私の勇者ならワンチャンあれば十分です!全く問題ありません!!

ゆきちゃん

文字の大きさ
55 / 71

55 ネイトメア(悪夢)4

しおりを挟む
「やられた。」

 上級魔族ナイトメアゼロは魔界でつぶやいた。

 悪夢の檻おりの閉じ込め、悲劇の無限ループを見せ続けていたグネビア王女がそれを破った。



「なんて心が強い王女なんだ。10回ループの後、私の悪夢の深淵に落ちていくのではなく否定するとは、尋常じゃない強さだ。分身を使い命を奪おうとしたら植物系魔族のマリ達に妨害されていまった。まあいい。これで勇者の候補を悪夢に閉じ込めるのに専念するだけだ。」









 騎士ランスロは既に20回目のループを終えていた。

 そして彼は、かなり深い悪夢の深淵に落されていた。

 完全な絶望に、心を全て支配されそうになっていた。



 ランスロは馬を走らせ王都イスタンに向かっていた。

 体の調子が悪くふらふらして、馬から落ちないのが不思議なくらいだった。

 順調に行程は進み、午後には王都に通じる大街道に出ることができた。

「後はこの街道をひたすら前に進むだけ、休まず行こう。」



 彼はしばらく馬を進めて王都まであとわずかな距離まで進んだ時、反対側からかなりの速さで走ってくる早馬があった。

(人にぶつかるとあぶないなあ。なぜ、そんなに急ぐのだろう。)



 その早馬はだんだん彼との距離が近づくと、なぜか馬の速さをゆるめ始めた。

 馬の乗り手がランスロを見て、とても驚いて大きな声をあげた。

「ランスロ!!! 」



 彼は違和感に気がついた。

「フィリップ!!! また………………」







 王宮前の広場に、王都イスタンに住む多くの住民達が集まっていた。

 その数は10万に及ぶのではないかと言われていた。

 やがて大観衆の目が、広場を見渡せる王宮のバルコニーに注がれた。



 信じられないほどの大歓声が起きた。

 重病と言われ1か月ほど姿を見せなかったグネビア王女が、王宮の中からバルコニーに歩いて姿を見せたからだった。



 心の奥底までの優しさと強さを秘めたきれいな青い瞳で微笑む、輝くように美しい王女の顔は、遠くの住民達にもはっきり見えた。

 バルコニーの端には、警護役の騎士が警戒を徹底していた。



 騎士の名前はフィリップ。ランスロとは士官学校の同級生で、ずっと寄宿舎の同室で暮らした貴族序列第1位のコンラート公爵家の次期当主だった。

 フィリップは今、王宮直属の近衛騎士団の騎士になっていた。



 しばらくして、グネビア王女はバルコニーから再び王宮の中に戻った。

 騎士フィリップは抜かりなく警護を徹底して、後ろに続いた。

 王宮に入ってから、グネビア王女がフィリップに言った。



「フィリップ。警護ありがとうございました。ところで、トランスファー城の騎士ランスロのことで何か知っていますか。あなたは士官学校の同級生で寄宿舎のルームメイトなのですね。ランスロのことで何か胸騒ぎがします。」



「王女様。ランスロとは士官学校を卒業為て以来、もう1年近く会っていませんが、この頃夢の中に良く出てくるのです。彼はとても苦しそうな顔で何かを悩んでいるようなのです。」



「そうですか。もしかしたら、夢の中でランスロと会っているのかもしれませんね。もし可能でしたら、『私は元気になりました。』と伝えていただけますか。」



「わかりました。」







 とても懐かしい再会だったが、フィリップはとても険しい表情だった。

 ところが一瞬、彼が見ている映像が心の底から微笑んでいる顔のフィリップと転換し、また元に戻った。



 大街道の途中でランスロに出会ったことに、非常に驚いているようだった。

「どうしてそんなに急いでいるんですか。その答えはあまり聞きたくないのだけど。」



「トランスファー城に行こうとしていたんだ。大切なことを知らせるために、馬を走らせてきたんだ。ずっと君のことを考えながら――――」



「僕のことを………………まさか! 」



 その後また、彼が見ている映像が心の底から微笑んでいる顔のフィリップと転換し、また元に戻ったりを繰り返した。

 そして最後には、心の底から微笑んでいる顔のフィリップになった。



「グネビア王女様は数日前に元気になられ、昨日も王宮のバルコニーに立たれ広場に集まった10万人の人々にお姿を見せられたよ。それからランスロへの言付けがあるんだ。『私は元気になりました。』と伝えてほしいと言われたんだ。」



「えっ!!! よかった!!! フィリップ。ありがとう――」



「ランスロ。よく寝て。起きたらまた会おう――」



 2人は近づいて肘タッチをした。

 そして、心から愉快な2人の若者の笑い声が周囲に響いた。



 心が大変元気になった勇者の候補から神聖の力の覇気があふれ出し、上級魔族ナイトメアゾロの力で作られた悪夢を完全に消滅させた。







 魔界にいながら魔術鏡でランスロを監視していたゼロが言った。



「私の悪夢を完全に消してしまった。これが勇者の候補の力なのか。それにしても、私が悪夢に登場させた人物が、実際の本人の意識と成り代わってしまうなんて、こんな非常識なことが起きるのか。勇者の候補とその人物との結びつきはそんなに強いのか。」



 その後、煙のような姿のゼロがポツリと言った。



「まあ、もういい。元々私は毎日いろいろなことを経験している人間の夢の一部を悪夢にして楽しんでいる魔族だ。それに、人間が悪夢を払拭ふっしょくして元気になるのを見るのもきらいではない。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

処理中です...