私の勇者ならワンチャンあれば十分です!全く問題ありません!!

ゆきちゃん

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38 さようなら

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 宮殿の中にある王の執務室で話し合いがなされていた。

 ヘンリー国王に加え、弟である辺境伯チャールズと士官学校の校長ロダンがいた。



「チャールズよ。そなたとそなたの息子、私の甥のアルフレッドは最高位の魔女サバトに見事にだまされたというのだな。」



「はい、兄上。サバトは私の屋敷に来て、『勇者の剣』を所有しており、さらに真の勇者の候補であるチャールズに譲ると申し出ました。そして、私達は魔女が持ってきた剣をほんとうの『勇者の剣』だと思い、それを自分の物にしたアルフレッドは、真の勇者の候補になれたと確信しました。」



「最高位の魔女サバトはそのようなことをして、いったいどうしようと思ったのか。」

 国王の疑問に、士官学校校長のロダンが自分の意見を述べた。



「アルフレッド様の心の闇につけ込んだのでしょう。失礼ですが、剣術大会で敗れたことを最大限に卑下され、心を病んで引きこもっておられたあの方に、安易に立ち直る偽の手段を示したのです。」



「そして、チャールズは偽の勇者候補に仕立てられたわけだな。親として絶対に許せん。」



「国王様、辺境伯様、士官学校の校長としてではなく闇の存在を憎むハーフエルフとして、私は申し上げなけれらばならないことがあります。あくまで推定ですが。」



「なんだ、ロダン、遠慮することはない。推定でも良いから教えてくれ。」



「魔界の介在です。失意のどん底から安易に立ち直る偽の手段で勇者の候補となり、低級魔族といえども大群を剣を抜くだけで全て後退させてしまったのです。増長して威張り散らしてしまうのは必然です。それは、勇者の候補に対する人々の失望につながります。」



「そうか、最高位の魔女サバトは魔界のために動いたのだな。連動して、王都イスタン近郊の草原に低級魔族の大群やあげくの果てには上級魔族である魔神も現れたからな。」



「陛下、最高位の魔女サバト個人だけではありません。サバトはロスチャイルド家の当主ゲールの妻です。私はロスチャイルド家が魔界に関係していると思います。」



「理由があるのか。」



「士官学校でここ数年、魔界との関係がある事件が発生しています。仮想戦場が魔族との戦いになったこと。キラーマンティスの大群が訓練場に現れたこと。つながりはもうわかっています。3年生の中にロスチャイルド家のゲールとサバトとの間の娘、ザラがいるのです。」







 数日後、ロスチャイルド家の広大な邸宅が国軍に囲まれていた。

 城門のように頑丈な屋敷の門の前で、司令官が大声で叫んだ。

「ロスチャイルド家を国家転覆共謀罪で家宅捜索する。門を開けろ。」



 屋敷の中からは、物音一つ聞こえてこなかった。

 副官が司令官に意見を言った。

「司令官様、強制的に中に入りましょうか。」



「そうだな。そうするしかないな。」

 司令官が右手で突入の指示を出そうとした時、屋敷の門が静かに開き始めた。

 完全に開ききった時、そこには1人の男が立っていた。



 執事のアスタルトだった。

 そして執事は言った。



「ゴード王国の国軍の皆様方、本日はロスチャイルド家のお見送りに来ていただきありがとうございました。当家は本日、ただ今から引っ越しを致します。」



 やがて、昼間というのに屋敷の中だけがだんだん暗くなった。

 そして、執事の姿や建物が完全な暗闇の中に溶けて全く見えなくなった。



 大変驚いた司令官が言った。

「ここで、何が起こっているのだ。」

 それに答えるかのように、完全な暗闇の中から声がした。



「簡単なことです。屋敷ごと引っ越しをしているのです。行き先は魔界です。それでは皆様さようなら。我がロスチャイルド王家は5年後に再びこの場所に帰って来ます。いや、帰って来るというよりも別の言い方の方が正確ですね――人間界への侵攻を開始します! 」







 深夜、熟睡していたランスロはふと目が覚めた。

 誰かが彼を呼んでいた。

(外に来てほしいと……)

 部屋を出て寄宿舎の出入り口まで降りていった。

 不思議なことに鍵は外されていた。



 ランスロは外に出た。

 季節は冬も深まり寒さが増してきていた。

 夜の空に無限大の星々がきらめき、とても美しかった。



「あっ、ザラさん。なんでこんな時間に。」



「よく眠っていた時に起してしまったな。申し訳ない。実は、急な話だが私の家はゴード王国から別の国に引っ越すことになったのだ。」



「えっ……士官学校も退学するのですか。」



「仕方がない。私が引っ越す国は、ゴード王国とは対立関係にある敵国だ。」



「そうですか、寂しいです。もう、会うことも難しくなると…………」



「会えるには会えるぞ、たぶん5年後に。」



「…………………ザラさんが行く国はまさか。」



「その考えであっているぞ。闇に囲まれた国だ。そして私はその国の王族で、第1王位継承権をもっている。しかも、国にとって宿命な時に王となって、やることが義務づけられている。」



「必ずやらなければならないのですか? 」

 ランスロのその問いに、ザラは悲しそうな顔をして深くうなづいた。



「人間界への侵攻を行わなければ、古くからの掟おきてに従い、私は王族ではなくなり死罪になる……今の正直な気持ちを言うと、それでもいいがな。私はランスロと戦いたくない!!! 」



「僕もザラさんとは戦えません!!! 絶対に戦いません!!! 」



「はははははは、勇者がそんなこと言っていいのか。」



「魔王も同じことを言いました。」



 ザラはランスロと目を合わせた。

「さようなら………………」



 彼女は振り返って、歩いていった。

 そしてしばらくすると、彼の視線から消えてしまった。



 その後、ランスロはいつまでも上を向いて、長い間、美しい星々を見ていた。
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