入り江物語~異世界との切れ目を踏み転移しましたが、1人で戦う女王の味方になります。勇者の義務を立派に果たします!!

ゆきちゃん

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8 姫が現代に来る

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 石の国の大侵略を退けた後、入江八広いりえやひろは自分の世界に戻ることにした。

 邪馬台国の軍人達と今後のことを話し合った後、階段を333段目まで歩いて行こうとした。

 1段目を下ろうとした時だった。

「勇 者 様 ‥ ‥ 」

 彼は登与とよに呼び止められた。

 登与はすでに着替えを済ませて降り、木綿もめん織られた厚手の白装束は乾いていた。

 八広は彼女の方を振り向いた。

「あっ、どうしてですか。お顔に何か落胆の顔が見えますが。それはなぜですか? 」

「‥‥いえいえ少しも落胆していませんよ。白装束の登与姫ははとてもお美しく、たぶん、私の世界に来られても、みんなが非常に驚きます」

「そうですか。勇者様、お願いがあるのですが」

「はい? どういうことでしょうか? 」

「私を勇者様の世界に連れて行っていただけませんか。本来ならば未来に行くのはタブーで無理な話なのですが、私の体は鬼道のオーラで覆い保護することができます。それに勇者様の同意があれば大丈夫です」

「登与姫様。僕の世界は今の世界より、決してすばらしいものではありませんが―― 」

「問題ありません。私は2千年を超えた景色が見たいのです」

「そうですか。それでは御案内します」

「たぶん、鬼道の力が最も強くなる明日、満月の日ならば可能だと思います。よろしくお願いします」

「わかりました。お迎えに参ります」



 そう言うと、八広は階段を降り始めた。

 振り向くと、登与が手を振っていた。

 なぜか微笑んでいるような気がした。

「それにしても、雨に濡れた登与さんはとてもとても美しかった。もう、あの姿は一生忘れることができないな。それにしてもなんて美しい胸だったのだろう‥‥ 」



 翌日の朝、入江八広いりえやひろは333段目の階段を踏んで、異世界に転移した。

 転移してから階段を昇り頂上まで登ると、登与が待っていた。

 登与はカラフルで美しい巫女の装束を着ていた。

 八広は急いで登与の前に走り寄ると、深くおじぎをした。

「それでは、僕の世界に御招待します。たまたm、僕の世界では今日は特別な日でした」

「そうですか。それは楽しみです。ところで、世界を超えると時間はどうなっているのですか」

「ほとんど同じ時間に転移します。どの時間がお好きですか」

「やはり、明るい晴れた日のこの入り江の光景を見たいのです」

「それでは、お昼くらいにしませんか」

「はい。お願いします。後少し時間がありますね。ところで勇者様。朝餉あさげはもうお食べになりましたか」

「いえいえ。まだ食べていません。というよりも、僕は毎日、朝は何も食べません」

「大丈夫なのですか」

「問題ありません。大好きなコーヒーを飲むのです」

「コーヒー? どういう飲み物でしょうか? 」

「僕の世界でも好き嫌いがある飲み物ですが、いわゆる自分の人生を味わうことができる飲み物です」

「そうですか。きっと味わい深いものなのですね」

「勇者様。この世界でみんなが食する一般的な朝餉を準備しています。御馳走します。どうぞ、こちらへ」

 その後、八広は邪馬台国の神殿の中に用意された朝餉を御馳走になった。

 焼き魚や海苔のりがメインだった。

 一つ、八広がびっくりとしたことがあった。

 焼き魚はあじだったが、八広が自分の世界でいつも食べている味とは全く違っていた。

(そうか。2千年経つと、海から捕れる食材の味もこんなに変わるのか)

 しばらくして昼が近くなり、八広が現代に戻り、登与が初めて現代の世界に転移する時間になった。

 2人で並んで階段を降りた。

「登与さん。次が333段目なのです。僕と同じようなタイミングで両足を置いてくださいね」

「はい」

 2人の両足がほぼ同時に333段目に置かれた。

 すると、2人の姿はその場で消えた。



 2人は同時に現代の世界に姿を現わした。

 しかし、登与はその場で固まり、いつまでも動こうとしなかった。

 八広は大変心配したが、やがてその理由がわかった。

 彼はそれまで気がつかなかったが、太陽の光りが海に反射してとても美しかった。

 入り江全体がキラキラと輝いていた。

「変わりませんね」

「えっ? 」

「ここから見ることができる景色は2千年前と少しも変わっていません。よかった。これならば太陽の御加護がまだ続いていますね」

「登与さん。現在のこの国の名前ですが、『日本』なんです」

「そうですか!!! すばらしい名前ですね!!! ところで勇者様、あなたの生きるこの世界を御案内していただきたいのですが」

「はい。どうぞ。姫、勇者がどこにでもお連れしますよ」

「お願いがあります。人が多い場所に行きたいのですが」

「えっ 人が多い場所ですか‥‥‥‥ 」

「わかりました。今から出かけましょう。さあ。私の後について階段を降りてください」

 八広は登与を先導して、海見神社の階段を降り始めた。

 そして、ふもとの倉庫から自分の自転車えを取り出してきた。

「登与姫様。僕のこの時代には快適に乗れて、早く移動できる乗り物がたくさんあります。でも、今御用意できるのは最低の乗り物です。すいません」

「かまいません。早く、人が多い場所に参りましょう」

 八広は自転車にまたがり言った。

「姫様。僕の後ろに椅子のようなものがあります。ここにまたがってください」

 八広の指示に従って、登与は自転車の補助席に乗った。

「それから、今から動き出しますので、両腕で僕の体にしがみついてくださいね」

「しがみつく? こうですか? 」

 八広にとって夢のような時間が始まった。

 彼は自動車より早く海岸沿いの道を走った。



 2人は八広が通う高校がある松浜市についた。

 市の自転車置き場に停めてから、2人は並んで雑踏の中を歩き始めた。

 現代のセンスとはかけ離れたカラフルな衣装をきた美少女に、行き交う人々が大注目した。

「なんだ。今のコスプレヤーはとても変な服を着ていたけど超美人だったぞ」
「あんな神秘的な日本美人。このごろどこにもいないな。服装が超ダサイけどな」

 そうこうしているうち、八広は手を引っ張られ止められた。

(八広。この娘があなたの心を支配しているのね。でも困った。超美少女じゃん)

 北川風香だった。

「八広。その娘があなたの今の彼女なの。でも‥‥服装を変えた方がいいわよ」
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