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2 あなたが勇者様ですか
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美少女が、入江八広方をじっと見て聞いた。
「あなたが、勇者様ですか? 」
「えっ、違うわけではありません。」
彼は無言でうなずいた。
「そうですか。案外普通の方なのですね。外見では、すぐには見えない特別な力をお持ちかもしれませんね。ただ、私がおば様に教えていただいとおりの出会い方です。勇者様で違いありません。」
「おば様とは? 」
「卑弥呼といいます。邪馬台国の女王でした」
「その名前なら僕もよく知っています。歴史の授業で習いましたし、歴史上の最大のなぞですね」
「なぞですか? 」
「卑弥呼は日本の歴史に突然現われて、突然完全に消えたのです。普通、大きな国を治めていた女王様がいたとすると、その後を継いだ国々で後生語り継がれるはずですが、それが全くないのです」
「たぶん。全く別の者に私達の国が完全に侵略されるからでしょう。勇者様。私達の国を御案内します。」
そう言うと、登与とよは一段一段階段を登り始めた。
彼にとっては毎日繰り返していることなので、なんの不思議もなかった。
やがて頂上にたどり着くと、よく知っている海見神社の本殿が見えてくると思っていた。
しかし、それは裏切られた。
海見神社よりもずっと高い4本の柱に支えられた大きな神殿が、山の頂上には建っていた。
斜めに上がる、その建物の中に入るための進入路も木材で造られた廊下になっていた。
両側には、固い木材で作られた甲冑を着込んだ2人の護衛が立っていた。
彼らは登与を見ると、深く一礼した。
山の上からは月がよく見えた。今、満月が夜の空に輝いていた。
満月は調度、建物中に入る進入路の延長線上に輝き、その光は神殿の中に直接差し込んでいた。
八広やひろと登与は、進入路を上がって行った。
「あの‥‥ 土足で良いのでしょうか」
進入路がとても上質なひのきで作られているのを見て、彼が聞いた。
彼の履いている運動靴はひどく汚れていた。
「いいえ。問題ありませんよ。見かけが汚れているかどうかは問題ありません。その中身が清ければ問題ないのです。勇者様の心はとても清いですね。だから問題ありません。」
登与とよが指摘したとおりだった。
八広よひろが人並みはずれた感受性が強く、常に他人のことを思いやった。
そして、他人の気持ちが良くわかった。
他人を傷つけることが一番きらいだった。
進入路を上りきると、神殿の入口の上には太い縄が張られていた。
八広が気にしたのを見て、登与が言った。
「結界です。この神殿の中は、人間である私達が、この日本の八島の神々と対話をする神聖な場所なのです。外部の、特に大陸の神に見られないようにしなければなりません。」
「大陸の神ですか? 」
「大海原を越えた場所にある巨大な陸地を支配している神です。人間を支配する神、人間に服従を求める神、石の神です」
「そういう神なのですね‥‥ 」
満月の光りが差し込んでいるとはいえ、中はほとんど暗かった。
しかし彼女はどこに何があるのかわかっているかのように、確かな早い足取りで中を進んだ
彼はひたすら、その後に続いた。
そして、ある場所で急に止まった。
そこには、ろうそくの光りが灯されていた。
とても不思議な、ジオラマ模型のような物がそこにはあった。
しかし、彼は特に驚かなかった。
彼は、その光景を既に見たことがあったからだ。
陸の内側に食い込んだ入り江、海のそばまで山が迫っていた。
そして入り江の海にはたくさんの帆船の模型が浮かんでいた。
その中には特別に大きな帆船があった。
八広はその大きな帆船を指さした。
「この大きな帆船に、あの人が乗っているのですね」
「はい」
登与がとても険しい顔で答えて。
「アテルイが乗っています。大陸の神に祝福され、全人類を服従させるためにギフトを与えられた者。この者は既に人間ではありません」
「そんなに強いのですか。でも僕であれば勝つことができると思います」
そう言う八広を、登与は驚きの顔で見つめた。
「勇者様は怖くないのですか」
「いいえ、怖くはありません。でも5年前に顔を合わせた時は、ほんとうに怖かったですよ」
