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39 悲劇に向かうのか2

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「姫軍師、なんて失礼なことを言うのだ。私は純粋にルル女王の良い所をたくさん見つけて、好きになり結婚しようと思ったのだ。本来はそなたに死を命じたいところだが、これまでの功績を考えて永久左遷とする。南部地方、大森林地帯と高原を領地とする辺境伯として赴任することを命ずる!!!」

 国王の言葉を聞いた後、姫軍師フーカはナオト国王に目を合わせて、小さな声で言った。

「わかりました。これまでありがとうございました。陛下のお幸せをずっと願っております。」

 歓談していた大勢の列席者が黙り込み、礼拝堂の中は完全な沈黙に包まれた。
 列席者達は、背筋を伸ばしきれいな姿勢で歩いて礼拝堂を出て行く彼女の姿をじっと見ていた。

 それを目で追っていたナオト国王は、心の中でかなりあせっていた。

(姫軍師に大変なことを言ってしまった。彼女のことをいつから知っていたか、もう忘れてしまったが、大変な時を助け合いながら2人で過ごしてきた。いつも、とても素敵な笑顔で僕を見てくれた。決して離してはいけない大切な人なのに、引き留めなくては、引き留めなくては………。)

 礼拝堂を出て行く姫軍師フーカは心の中で訴えていた。

(国王の言うとおり、軽はずみな失礼なことを言ってしまった。彼のことをいつから知っていたか、もう忘れてしまったけれど、大変な時を助け合いながら2人で過ごしてきた。どんなことも一生懸命で、とても素敵な笑顔で私を見てくれた。決して離れたくない大切な人なのに、お願い何か言って、引き留めて………。)

 ………

 数日後、フーカが辺境伯として南部地方に向かう日が来た。彼女は宮殿の中にある姫軍師の執務室をきれいに片付けた。とても暗い顔で行う、彼女にとって辛い仕事だった。

 すると、机の上に不思議な物を見つけた。長方形のちょうど手にとるには良い大きさで、金属で作られていたが表面は違い、手で触るとすべすべしていた。
(これ、何かしら。ずっと昔から確かに私の持ち物だということは、なんとなくわかるのだけれど。)

「フーカさん。フーカさん。」
 机の上に置いてある不思議な物の表面が突然光りだし、手に取ると、人間の赤ちゃんのような生き物の姿が浮かんでおり、彼女をじっと見ていた。

「あっ、びっくりした!何かの魔法のアイテムかしら!」

「かわいそうに、もう忘れてしまったのですね。これは、フーカさんが転生前の世界から持ってきたスマホというものです。僕は神の使いである『天使』というものです。私の名前は『ミカちゃん』といい、フーカさんが名付けてくれたのですよ。」

「『ミカちゃん』ですか、私のネーミングとしては良い方ですね。ミカちゃん、教えてください。転生とはどういうことですか。」

 フーカの問い掛けに答えて、天使は北川風香がフーカとして異世界転生したこと、それは佐藤直人だったナオト国王とのW転生であることを全て話した。そして、天使はフーカに言った。

「2人で迎えなければならない過酷な運命とは、たぶん、2人が転生前のことを全て忘れてしまうことから始まると思います。でも、まだ2人の結びつきは強いですよ。」

「ミカちゃん、とても大切なことを教えてくれてありがとう。私は南部地方の辺境伯として永久追放されたのですが、ナオト国王陛下との結びつきは、まだ強く残っているのですね!!!希望はあるのですね!!!」

「フーカさん、ナオト国王との結びつきは過酷な運命とつながっているのですよ。」

「かまいません。どんな過酷な運命が待っていようとも。」

 彼女の顔が変わり、とても明るくなった。
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