入り江物語~異世界との切れ目を踏み転移しましたが、1人で戦う女王の味方になります。勇者の義務を立派に果たします!!

ゆきちゃん

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1 時を超え時間を超えて2人は出会った

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 彼は必死に自転車のペダルを回していた。



 小高い山々が、海の近くまで迫る入り江に沿った道だった。

 

 もう夕方だったが、昼の間、容赦ない太陽に暖められた陸の空気は未いまだに上昇気流だった。



 強い海風が容赦なく、自転車のペダルを回す彼に吹き付けた。



 倒れそうになるのを、やっとのことで持ちこたえていた。



「もう、うんざり! 自分の家に帰るだけなのに毎日毎日この風と戦うのか! 」



 彼は高校から自分の家に帰る途中だった。



 家といっても、彼にはマイホームという感覚がほとんどんない。



 やがて彼は、入江沿いの道から陸側に少し曲がって、大きな鳥居の前に進んだ。



 鳥居の前には、小さな自転車置き場が有り、そこに自転車を止めて鍵をかけた。



 その後、鳥居をくぐると小高い山を登る階段が続いていた。



 入江八広いりえやひろ



 彼はこの山の上に社務所がある入江神社の宮司の息子だった。



 石垣で作られた階段は、なんと370段もあった。



「1、2、3‥‥‥‥ 」



 彼は階段の数を数えながら登り始めた。






 毎日いつも、彼はそうしていたが、特に注意していたことがあった。



「八広よ、この山には370段の階段があるが、決して333段を踏んではいけないよ。そこには、とても狭いが別の世界との切れ目がある。霊感が強い者がその断層を踏むと、別の異世界にさらわれてしまう」



 子供の頃、父の総記がとても真剣な怖い顔で彼に言った。



「私達は、もう100代もこの神社の宮司を務めている。なぜなら、普通の人間が感じることのできない神秘なものを見ることができる強い霊感があるからだ」



「はい。とうさん。」



 階段を昇りきった山の頂上に、彼の一族が宮司を務めてきた海見神社があった。



 当然、彼の家も神社に隣接している。



 実は八広はとても霊感が強く、ごく小さな頃から無気味で恐ろしい者をたくさん見ていた。


 ‥‥




 有る夜、彼はどうしようもなく寝苦しい圧迫感を受けて目が覚めた。

 それは家の外からだった。

 とても寒い冬の深夜外に出た。

 山の上には風が吹きすさんでいた。

 それは、海(入り江)に向かって吹いた。

「あっ! あれはなんだろう! 」

 彼が見ると、おぼろげにぼんやり光る無数の物が海に浮かんでいた。

 まさに無数という表現がぴったりで、海を埋め尽くしていた。

 彼は視力がよかった。

 そして、無数にある光る物のうち、最も巨大な1つの物に引きつけられた。

「何か人間のような者がいる。とても背が高い大きな人だ」

 驚くべきことがおきた。

 そのとても大きな人が山の上の彼の方を見たような気がした。

「あっ!!! 笑った!!! 」

 その人物が無気味に笑ったような気がした。

 とても小さかった彼は強い恐怖心を感じた。

 しかし、大きな声を出してその恐怖に立ち向かった。

「怖いな。でも、もっと大きくなったら絶対に怖くなくなるぞ。克服するから―― 」



 現代から2千年前の世界で、それは、木造帆船による世界最大・最強の艦隊だった。

(ところが、なぜかそれは歴史に残っていない。)

「アテルイ様。なぜか楽しそうですね。今、心の底から笑われましたね」

 艦隊副官のミリが艦隊指令長官アテルイに言った。

「そうか。笑ったのがばれてしまったか。戦場では不適切だったな。武人としてやってはいけないことだった。しかし、今発見したのだ。この島国の中でも我を上回る力を放つ者がいた」

「そうだったのですか。それならば大至急島国に上陸して捕獲しますか。お父上からも、優秀な人材を世界中から集めるように御指示されいます」

「うんうん。数年後にはそうしよう。我が見たのは、今いるこの場所とは時を超えてはるか遠い世界に存在する人間のものだった。それに驚くべきことに、その者は攻撃のオーラを我に返してきた」

「アテルイ様にですか。天をも恐れぬ不届き者ですね」

「『大きくなったら我を恐れない』そうだ。はははははは」

「それでは、現在の捕獲目的は当初の目的どおり、1人ですね。」

「うん。この島国を統治している鬼道を使う者。登与とよ姫だ」

「数年前、アテルイ様の遠征艦隊を、鬼道で大嵐を起こし、壊滅させてしまった卑弥呼ひみこの姪ですね。同じくらいの力を持つのでしょうか。」

「そうだ。それに卑弥呼を超える絶世の美女だという話しだぞ」

 司令長官のその言葉を聞いて、女性の副官のミリは少し怒ったような顔で聞いた。

「私の夜の勤務にご満足いただけてないのでしょうか? 」

 彼女の顔は真っ赤だった。

「いやいやいやいや、そんなことは全くないぞ。ミリのおかげで私は絶好調だ」



 ‥‥


 入江八広は十分の注意して声を出して数えながら階段を登っていた。



 しかし、その時の彼はなぜか不思議に非常に疲れていた。



 そして、そのせいで――――



 彼は333段目の階段を踏んでしまった。



 しかし、踏んだことすら彼は気がつかなかった。



「‥‥370段‥‥ あっ!!! 」



「333段を意識してなかった!!! たぶん踏んだな!!! 踏んでしまったな!!! 」



 彼は「何か恐るべきことが起きるのではと」おそるおそる階段の下を見た。



 何も起きなかったが‥‥‥‥。



 なんと333段目あたりに人が座っていた。



 それは女性だった。



 純白の着物姿で、月の光りを浴びてキラキラと輝いていた。



 とびきりの美少女。そして大きな瞳は月よりも美しかった。



 なぜか、その大きな瞳には悲しみの涙がたくさん溜まっているように見えた。



 優しい性格の彼は、彼女をそのままにして、ほっておけなかった。



 そっと、1段1段降りて彼女に近づいた。



「お嬢さん。悲しいことがあるのなら、不肖、私入江八広がご相談に乗りますよ。私が永遠に、お嬢さんを完全にお守りします」



 彼のその言葉を聞いても、彼女には何の反応もなかった。



(やっぱり! 女子と話したことあんまりないからな! もう少し、クラスの女子と話して勉強すべきだったな)



「ほほほほほほほほほほほほ‥‥‥‥‥‥ 」



 もう、すっかり暗くなった海見神社の階段に美少女の元気な笑い声が響いた。

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