「あ――――っ!!! ほんとうに勇者様なのですね!!! たった5年でアテルイの恐怖を克服したのですね」
「一応。なんとなく。自然に」
「それならば、この八島の希望になります。お願いがあります。八島を守る兵士達に、勇者様の勇気を分けてください。恐怖を克服する方法を教えてください」
「恐怖を克服する方法を僕が教えるのですか‥‥‥‥‥‥ 」
(なかなか難しいな。明日、学校に行ったら図書室で本を探したり、ググってみるか)
「それでは、勇者様。さようなら」
突然、登与がそう言った。
気がつくと、八広は自分の家の自分の部屋の椅子に腰かけていた。
(場所的には同じだから、すぐに戻れるのか)
なんやかんやで時間を使い、彼はとても疲れていた。
ふと、本箱を見ると、依然興味本位で買った「邪馬台国の謎」という本が目に留まった。
その本を取り出して、ベッドに寝転びながら見ていると、いつのまにか彼は眠ってしまった。
次の日の放課後、彼は学校から帰り、自分の家に戻るために上がる階段の333段目を踏んだ。
すると、階段を昇りきった頂上にはとても大きな、床が高い神殿が建っていた。
昨日と大きく違い、そこには、木製の甲冑を着込んだ100人くらいの兵士達がひざまづいていた。
神殿の上には登与とよが立って、兵士達に何かを話していた。
入江八広が階段を昇りきったのを見て、登与がにっこり笑って言った。
「さあ。みなさん。大陸の恐怖を克服できる勇者様が来られました。今から、克服方法をみなさんに御教授していただきます。いいですね。しっかり聞いてください。」
100人の兵士達の注目を浴びながら、彼はゆっくりと神殿の進入路を上った。
そして、できる限り大きな、わかりやすい言い方で話し始めた。
「皆さん。『怖い』と思うことは決して悪いことではありません。むしろ、人間にとって非常に大切な心の動きなのです。大切なことは、『怖い』と思う対象を正確に分析することです。」
聞いていた兵士の1人が彼に質問した。
「勇者様。『怖い』と思うことはほんとうに悪いことではないのでしょうか? 」
八広は答えた。
「『怖い』と思い、『怖い』と思った対象から目を背けて何も見ず。自分が敗北してしまうなど、最悪の結論を決まっている事実として認識してしまうことが問題なのです。」
「あなたが、勇者様ですか? 」
「えっ、違うわけではありません。」
彼は無言でうなずいた。
「そうですか。案外普通の方なのですね。外見では、すぐには見えない特別な力をお持ちかもしれませんね。ただ、私がおば様に教えていただいとおりの出会い方です。勇者様で違いありません。」
「おば様とは? 」
「卑弥呼といいます。邪馬台国の女王でした」
「その名前なら僕もよく知っています。歴史の授業で習いましたし、歴史上の最大のなぞですね」
「なぞですか? 」
「卑弥呼は日本の歴史に突然現われて、突然完全に消えたのです。普通、大きな国を治めていた女王様がいたとすると、その後を継いだ国々で後生語り継がれるはずですが、それが全くないのです」
「たぶん。全く別の者に私達の国が完全に侵略されるからでしょう。勇者様。私達の国を御案内します。」
そう言うと、登与とよは一段一段階段を登り始めた。
彼にとっては毎日繰り返していることなので、なんの不思議もなかった。
やがて頂上にたどり着くと、よく知っている海見神社の本殿が見えてくると思っていた。
しかし、それは裏切られた。
海見神社よりもずっと高い4本の柱に支えられた大きな神殿が、山の頂上には建っていた。
斜めに上がる、その建物の中に入るための進入路も木材で造られた廊下になっていた。
両側には、固い木材で作られた甲冑を着込んだ2人の護衛が立っていた。
彼らは登与を見ると、深く一礼した。
山の上からは月がよく見えた。今、満月が夜の空に輝いていた。
満月は調度、建物中に入る進入路の延長線上に輝き、その光は神殿の中に直接差し込んでいた。
八広やひろと登与は、進入路を上がって行った。
「あの‥‥ 土足で良いのでしょうか」
進入路がとても上質なひのきで作られているのを見て、彼が聞いた。
彼の履いている運動靴はひどく汚れていた。
「いいえ。問題ありませんよ。見かけが汚れているかどうかは問題ありません。その中身が清ければ問題ないのです。勇者様の心はとても清いですね。だから問題ありません。」
登与とよが指摘したとおりだった。
