったく図体だけはたいしたものだ」
顔のないクリスタリスに近づきながら六十八は革袋の中の鉱石を探った。クリスタリスは六十八に気付いたのか、足元に近づくその姿を踏み潰そうとする。
(これだけ大きいと接近して攻撃した方が破壊しやすいか)
「ならば」
装天するのは角柱結晶、六角柱の雪の結晶で内部は空洞。とりだしたる石は血玉髄ブラッド・ストーン
「それっ――」
中に入れてクリスタリスの正面、できる限り上空へと投げる。――ふと、クリスタリスの向きが変わった。回路に組み込まれた血玉髄ブラッド・ストーンは擬似的な肉を生成する。
ようはおとりだ。血玉髄ブラッド・ストーンを食おうとして――顔なしのサルは体を曲げ、頭頂部にある口を開けた。
「――そこか!」
六十八は偽の肉に気を取られて足が止まったクリスタリスに走り寄り、ごつごつと岩で形成された背を階段を踏むが如く一気に駆けのぼった。頭頂に達すると再び装天、底面ベースの周囲に藍電気石インディゴライト紅電気石ルベライト、中央に雷水晶ライトニングを手際よく嵌めると、クリスタリスの口内に回路を向けた。
「食うがいい。――耐えられるならな」
そう言って六十八は心の中で引鉄ひきがねを引く。同時に回路が光り、轟音と共に白と藍と紅の電撃がその巨体を貫き、一瞬でクリスタリスは破壊された。崩落するクリスタリスの残骸をヒュ、ヒュと飛び渡りながら六十八は岩石群ゼーベの核の正長石オーソクレースを確認すると回路で鉄を生成、突いて壊し、静かに地面に着地した。巨体のクリスタリスはあっという間に砂の渦となって消えていく。
「かなわねえなあ」
遠目で六十九がクリスタリスの消滅を確認しながら、
「ものの一分もかからなかったか。電撃系は昔からあいつの十八番オハコだったな。一番暴発しやすい石をよく制御してやがるぜ」
あと二体か。六十九が九十に合図を送ろうとしたその時、

「僕がやる!」

集団から飛び出した小さい影が空に躍る。頭に巻かれた灰色の鉢巻きが揺れた。
「馬鹿、九十九! 飛び出しすぎだ、無茶をするな!」
様子に気付いた六十八の制止も聞かずに九十九は砲弾型の結晶を装天すると石を嵌め、二体のクリスタリスの頭上に投げた。
「つぶれちゃえ!」
重晶石バライト! と九十九が声をあげるとめり、と見えない何かがクリスタリスを圧迫し亀裂を生じさせた。重晶石バライトは重力場を発生させる鉱石で、回路に組み込まれた鉱石の数が多いほど強い歪みが発生する。間違えると他のレッセイたちも歪みに引き込んでしまう難しい石だ。二体のクリスタリスはついに耐え切れず岩の身体を潰され、砕け、その身を砂へと変えた。
「やった!」
九十九は笑顔で腕を振る。が、後ろからやってきた六十八に拳で頭を叩かれ、痛っ! と うずくまった。涙目で、
「なんだよ師匠! せっかくクリスタリスをやっつけたのにい!」
「馬鹿者が! 一人で勝手にあんなに接近して……複数のクリスタリスに一人で立ち向かうなと何度も言ったはずだ!」
「でもやっつけたもん!」
九十九は自慢げに言ってから不服そうな目をする。六十八はため息をついて、
「まったく……十二にもなって分別もつかないのか。すぐ調子に乗る……お前が弟子を持てるようになるのは相当先だな」
「僕は調子になんかのってない。師匠が細かい事うるさいんだ!」
「そういうところが調子に乗っているというのだ。九十が指揮をとっていたのにお前は指示も待たずに、自分の力を試したくて一人飛び出した。違うか」
「う」
「扱いの難しい重晶石バライトを使いこなしたことは褒めてやる。だが次は黒縞瑪瑙オニキスにしろ」
黒縞瑪瑙オニキス!? なんでさ、重力を使うには下位だ。重晶石バライトが一番強力で手っ取り早いよ。暴発しないよう多重六花も使わず散らしたじゃないか。師匠はすぐ僕を子ども扱いするんだ!」
時の流れははやい。
九十九はレッセイ・ギルドの一人として成長をとげ、齢は十二ほどになっていた。クリスタリスとの戦いにも参加し、泣き虫だったとは思えないほど自信にあふれたレッセイとなったが、すぎた積極性は師の六十八には頭痛の種でもあった。
「実際子どもだ。その短気さ、それを直せと言っているんだ。回路技術で最も大切なのは冷静であることだ。お前は結果を急ぎすぎる。まったく、独立させたのは時期尚早だったな。いいか、使う鉱石は――」
言い終わらないうちに六十八は反射的に九十九を抱えて横に転がった。その跡に水晶の鋭いポイントがヒュヒュヒュと何本も突き刺さり、六十八は九十九をかばって後ずさる。見上げると高い岩の上にクリスタリスが一体唸っていた。六十八の右腕からは血が流れている。
「し、師匠!」
「かすっただけだ。お前が残りすべて仕留めたと思ったのだが」
そういって六十八は怪我をものともせずに装天し、襲ってきたクリスタリスを十字石スタウロライトで地面に串刺しにすると核をあっさり破壊した。
「あっちにもいます!」
八十九が驚いたように遠くを見つめる。クリスタリスが一体、また一体と姿を見せていた。まるで獲物を嗅ぎつけて集まってくる獣のようだ。大きさは一体二メートルほどだが数が集まるとやりにくい。六十九は顔を顰めた。
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