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9 姫が現代に来る2
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入江八広にとって、ファッションとは最も縁遠いものだった。
登与が今着ている古代の巫女装束について、現代人の目にはどのように見えるかなど知ったことではなかった。
「八広、この娘、超美少女ね。でもその服装を着て今日歩いていると、たくさんの人に撮影され、SNSでバズる可能性があるわね‥‥‥‥じゃあ、ちょっと借りるね。」
北川風香がそう言った。
「さあ、行こう」
風香は登与の手を引いて、どこかに行ってしまった。
後、彼は1人で、行き交う多くの人々の中、雑踏に残された。
「えっ‥‥‥‥‥‥ 」
風香は登与の手を引き、松浜市で最も大きなユニロクの店舗に近づいた。
「超美人で目立つ服装だから、超目立つわね」
「ごめんなさい」
「えっ 今なんて言ったの」
登与が風香に向かって申し訳なさそうに言った。
「勇者様の奥様ですね。すいません。今日は不謹慎にも私が頼み込んだので2人きりで歩いていたのです」
「え――っ 奥様!!! 違う違う 全く違うわ ただの友達よ、もう少し詳しくいうと、ほんの小さな子供の頃から彼のことを知っているから、いわゆる幼なじみね」
「幼なじみですか? 私、少し違った国から来ているから言葉の意味を完全に理解はできないでしょうけど。単に『偶然に生まれた家が近くて物心ついた時から知っていた』という程度ですね。よかったわ」
「はいはい 大体あっていますよ。それでは入りますよ」
2人はユニロクの中に入って行った。
多くの人が行き交う繁華街の雑踏のど真ん中、八広はひたすら立って、待っていた。
(ここで待っているしかないな)
今日は祝日だった。そして、1年の内でも特別な日だった。
しばらくして、向こうから風香と登与が歩いてくるのがすぐに分った。
登与は既にユニロクファッションに身を包んでいた。
「八広。登与さんは顔もスタイルも良いから、すぐ決まったわ。それも、うらやましいほど、どの服を当てても似合うのよ、私、自分に全く自信がなくなってきた」
「そんなことないですよ。風香さんが今着ている服装も『ものすごく似合って』いますよ。ところで、風香さん。お金は? 」
「いいわ、いいわ。調度バイト代が入ったばかりだから、八広に貸しといてあげる。無利子で好きな時に返してくれれば良いわ」
「ありがとう」
「それでは、2人でデートの続きを楽しんでね」
北川風香はかわいらしく、さっと手を振るとすぐに大勢の雑踏の中に消えてしまった。
「勇者様。あの、勇者様のことを八広様とお呼びしてよろしいですか」
「もちろんです。様を抜かして、単に『八広』でもかまいません」
「いえいえ、そのような大それたことはできません。それでは、これからは『八広様』と呼ばせていただきます」
しばらく、大勢の人々が行き交う雑踏の中を2人で歩いた。
「八広さん。いつもこの町はこんなに人が多いのですか」
「いえ。今日だけは特別な日なんです。今日はお祭りなんです」
「お祭り‥‥ ですか? 」
「はい。昔、昔、何かとてもお目でたいことがあって、もうそれが何か忘れられていますけど、みんなで、それをお祝いする日なのです」
「昔、起こったお目でたいことの内容の記録は何も残っていないのですか」
「はい。ほとんど。しかし僕は、もう亡くなったおじいさんに昔聞いたことがあります。‥‥何か、神々どおしの戦いがあり、この日本の神がなんとか勝ったことができたようです」
「そうですか! よかったですね! 私は八島の神々に仕える巫女です。是非、八島の神々が石の国の神々に勝利することができたら良いなと思います」
「石の国はどう出るでしょうか? この間は、ほんのまぐれで勝つことができただけのような気がします」
「あの人達は決してあきらめません。この星の上に生きる物全てが、自分達にひれ伏すことを目的としているからです。それに、石の国の人々が侵略を止めようとしても、神々が止めることを許さないでしょう」
「なんで共存を認めないのでしょうか? 」