八広よひろが人並みはずれた感受性が強く、常に他人のことを思いやった。
そして、他人の気持ちが良くわかった。
他人を傷つけることが一番きらいだった。
進入路を上りきると、神殿の入口の上には太い縄が張られていた。
八広が気にしたのを見て、登与が言った。
「結界です。この神殿の中は、人間である私達が、この日本の八島の神々と対話をする神聖な場所なのです。外部の、特に大陸の神に見られないようにしなければなりません。」
「大陸の神ですか? 」
「大海原を越えた場所にある巨大な陸地を支配している神です。人間を支配する神、人間に服従を求める神、石の神です」
「そういう神なのですね‥‥ 」
満月の光りが差し込んでいるとはいえ、中はほとんど暗かった。
しかし彼女はどこに何があるのかわかっているかのように、確かな早い足取りで中を進んだ
彼はひたすら、その後に続いた。
そして、ある場所で急に止まった。
そこには、ろうそくの光りが灯されていた。
とても不思議な、ジオラマ模型のような物がそこにはあった。
しかし、彼は特に驚かなかった。
彼は、その光景を既に見たことがあったからだ。
陸の内側に食い込んだ入り江、海のそばまで山が迫っていた。
そして入り江の海にはたくさんの帆船の模型が浮かんでいた。
その中には特別に大きな帆船があった。
八広はその大きな帆船を指さした。
「この大きな帆船に、あの人が乗っているのですね」
「はい」
登与がとても険しい顔で答えて。
「アテルイが乗っています。大陸の神に祝福され、全人類を服従させるためにギフトを与えられた者。この者は既に人間ではありません」
「そんなに強いのですか。でも僕であれば勝つことができると思います」
そう言う八広を、登与は驚きの顔で見つめた。
「勇者様は怖くないのですか」
「いいえ、怖くはありません。でも5年前に顔を合わせた時は、ほんとうに怖かったですよ」
「あ――――っ!!! ほんとうに勇者様なのですね!!! たった5年でアテルイの恐怖を克服したのですね」
「一応。なんとなく。自然に」
「それならば、この八島の希望になります。お願いがあります。八島を守る兵士達に、勇者様の勇気を分けてください。恐怖を克服する方法を教えてください」
「恐怖を克服する方法を僕が教えるのですか‥‥‥‥‥‥ 」
(なかなか難しいな。明日、学校に行ったら図書室で本を探したり、ググってみるか)
「それでは、勇者様。さようなら」
突然、登与がそう言った。
気がつくと、八広は自分の家の自分の部屋の椅子に腰かけていた。
(場所的には同じだから、すぐに戻れるのか)
なんやかんやで時間を使い、彼はとても疲れていた。
ふと、本箱を見ると、依然興味本位で買った「邪馬台国の謎」という本が目に留まった。
その本を取り出して、ベッドに寝転びながら見ていると、いつのまにか彼は眠ってしまった。
次の日の放課後、彼は学校から帰り、自分の家に戻るために上がる階段の333段目を踏んだ。
すると、階段を昇りきった頂上にはとても大きな、床が高い神殿が建っていた。
昨日と大きく違い、そこには、木製の甲冑を着込んだ100人くらいの兵士達がひざまづいていた。
神殿の上には登与とよが立って、兵士達に何かを話していた。
入江八広が階段を昇りきったのを見て、登与がにっこり笑って言った。
「さあ。みなさん。大陸の恐怖を克服できる勇者様が来られました。今から、克服方法をみなさんに御教授していただきます。いいですね。しっかり聞いてください。」
100人の兵士達の注目を浴びながら、彼はゆっくりと神殿の進入路を上った。
そして、できる限り大きな、わかりやすい言い方で話し始めた。
「皆さん。『怖い』と思うことは決して悪いことではありません。むしろ、人間にとって非常に大切な心の動きなのです。大切なことは、『怖い』と思う対象を正確に分析することです。」
聞いていた兵士の1人が彼に質問した。
「勇者様。『怖い』と思うことはほんとうに悪いことではないのでしょうか? 」
八広は答えた。
「『怖い』と思い、『怖い』と思った対象から目を背けて何も見ず。自分が敗北してしまうなど、最悪の結論を決まっている事実として認識してしまうことが問題なのです。」
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