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桜と星と初こいと38
しおりを挟む「…これ、どうして?」
出来るだけ冷静になって尋ねれば、恋矢も少し落ち着きを取り戻した様子で、小さく息を吐いてから口を開いた。
「…俺もさっき知ったんだ。生徒が妙な事聞いてくるから問いただしたら、このサイトを教えてくれた。もう、先生達にも伝わってる、教頭もさっき慌てて飛び出して行ったから、校長まで話が届いてると思う」
「え、」と、槙は声を上げたが、それも当然の事だろうと思い直し顔を俯けた。この噂が真実かどうかも大事だが、それ以前に、噂が上がった時点で信用問題に関わってくる。
「そうだよね…こんな話、聞いたら普通ショックだ」
頭をくしゃっと掻いて、槙は再びはっとして顔を上げた。
「それより織人は!?」
そうだ、自分よりも織人の方が大事だ。遠目から撮られていても、写真の相手が織人だと皆、気づくだろう。何より体育祭の後だ、活躍を見せた織人の印象は、きっと皆の頭にも残っているし、すぐに織人の姿を思い浮かべる人間も多かったのではないか。
恋矢は、困り顔のまま頭を振った。
「俺も校舎の中を見てきたけど、まだ姿を見てないんだ。あいつ、突っかかって喧嘩とかしてないと良いけど…」
槙の事になると、織人は途端に血相を変える。体育祭の時は勇敢だと思ったが、槙を悪く言う人物に会った時、拳など振り上げないといいのだが。恋矢はそんな心配に頭を抱えたが、槙はそれよりも織人を巻き込んでしまったという方が重要で、先程よりも顔を青ざめさせ、再び狼狽えた。
織人を巻き込んでしまった、もし、文人の時のようにマスコミが押し寄せて、知らない人達からも心ない言葉を投げかけられ、侮蔑の眼差しが織人にも向けられたら。そんな風に思い込んでしまったら、もう冷静ではいられなかった。
「どうしよう、俺、カズ、俺、俺が織人の事、」
恋矢は真っ青な顔で、ぎゅっと腕を掴んでくる槙の、白くなった指先に戸惑いを浮かべた。
「今度は、織人を駄目にする…」
そして、うわ言のように呟かれた言葉に、恋矢は目を見開いた。
「やだ、なんで先生、…」
ズル、と力の抜けた指先にはっとして、恋矢は槙の両肩を掴んだ。
「槙ちゃん!しっかりしろよ!まだ何も分かんないでしょ!」
ぎゅ、と肩を掴む指に力が込められ、その強さに、槙は戸惑って恋矢を見上げた。
「まだ何も決まってないよ、織人が駄目になるタマかよ!何なら、開き直ってとんでもない事言い出すような奴だよ、先生と織人は違うよ、全然違う!」
必死な形相が泣いてしまいそうで、恋矢の言葉が、いつの間にか狭めていた視界をこじ開けていくようだった。
そうだ、文人と織人は違う。まだ、何も分からない、まだ織人を守れる筈だ。
「…ごめん、そうだよな、ごめん」
少しだけ気持ちを立て直した槙に、恋矢はほっとして肩を下ろした。それから、槙の瞳をまっすぐと見つめ、もう一度、今度は優しくその肩を掴んだ。
「織人の事は誤魔化せるよ、写真は寄り添ってるように見えるけど、そう見えるだけだ。槙ちゃんはよく生徒の腕引いてたり、生徒もよく絡んでくるじゃん、時間も夜だし、出歩いてる生徒を注意したって事で乗り切れるよ。織人を捕まえて口裏合わせよう。過去の事だって、でっち上げだって否定すればいい、もう組はないんだし、証拠だって出回ってない。それに、槙ちゃんが教師としてやって来た事は評価される筈だよ、俺が協力するから」
「……うん、ありがとうカズ」
そうと決まれば、早速根回しをと、スマホを操作し始めた恋矢に、槙は複雑な思いで目を伏せた。
誤魔化せるだろうか、あの書き込みにある事柄は、どうしようもなく事実なのだ。
それから、校長や教師達に、槙達の意見は一応は聞き留めて貰えたが、きっと、この学校にはいられないだろうと、槙は思った。槙は教師だ、一度疑いのかかった教師を、簡単に信用する訳にはいかないだろう。
ただ、織人の事は誤解であると判断してくれたようだ。あの写真は、たまたまそう見えただけ、織人も槙とはそういった関係ではないと、幼なじみではあるので、昔からの習慣で距離が近くなってしまう、恋矢もそんな風に進言してくれたようだし、織人もその通りだと反論はしなかった。学校としても、誤解で処理出来るならその方が良い。それが、もし恋仲であったとしても、そんな事実はないと否定されるだろうが、それが織人の為であり、学校の為だ。
何もなかったとしても、噂になった時点で、人々はそういう目で見てくる。否定をする事で、その視線が少しでも和らいでくれたら良いが…。
槙は、それをただ願うばかりだったのだが、事は沈静する事なく、問題は膨れ上がるばかりだった。
別のサイトで、新しい書き込みがアップされていたからだ。それが、ただの噂から真実として認識されるまで、時間はかからなかった。
最初の書き込みには書かれていなかった槙の家の事や、過去の事が細かく書かれていたからだ。まるで、その当時、その場で見ていたかのような温度感のある文章に、槙は真っ向から反論なんて出来なかった。
生徒に話は広まり、やがて保護者にも話は伝わり、教育委員会にも報告がいく。そうなれば、槙は学校どころか、教師を辞める事になるだろう。
それでも槙は、過去について反論する事が出来なかった。まるで罰から逃げているみたいで、文人の死を軽く見ているような、大事にしていないと、愛していなかったんじゃないかと問い詰める自分がいる。
槙は、それだけは認められなかった。
恋矢は尽力してくれたが、教師や生徒、保護者からの疑いの目は、閉じる事なく槙を見つめ、噂は尾ひれをついて触れ回り、学校を飛び出しそれぞれの町へ駆け巡った。
幸いだったのは、織人が被害者扱いされた事だ。妙な教師に言い寄られた可哀想な少年と、憐れみを向けられたくらいで済んだようだ。槙のように責められる事はなく、学校生活もアルバイトもいつも通り通う事が出来ていた。
勿論、織人が大人しく黙っている筈がなかったが、槙と恋矢は無理にでも織人が反論しようとするのを止めた。
最近は、ようやく真面目に学校に来るようになったが、元は不良生徒扱いだったのだ、織人がいくら声を上げようとした所で、生徒一人の声なんて学校は拾おうとしない。それなら、黙って大人しく今の結果を受け入れてくれた方が、槙には安心だった。
そして、終業式を待たずして、槙は謹慎処分となった。
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