「‥‥そうですね‥‥ 私にも理由がわかりません。ただ、八島の国の神々の心を代弁すると、完全な敵、全く認めることができない正反対の存在だからではないでしょうか」
(しかし、今日はほんとうに疲れるな。すれ違う人々のほとんど100%、登与さんに注目して写真を撮ったり何か話して行くな。美少女というだけではなく、やはり、引きつけられるのだろう)
その時だった。周囲に、ドンという大きな音がして歩いている人が一斉に空を見上げた。
登与は、生まれて初めて聞いたドンという音にほんとうに驚いたようだった。
「八広様。今の音は何ですか。雷よりも怖い音ですね」
「登与さん。上を空を見上げてください」
少し暗く成りつつあった空に、花火の残像がまだ残っていた。
「まあ―― あれはなんですか。なんて美しい!!! 」
「あれは花火といいます。人間が作っているのですよ。今日のように、みんなで特別なことを祝うお祝いの日に打ち上げられるものです」
「人間の仕業ですか。人間がこんなことをできるようになるなんて、ずいぶん進歩したのですね」
「はい。良いことかどうかは別にして、人間は全ての理屈を解き明かしつつあります。いわゆる合理主義です」
夏の日暮れは早い。
もう当たりは真っ暗になり、空に連続して打ち上げられる花火が、次々に美しく輝いた。
ただ、入江八広は空を見ていなかった。
彼は、花火の光りに微妙に映し出される登与の横顔に見とれていた。
花火が打ち上がっていた日本の松浜市とは違う時、違う場所‥‥‥‥
八島の国にある邪馬台国から大海原を隔てて存在する大陸での時間だった。
大帝国の帝都、銀河宮の謁見の間で、アテルイは皇帝に邪馬台国への侵攻の結果を報告した。
その後、彼が謁見の間の大きな扉を軽々と一人で開けて、外に出た時のことだった。
「お兄様。負けたのですか? 」
2メートル近い大男のアテルイともつり合う、身長が高い女性に呼び止められた。
「ザラか―― 負けた訳ではないぞ。八島で戦った相手が、鬼道に連動して雷光を出したのだ。だから、特殊戦力に出会ったことを父上、皇帝陛下に報告しただけだ」
「雷光? 人間が使うことができるほぼ最強の武器ですね。どのような戦士ですか? 」
「うん。私よりもかなり若い。しかし、私と同じくらい心が強い」
「お兄様と対等の男がこの世界にいたのですか!!! 是非是非、相手をして戦ってみたいものですわ」
登与が今着ている古代の巫女装束について、現代人の目にはどのように見えるかなど知ったことではなかった。
「八広、この娘、超美少女ね。でもその服装を着て今日歩いていると、たくさんの人に撮影され、SNSでバズる可能性があるわね‥‥‥‥じゃあ、ちょっと借りるね。」
北川風香がそう言った。
「さあ、行こう」
風香は登与の手を引いて、どこかに行ってしまった。
後、彼は1人で、行き交う多くの人々の中、雑踏に残された。
「えっ‥‥‥‥‥‥ 」
風香は登与の手を引き、松浜市で最も大きなユニロクの店舗に近づいた。
「超美人で目立つ服装だから、超目立つわね」
「ごめんなさい」
「えっ 今なんて言ったの」
登与が風香に向かって申し訳なさそうに言った。
「勇者様の奥様ですね。すいません。今日は不謹慎にも私が頼み込んだので2人きりで歩いていたのです」
「え――っ 奥様!!! 違う違う 全く違うわ ただの友達よ、もう少し詳しくいうと、ほんの小さな子供の頃から彼のことを知っているから、いわゆる幼なじみね」
「幼なじみですか? 私、少し違った国から来ているから言葉の意味を完全に理解はできないでしょうけど。単に『偶然に生まれた家が近くて物心ついた時から知っていた』という程度ですね。よかったわ」
「はいはい 大体あっていますよ。それでは入りますよ」
2人はユニロクの中に入って行った。
多くの人が行き交う繁華街の雑踏のど真ん中、八広はひたすら立って、待っていた。
(ここで待っているしかないな)
今日は祝日だった。そして、1年の内でも特別な日だった。
しばらくして、向こうから風香と登与が歩いてくるのがすぐに分った。
登与は既にユニロクファッションに身を包んでいた。
「八広。登与さんは顔もスタイルも良いから、すぐ決まったわ。それも、うらやましいほど、どの服を当てても似合うのよ、私、自分に全く自信がなくなってきた」
