桜と星と初こいと

茶野森かのこ

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桜と星と初こいと30

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翌日、朝から夏を思わせる熱い太陽に照らされ、体育祭はスタートした。

「予想以上に暑いな…なんか嫌な予感するわ」
「熱中症怖いな。ちゃんと注意しないと、」

まき恋矢れんやと連れだって校庭を見渡していると、二年生の集団の中に、織人おりとの姿を見かけた。

「良かった、ちゃんと参加してる」
「誰かさんに、格好良いとこ見せたいんじゃない?」

安堵したのも束の間、恋矢が耳元でほくそ笑むので、槙は思い切り恋矢を睨んでやったが、恋矢はいつものようにどこ吹く風だ。

「健気だねぇ」
「何が」
「織人に決まってるじゃない」
「…仮にも教師がさ、しかも学校で言うなよ、そういう事」
「今更だな、それ」

どこからともなく「カズ先生ー!」と、女子生徒達から名前を呼ばれ、恋矢が笑って手を振れば、嬉しそうに「見ててねー!」と、彼女達は競技の列に加わっていった。

「でも、純粋に思うよね。子供の頃からずっと変わらずに思い続けるって凄いよ。俺には無理だな」
「だろうな」

嫌味ったらしく槙は言ったが、恋矢はニコニコと笑みを崩さないので、槙は逆に居心地が悪くなり、軽く恋矢の足を蹴飛ばした。

そうしている内、競技が始まった。種目は玉入れとあるが、自陣のかごにどれだけ玉を入れられるかではなく、敵陣のかごにいかに自陣の玉を入れるかを競う競技だ。敵を自陣に入れない為の攻防戦も繰り広げられる為、放送部の実況も白熱し、観戦している生徒達も盛り上がりを見せていた。

槙や恋矢も、実行委員の生徒のフォローをしながら声援を送っていたが、やがて競技の中に織人の姿が見えると、槙はふとその手を止めた。
敵の侵入を防ぐには、手元の玉を相手にぶつける必要がある。ドッジボール同様、玉が当たった生徒は外野に回り、競技に復活するには敵の生徒を外野に回さないといけない。
織人は仲間に背を押され、渋々ながら仲間と共に敵陣に向かっていくが、相手の攻撃をことごとく避けて、手元の玉をかごに収め帰ってくる。颯爽とこなすその姿に、放送部のマイクパフォーマンスもここぞとばかりに盛り上がりを見せるので、生徒達の歓声や笑い声が校庭を明るく駆け抜けていく。

「見せつけるなー、あいつ」

隣で熱中症対策用に、氷の準備を進める恋矢に肘で小突かれて、槙は意地悪く笑う恋矢に「うるさいよ」と、手元の氷を背中に入れてやった。

「冷た!ちょっと槙ちゃん!」

氷を取ろうとあたふたする恋矢に、周りの生徒もおかしそうに笑っている。槙は、ふん、と顔を背けた。

「格好いいとこ見せたいんじゃない?」という恋矢の言葉が不意に蘇ってきて、耳にはりついて消えてくれない。槙は赤くなりそうな頬をやり過ごすべく、せっせと仕事に励むのだった。





心掻き乱される事はあれど、終始それに囚われていては教師失格だ。今は生徒が楽しみ、実力を発揮出来るように尽力しなくては。

競技が変わっても、織人の出番になれば、その活躍振りは耳に入ってくる。その度に、槙は先程の恋矢の言葉が蘇りそうで、意識的に競技から顔を背け、仕事に集中した。
教師として、兄貴分として、織人の活躍は素直に嬉しい。学校をサボる事もあったし、部活もやっていない。なのに、その運動能力をかわれてか、団体戦では織人がここぞという場面で駆り出される事も多く、個人で競う競技でも、上位に食い込めばクラスにポイントが入るので、織人に期待した歓声がよく飛んだ。

以前は、不良だなんだと噂され恐れられていた事もあるのに、今では羨望の眼差しすら向けている。それは良い事だ、学校に馴染めている訳だし。織人が多くの生徒に囲まれている事にもやもやするのは、お門違いなのだ。

槙はそう自分に言い聞かせ、とにかく何事もなく無事に体育祭が終わるようにと、気持ちを切り替えていたのだが、恋矢が呟いた嫌な予感が、ここで的中してしまった。

予想以上の暑さにダウンする生徒や、怪我をする生徒が出てしまい、その傍らで、競技に必要な道具が不足したりと、実行委員会や生徒会の生徒の他、槙達教師も方々に駆け回り、昼を迎える頃にはヘトヘトだった。
でも、ここでへばってはいけない。午後の部の最初には、部活対抗種目が控えている。槙の中では、最も恐れている時間だ。


「あー、疲れたー」

職員室の自身の席に着くと、恋矢はデスクに突っ伏した。その様子に、槙は呆れ顔を向けた。

「疲れたって、カズは保健室で生徒に囲われてただけじゃん」

槙はあっちにこっちにと走り回っていたが、恋矢は大抵、涼しい保健室に居た気がする。恋矢が保健室に居たのは、保健医が生徒の手当ての為に外に出ていたので、保健室を使う他の生徒の為に、恋矢が留守番を務めていた。別に仕事をサボっていた訳ではない、保健室には体を休めている生徒もいたし、生徒の為に尽力していたのは同じだ、だが、汗だくの自分と比べれば、恋矢は涼しそうな顔をしていて、どうしても不公平を感じてしまう。

「生徒達の日々の疲れを癒し、エールを送るのも教師の務めよ」
「…お前、本当に教師か?」
「来世はアイドルになろっかな」
「そうしろそうしろ」

恋矢に適当に相槌を打ち、槙は疲れた様子で席についた。
まぁ、適材適所といえばその通りかもしれない、生徒が恋矢と一緒にいて安心するなら、自分が駆けずり回った方が良い。

「他の生徒も、今の所大丈夫そうだよね」
「うん、こまめに休み取らせてたし。つか、槙ちゃんの方が顔色よくないよ」

体を起こした恋矢は、眉を寄せて槙を見やった。普段は人をからかってばかりいるが、こういう事は気づいて心配してくれる。だから憎めないのだと、槙もつられて本音が出てしまう。

「うーん、最近寝不足だったからなー」
「倒れないでよ?お昼は?」
「…あんま食べたくない」
「ちょっとでも腹に入れないと持ちませんよ」
「うわ、カズがまともな事言ってる」
「たまには真面目にやんないとね。教頭に目ぇつけられてるし」
「はは、数屋敷かずやしき先生はどこですか!って、ずっと怒ってたよ」
「マジで?さすがに後半は働かないとなー」
「やっぱりサボってたんじゃん!」
「いや、これも仕事の内だって。ほら、ちょっと休んでなよ。なんか食べやすいもん買ってくるから」

ぽん、と頭を撫でられ、なんやかんや優しい恋矢に、槙は少しほっとして、「ありがとう」と、デスクに突っ伏した。




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