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逝けない女⑥
しおりを挟む明確なエクスタシーはないけれど、互いに快感を与え合う一体感があった。
キスを交わしたり、愛撫の緩急をつけたりしながら、僕たちはベッドの上で絡み合う。ゆるやかに時間が過ぎていく。
「シュウくん、もう降参」悲鳴まじりの声が上がる。「これ以上、続けていたら、私、バカになっちゃいそう」
梨美さんの訴えを受けて、僕は愛撫の手を止めた。彼女の身体を優しく抱きしめて、もう一度キスをする。
「……とっても、よかった。ありがとう、シュウくん」
梨美さんは僕の胸の中で、にっこり微笑んだ。僕は確かな一体感を実感する。インサートなしでも、満足していただけたことをとても誇らしく思う。
梨美さんの肩を抱いて、道玄坂のラブホテルを後にした。ほてった身体に風が心地好い。年の瀬も押し迫っているのに、妙にあたたかな夜だ。僕たちはゆっくりと大通りに向かう。
「梨美さん、今日はありがとうございました。またの御指名をお待ちしております」
「ふふっ、最後まで、シュウくんは敬語なのね。ええ、必ず、お店に電話する。今日の続きをしなくっちゃね」
未体験のエクスタシーを得るためかもしれないけど、焦ることは少しもない。個人差があることだし、エクスタシーと満足感は必ずしも一致しない。
要は人それぞれなのだから、気にすることはない。
大通りに出たところで、タクシーを捕まえた。
「では、名残惜しいですけど、お気をつけてお帰りください」
「シュウくん、良いお年を」梨美さんがウィンドウ越しに笑いかけてくる。
「ええ、梨美さんも良いお年を」手を振って、走り去るタクシーを見送った。
コールボーイにとって、12月は繁忙期だ。僕が恋人の代わりであり、愛情と快楽を届けるサンタクロースでもある。毎日がクリスマスと言ってもいいだろう。
蛇足だけど、12月は1年のうちで、最も避妊具が売れる月らしい。もちろん、恋人たちの聖夜があるせいだ。世界中で、それこそ星の数ほどのカップルが、愛を交わし合ったことだろう。
それは僕の仕事に、少なからず影響を与える。ココナさんによると、秋口には僕の予約がすべて埋まってしまったとか。信じられない気持ちだ。お客さんの方々には、素直に心から感謝したい。
これで、本日の仕事は完了だ。ココナさんに一報を入れて、ホッと息を吐く。年内の仕事は、もうひと頑張りだ。
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