あなたに出会えたことは悲劇ではありません(オニ族の姫とオニ狩り剣士の恋)

ゆきちゃん

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1 出会いは運命の女神の気まぐれ

 天界の神々の中でも、運命の女神は特に気まぐれであった。



 その女神は人間が創作した、かの悲恋悲劇の名作を読んでいた。

 それは、「ロミオとジュリエット」といった。



 読み終えた後、女神は感動した口調で言った。

「まあ、なんて素敵な物語なのでしょう。私も是非、こんな恋愛悲劇を作りたいわ―― では、異世界でこのような美しい物語を展開させましょう」



 その後、女神は自分が管理しているある異世界を指差し、女神の力を発動させた。




 ‥‥‥‥‥‥‥



 その異世界において、人間界とオニと呼ばれた死人の世界とはつながっていた。

 オニは人間から生まれ、人間とほとんど変わらない容貌を持ち、オニになってから、人間の数倍の人生を過ごした。



 死人の世界は人間界の天空、高い場所に有り、大きな坂が人間の世界である地上に向けて降りていた。

 そして最後は、地上にある高天原という広い草原にかかっていた。



「姫様! 」



 オニ族の姫が20~30人の侍女達に囲まれて、花摘みをしていた。

 ここは、例年季節になるとたくさんの美しい花々が咲く特別の場所だった。



 オニ族の姫はここがとても好きだった。

 そしてこの草原は、オニの世界の一番端、人間界との緩衝かんしょう地域にあった。



 死人の世界を照らす常闇の月と、人間の世界を照らす日輪の太陽。

 2つが同時に空にかかっており、2つの光りがブレンドされ地上に向けて照らされ、光り輝いていた。



 オニ族の姫は月の光のように輝く長い銀髪、大きな赤い瞳をしていた。

 腕には赤い蝶の紋章。

 ~人間の言葉で表現すると「絶世の美女」だった。



 高天原には多くの動物達も生息していた。

 ただ場所的に、特別な生き物も生息していた。



 それは、影狼。

 普段はとても小さな生き物。

 何万の個体が人間のこぶしに収まるくらい小さくなっている。



 ところが、彼らが餌食にできる獲物を見つけると、人間界にいる狼と同じくらいの大きさになって襲いかかる。

 襲撃の仕方は狡猾こうかつで狩りが成功するまで決して諦めなかった。







 その瞬間。

 高天原で花摘みをしていたオニ族の姫と侍女達は周囲が異常なことに気が付いた。

 彼女達は知らないうちに、1万匹くらいの影狼の群れに囲まれていた。



「姫様。私達の後ろにお隠れください」

「どうしましたか? 」

「囲まれました。影狼の群れです。気が付くことができす申し訳ありません」



 侍女達は既にふところから、短剣を出して構えていた。

 やがて、影狼は一斉にジャンプして襲いかかってきた。

 オニ族の女性達は、極めて戦闘力が強かった。



 瞬時に影狼の致命傷になるのど元に短剣を鋭く一閃いっせんさせた。

 1人の侍女が数百匹を殺傷していた。



 しかし、影狼にとって、それは想定内のことだった。

 侍女達が切っても切っても、影狼の襲撃のジャンプは無くならなかった。

 やがて、影狼が予想していた事態になった。



 彼女達の体力が尽きた。



 そして反応や動作が弱くなり、だんだん影狼の攻撃が届き始めた。



 今度は逆に、彼女達の美しいのどもとが、鋭い牙や爪で切り裂かれた。

 1人‥‥また1人と、倒れ死んでいった。



 オニ族の死は完全な死。



 この世界から完全に消滅してしまう。

 やがて、オニ族の姫はたった1人で、1万匹の影狼に囲まれてしまった。



「私を守り死んでいった侍女達には申し訳ありません。これでは、すぐに後を追ってしまいますね。お父様の言いつけを守り、もっと剣の習練を積めばよかったです」



 姫は王族に伝わる宝剣を身につけていた。

 そして、その宝剣を抜いた。

 宝剣の名前は「黒斬こくざん」、姫はぎこちない姿でそれを構えた。



 その時のことだった。



「卑怯だな」



 よく通るりんとした大きな声が聞こえた。



 同時に、姫を囲む一方の方向の影狼が、たちまちのうちに切り伏せられた。

 影狼が倒れた場所には長い道ができた。

 そしてその道を人影が全速力で駆け抜けてきた。



 影狼は非常に驚き、警戒体制をとり、その場に静止した。



 オニ族の姫の大きな赤い瞳に、その姿は次第に大きく映り始めた。



 最後には、背の高い若者が目の前に現われた。

 

 背の高い若者は、独特の巻き毛の下に柔和で優しい表情をしていた。

 とても明るく楽観的で、愉快な性格がすぐにわかった。

 さらに人間なのに、オニ族を恐怖と憎しみの目では見なかった。



 彼は暖かい顔で優しく彼女に微笑みかけていた。



「お嬢さん。大丈夫ですか。私が来ましたからにはもう大丈夫。あなたを絶対にお守りします」



 驚くべきことに彼は一瞬、彼女の前にひざまずき最高の礼儀を示した。







「あ――っ」



 突然、人間の若者が大声を上げた。



「どうなされたのですか? 」

 オニ族の姫が聞くと、人間の若者は悲しそうに自分の手元を見た。



 すると、さきほど多くの影狼を切り伏せた反動で、彼の剣の剣先はほとんど欠けていた。

「申し訳ありません。格好いいことを言ったばっかりなのに、これでは戦いません‥‥ 」



 オニ族の姫は躊躇ちゅうちょせず申し入れた。

「どうぞ。この剣をお使いください」



 人間の若者に、彼女はオニ族の宝剣、黒斬を渡した。

「ほんとうに良いのですか。これは相当な名剣に違いありません。きっと、この世の中で奇跡的に鍛えることができた剣に違いありません」



「どうぞ差し上げます。全く問題ありません」

「ありがとうございます。一時、お借りします」



 その頃、2人を囲んで様子を見ていた1万匹の影狼も、攻撃を再開する決意を固めていた。

「お嬢さん。しばしご辛抱を―― 」







 1万匹の影狼が、すさまじい攻撃を開始した。

 これに対し、人間の若者は光りの速さで宝剣を振るった。

 黒斬はオニ族の宝剣であったが、彼にはよくなじんだ。



 しかし、超人的な剣技をもつ彼だったが、オニ族の姫を守りながらの戦いは不利だった。

 それが弱点となり、たびたび影狼の牙や爪に体を削られた。



「私はかまいません。御自身の体を守ってください」



「それは無理です‥‥良い方法に気が付きました。僕の背におぶさってください。僕と一体になれば影狼の攻撃は完全に防御できます」



「僕と一体になれば?? 」



「失礼しました!! 他意は全くありません。ほんとうです!!!! 」  



 人間の若者は、オニの姫を背におぶると剣技のスピードはかなり上がった。



 やがてすぐに、1万人の影狼を全て切り伏せてしまった。







「ありがとうごさいました。私はオニ族の国王、炎王の第1王女、月夜見つくよみです。人間のあなたに仇の種族の私が助けていただけるなんて」



「お嬢さんが人間でもオニ族でも、僕は全力を尽くしてお守りしたでしょう」



 若者はまた、柔和で優しい顔で微笑んだ。
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