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53 人間が魔族になる国があった6
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サラセン王国の国王はオットーと言った。
この国は貿易で栄えていたが、それ以上に国力を高めていたのがアサシン(暗殺者)集団の存在だった。
宗教団体にも近いこの集団は、強い武芸者を育てることを目的としていた。
そのため、国内外を問わず多くの才能がある若者が集まっていた。
アサシンは国王に絶対の忠誠を誓い、その見返りとして国王は財政的援助を行っていた。
毎年、国王がアサシン代表の1人と試合をするのは、集団のレベルの維持を確かめるためだった。
だから、歴代の国王は簡単に負けても心から喜んだ。
ただし、その年の試合は全く違っていた。
アサシンを代表するシンは、もって生まれた才能だけではなく人並みはずれた鍛錬を繰り返した。
その結果、アサシンの長い歴史上、伝説となるような強さを有していた。
国民の人気も、オットーと比べることができないくらい高かった。
さらに特別なことは、子供の頃参加した武芸大会で約束して、国王であるオットーではなく英雄アーサーの臣下になっていることだった。
オットーはシンのことを、面白くなく思っていた。
国王オットーは前国王の1人息子で、子供の頃から大変かわいがられて育った。
体が大きく武芸に特に秀でていることが自慢だった。
そのため、父親の国王は子供の頃から優れた武芸者を何人も先生として付けた。
そして、成人した頃から何回も戦場に出て武勲を上げた。
しかし、サラセン王国内では全く人気がなかった。
むしろ嫌われていた。
戦場で勝利が確定した後も、敵の敗残兵を無慈悲に何人も斬殺した。
そして自分の力に酔い、自分を最高に自慢し回りにも尊敬することを強要した。
毎年の行事である国王とアサシンの武芸試合が始まった。
国王オットーは、何人もの女官の御付きを従えて試合会場に上がった。
一方、アサシンの代表シンには1人の女性が身の回り品を持って付いているだけだった。
女性は輝く黒髪、瞳はブラウンで控え目、穏やかな美しい顔をしていた。
派手な出で立ちの女官に囲まれたオットーは、一目で心を奪われた。
(なんて美しいんだ。心が落ち着く。アサシンふぜいにはもったいない。)
両者が試合会場に上がった後、国王は突然、極めて異例なことを言い出した。
「この試合を見ている我が臣民よ。試合はこれまで長い間形式的に行われてきたが、今日は真剣な試合にすることにしよう! 」
その時、今まで多くの歓声に包まれていた会場が静まり返ってしまった。
国王は続けた。
「なぜなら、みんなよく知っているように私は過去の歴代の国王とは異なり、アサシンと比較しても全く支障がないくらいの強さがあるからだ。だから真剣に戦う。」
だんだん会場には思い空気が立ちこめた。
国王はさらに続けた。
「それで試合の勝者は、相手のもっとも大切なものをいただくということでいいな。私の美しき女官達のうちの1人か、それともアサシンの1人の付き添いの娘だ。」
その瞬間、シンの付き添いである娘がおびえた不安の表情を一瞬見せたが、シンが娘に微笑みかけ、すぐにその表情は消えた。
オットーはそれを見て、自分勝手な怒りを燃やした。
「審判! 早く試合を開始させるのだ! 」
「はい。国王様。試合を開始します。」
試合に使う武器は木剣とされ、オットーは手に持っていたがすぐにそれを捨てた。
そして、あろうことか、腰に差していた真剣を抜いた。
「お――――っ!!! 」
驚きと批判の入り混じった声が会場上に上がった。
シンはそれを見ても全く動じなかった。
そして、最短の最速で、国王のふところに入った。
真剣をにぎっている国王の腕の最も重要な筋肉の結節点を、木剣がものすごい力でうった。
「いた―――――― いた―――――― 」
人間として感じる最大の痛みを国王は感じた。
国王の腕は感覚を全く無くし、真剣は床に落ちた、
国王はあまりの痛さに、床に転げ回った。
会場のあちこちで、抑えながらも、おろかな国王を笑っている声が聞こえた。
獣人になりかけている国王は悪夢にうなされていた。
そして目を覚ませた。
すると、声が聞こえた。
「国王よ。国王よ。自分勝手なおろか者。」
「何を言う。誰だ。」
「自分勝手なおろか者。国民を犠牲にしても自らの欲求を満たそうとするばか者。」
「ゆるさんぞ。どこだ。」
「ここにいるぞ。正々堂々と戦え。」
声は国王の寝室から出ることのできるかなり広いバルコニーからだった。
怒りまくった国王は、部屋にある物をなぎ倒してバルコニーに出た。
出てみると広いバルコニーの遠い奥に人影があった。
ライオンの獣人になりつつある国王の夜目は、それが誰だかはっきりと見た。
「シン!!! 生きていたのか!!! そうか、私への報告はアスマンの策略だな―― 」
「この国、いや世界で一番のくず。ごみ掃除を忘れたのでな。」
冷静にそう言ったシンの顔は、アサシン(暗殺者)本来の冷たくて恐い顔だった。
「私は魔王アスモデウス様と契約を交わした暗黒騎士だ。たかが人間のお前より既に何倍も強い。無礼なお前をすぐに殺してやる。その後、ノーラを完全に俺のものにしてやる。」
国王はライオンのように走り出した。
そして最後には高くジャンプして、両手両足のライオンの爪をシンに振るった。
シンはそれをスローモーションのように見ながら全ての爪を避けた。
そして、心臓の位置を確実に把握して、いつの間にか手に出したナイフを突き入れた。
