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やわらかな唇⑥
しおりを挟む宮下さんはスカイラインを発車させた。六本木通りをしばらく西に進み、右折して外苑西通りに入る。そのまま車の流れに乗って、スムースに北上していく。
「シュウくん、若いのに落ち着いているね。今は大学生かな?」
「元大学生ですよ。キャンパスにはほとんど行きませんでした」
「そうなんだ。せっかく親御さんが高い学費を払ってくれたのに」
「学費は自分で負担していましたよ。僕の仕事は御存じでしょ?」とりあえず、先手を打つことにした。「宮下さん、腹の探り合いはよしにしませんか。目的地にすぐ着いてしまいます」
「なるほど、人は見かけによらないね」宮下さんは微苦笑を浮かべた。「シュウくんは意外と気が強そうだ」
「そんなことはないです。お互い無駄な時間は省いた方がいいでしょう」
「確かに君の言う通りだな。さて、どこから話すかな」
「××の件は本当なんでしょうね?」
「ああ、もちろん。君の元同僚の××くんかどうか、確認してもらいたいのは間違いない。では率直に訊くけど、彼が犯罪に関わっていたことは聞いているかい?」
「ええ、正月に本人から聞きました。遊び仲間だった〈半グレ集団〉ともめて、窃盗事件の主犯に仕立てられたとか言っていました」
「そう、その〈半グレ〉だ。窃盗の加害者も被害者も〈半グレ〉。犯罪予備軍同士のトラブルだ。ごく普通に見える連中が、ヤクザ顔負けの犯罪をこなすのが、最近の傾向でね。××くんが主犯ということで、我々は追いかけていた」宮下さんは少し間を置いた。「シュウくんが匿っていた、ということはないね?」
「ええ、繰り返しになりますが、正月に会ったきりです」
本人から聞いた話だが、カズは被害者側の〈半グレ〉と警察から逃れるため、地方を転々としていたのだ。だが、出費がかさみ有り金が尽きたため、カズは東京に舞い戻る羽目になった。
それが正月の出来事だ。僕のマンションで一晩一緒に過ごし、別れ際には、いくらかのカネをもたせた。(裸のプリンスⅣ「ボーイズ・エクスタシー」参照)
もしかしたら、これが最後になるかもしれない、とカズは考えていたのだろうか?
「シュウくん、どうかしたのかい?」
「いえ、××のやつ、げっそり痩せていました。〈半グレ〉と警察に追われている上に、どこにも行き場がなくて、何を考えていたのかなって……」
「そうだな。逃亡中の被疑者は始終、周囲に警戒していなければならない。気の休まる時間はないし、熟睡ができなくなる。もっとも、被疑者の自業自得なんだがね」
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