「そんなことないですよ。風香さんが今着ている服装も『ものすごく似合って』いますよ。ところで、風香さん。お金は? 」
「いいわ、いいわ。調度バイト代が入ったばかりだから、八広に貸しといてあげる。無利子で好きな時に返してくれれば良いわ」
「ありがとう」
「それでは、2人でデートの続きを楽しんでね」
北川風香はかわいらしく、さっと手を振るとすぐに大勢の雑踏の中に消えてしまった。
「勇者様。あの、勇者様のことを八広様とお呼びしてよろしいですか」
「もちろんです。様を抜かして、単に『八広』でもかまいません」
「いえいえ、そのような大それたことはできません。それでは、これからは『八広様』と呼ばせていただきます」
しばらく、大勢の人々が行き交う雑踏の中を2人で歩いた。
「八広さん。いつもこの町はこんなに人が多いのですか」
「いえ。今日だけは特別な日なんです。今日はお祭りなんです」
「お祭り‥‥ ですか? 」
「はい。昔、昔、何かとてもお目でたいことがあって、もうそれが何か忘れられていますけど、みんなで、それをお祝いする日なのです」
「昔、起こったお目でたいことの内容の記録は何も残っていないのですか」
「はい。ほとんど。しかし僕は、もう亡くなったおじいさんに昔聞いたことがあります。‥‥何か、神々どおしの戦いがあり、この日本の神がなんとか勝ったことができたようです」
「そうですか! よかったですね! 私は八島の神々に仕える巫女です。是非、八島の神々が石の国の神々に勝利することができたら良いなと思います」
「石の国はどう出るでしょうか? この間は、ほんのまぐれで勝つことができただけのような気がします」
「あの人達は決してあきらめません。この星の上に生きる物全てが、自分達にひれ伏すことを目的としているからです。それに、石の国の人々が侵略を止めようとしても、神々が止めることを許さないでしょう」
「なんで共存を認めないのでしょうか? 」
「‥‥そうですね‥‥ 私にも理由がわかりません。ただ、八島の国の神々の心を代弁すると、完全な敵、全く認めることができない正反対の存在だからではないでしょうか」
(しかし、今日はほんとうに疲れるな。すれ違う人々のほとんど100%、登与さんに注目して写真を撮ったり何か話して行くな。美少女というだけではなく、やはり、引きつけられるのだろう)
その時だった。周囲に、ドンという大きな音がして歩いている人が一斉に空を見上げた。
登与は、生まれて初めて聞いたドンという音にほんとうに驚いたようだった。
「八広様。今の音は何ですか。雷よりも怖い音ですね」
「登与さん。上を空を見上げてください」
少し暗く成りつつあった空に、花火の残像がまだ残っていた。
「まあ―― あれはなんですか。なんて美しい!!! 」
「あれは花火といいます。人間が作っているのですよ。今日のように、みんなで特別なことを祝うお祝いの日に打ち上げられるものです」
「人間の仕業ですか。人間がこんなことをできるようになるなんて、ずいぶん進歩したのですね」
「はい。良いことかどうかは別にして、人間は全ての理屈を解き明かしつつあります。いわゆる合理主義です」
夏の日暮れは早い。
もう当たりは真っ暗になり、空に連続して打ち上げられる花火が、次々に美しく輝いた。
ただ、入江八広は空を見ていなかった。
彼は、花火の光りに微妙に映し出される登与の横顔に見とれていた。
花火が打ち上がっていた日本の松浜市とは違う時、違う場所‥‥‥‥
八島の国にある邪馬台国から大海原を隔てて存在する大陸での時間だった。
大帝国の帝都、銀河宮の謁見の間で、アテルイは皇帝に邪馬台国への侵攻の結果を報告した。
その後、彼が謁見の間の大きな扉を軽々と一人で開けて、外に出た時のことだった。
「お兄様。負けたのですか? 」
2メートル近い大男のアテルイともつり合う、身長が高い女性に呼び止められた。
「ザラか―― 負けた訳ではないぞ。八島で戦った相手が、鬼道に連動して雷光を出したのだ。だから、特殊戦力に出会ったことを父上、皇帝陛下に報告しただけだ」
「雷光? 人間が使うことができるほぼ最強の武器ですね。どのような戦士ですか? 」
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