ナイフはクラリスから渡された、美しき心を映す世界のエネルギーで創られた特別なものだった。
この国は貿易で栄えていたが、それ以上に国力を高めていたのがアサシン(暗殺者)集団の存在だった。
宗教団体にも近いこの集団は、強い武芸者を育てることを目的としていた。
そのため、国内外を問わず多くの才能がある若者が集まっていた。
アサシンは国王に絶対の忠誠を誓い、その見返りとして国王は財政的援助を行っていた。
毎年、国王がアサシン代表の1人と試合をするのは、集団のレベルの維持を確かめるためだった。
だから、歴代の国王は簡単に負けても心から喜んだ。
ただし、その年の試合は全く違っていた。
アサシンを代表するシンは、もって生まれた才能だけではなく人並みはずれた鍛錬を繰り返した。
その結果、アサシンの長い歴史上、伝説となるような強さを有していた。
国民の人気も、オットーと比べることができないくらい高かった。
さらに特別なことは、子供の頃参加した武芸大会で約束して、国王であるオットーではなく英雄アーサーの臣下になっていることだった。
オットーはシンのことを、面白くなく思っていた。
国王オットーは前国王の1人息子で、子供の頃から大変かわいがられて育った。
体が大きく武芸に特に秀でていることが自慢だった。
そのため、父親の国王は子供の頃から優れた武芸者を何人も先生として付けた。
そして、成人した頃から何回も戦場に出て武勲を上げた。
しかし、サラセン王国内では全く人気がなかった。
むしろ嫌われていた。
戦場で勝利が確定した後も、敵の敗残兵を無慈悲に何人も斬殺した。
そして自分の力に酔い、自分を最高に自慢し回りにも尊敬することを強要した。
毎年の行事である国王とアサシンの武芸試合が始まった。
国王オットーは、何人もの女官の御付きを従えて試合会場に上がった。
一方、アサシンの代表シンには1人の女性が身の回り品を持って付いているだけだった。
女性は輝く黒髪、瞳はブラウンで控え目、穏やかな美しい顔をしていた。
派手な出で立ちの女官に囲まれたオットーは、一目で心を奪われた。
(なんて美しいんだ。心が落ち着く。アサシンふぜいにはもったいない。)
両者が試合会場に上がった後、国王は突然、極めて異例なことを言い出した。
「この試合を見ている我が臣民よ。試合はこれまで長い間形式的に行われてきたが、今日は真剣な試合にすることにしよう! 」
その時、今まで多くの歓声に包まれていた会場が静まり返ってしまった。
国王は続けた。
「なぜなら、みんなよく知っているように私は過去の歴代の国王とは異なり、アサシンと比較しても全く支障がないくらいの強さがあるからだ。だから真剣に戦う。」
だんだん会場には思い空気が立ちこめた。
国王はさらに続けた。
「それで試合の勝者は、相手のもっとも大切なものをいただくということでいいな。私の美しき女官達のうちの1人か、それともアサシンの1人の付き添いの娘だ。」
その瞬間、シンの付き添いである娘がおびえた不安の表情を一瞬見せたが、シンが娘に微笑みかけ、すぐにその表情は消えた。
オットーはそれを見て、自分勝手な怒りを燃やした。
「審判! 早く試合を開始させるのだ! 」
「はい。国王様。試合を開始します。」
試合に使う武器は木剣とされ、オットーは手に持っていたがすぐにそれを捨てた。
そして、あろうことか、腰に差していた真剣を抜いた。
「お――――っ!!! 」
驚きと批判の入り混じった声が会場上に上がった。
シンはそれを見ても全く動じなかった。
そして、最短の最速で、国王のふところに入った。
真剣をにぎっている国王の腕の最も重要な筋肉の結節点を、木剣がものすごい力でうった。
「いた―――――― いた―――――― 」
人間として感じる最大の痛みを国王は感じた。
国王の腕は感覚を全く無くし、真剣は床に落ちた、
国王はあまりの痛さに、床に転げ回った。
会場のあちこちで、抑えながらも、おろかな国王を笑っている声が聞こえた。
獣人になりかけている国王は悪夢にうなされていた。
そして目を覚ませた。
すると、声が聞こえた。
「国王よ。国王よ。自分勝手なおろか者。」
「何を言う。誰だ。」
「自分勝手なおろか者。国民を犠牲にしても自らの欲求を満たそうとするばか者。」
「ゆるさんぞ。どこだ。」
「ここにいるぞ。正々堂々と戦え。」
声は国王の寝室から出ることのできるかなり広いバルコニーからだった。
怒りまくった国王は、部屋にある物をなぎ倒してバルコニーに出た。
出てみると広いバルコニーの遠い奥に人影があった。
ライオンの獣人になりつつある国王の夜目は、それが誰だかはっきりと見た。
「シン!!! 生きていたのか!!! そうか、私への報告はアスマンの策略だな―― 」
「この国、いや世界で一番のくず。ごみ掃除を忘れたのでな。」
冷静にそう言ったシンの顔は、アサシン(暗殺者)本来の冷たくて恐い顔だった。
「私は魔王アスモデウス様と契約を交わした暗黒騎士だ。たかが人間のお前より既に何倍も強い。無礼なお前をすぐに殺してやる。その後、ノーラを完全に俺のものにしてやる。」
国王はライオンのように走り出した。
そして最後には高くジャンプして、両手両足のライオンの爪をシンに振るった。
シンはそれをスローモーションのように見ながら全ての爪を避けた。
そして、心臓の位置を確実に把握して、いつの間にか手に出したナイフを突き入れた。
ナイフはクラリスから渡された、美しき心を映す世界のエネルギーで創られた特別なものだった。
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