90 / 100
GカクテルⅢ④
しおりを挟むお店に着くと、すでに桐野さんが来ていた。
「あれ、今日は早いですね」私は明るく元気な声を心がけた。
「ええ、仕込みの準備がありまして」
「あっ、【Gカクテル】ですね。今朝、父が“桐野さんによろしく”って、とても楽しみにしているみたいですよ。あの、もちろん、私もです」
桐野さんは口元を少しだけ歪めた。いつもの笑みである。自信があるのだろう。御期待に添えると思いますよ、と言われた気がした。
「そうだ。よかったら、これ、一緒に食べませんか?」私は水色のパッケージを掲げた。「お昼には少し早いですが、まだアツアツですよ」
桐野さんは少し考えてから、
「チョウシ屋さんですね。遠慮なく、いただきます」
私たちは向かい合って、窓際のテーブル席に腰を下ろした。パッケージの中味を皿にあける。飲み物はアップルジュースにした。
まだあたたかいコロッケサンドを頬張る。うーん、おいしい。ほどよい甘みと素朴な食感。おいしいものはそれだけで、人を幸せにする。好きな人と一緒なら尚更だ。自然に笑顔が浮かべば、言葉は要らない。
昨日、私たちはちょっとやりあった。私は桐野さんのプライベートに、ズカズカと踏み込みすぎたのかもしれない。その点は謙虚に反省する。
でも、桐野さんだって、私の提案を無下に跳ね除けた。聞く耳なんかない、部外者は黙っていてくれ、といった対応だった。その点は反省してほしい。
私たちは無言で、コロッケサンドを食べ続ける。心地よい沈黙。桐乃さんの表情を見ていると、彼は彼なりに反省したのかもしれない。
これって、喧嘩の後の自然発生的な揺り戻しなのかも。なら、このままでいい。話の接ぎ穂をさがす必要はない。この雰囲気をこわしたくないので、厄介な問題には触れなかった。
その代わり、桐野さんの話しやすい話題だ。
「桐野さん、【Gカクテル】には特別な材料や道具を使うんですか?」
「ええ、使いますね。その件で、ミノリさんにお願いがあります」
「はい、何でしょうか」
「あくまでイレギュラーなのですが、今回は作るところを見せたくないんです」
「えっ、どうしてですか?」
「【Gカクテル】は特殊なんですよ。材料を見てしまえば、すぐ想像がついて、誰にでも正体がわかってしまう。それでは興ざめというものでしょう。タネを明かしながら、手品を見せるようなものです」
「確かに、そうですね」
「ですから、作る時には、ミノリさんとお父さんに後ろを向いていただきたいのです」
「ええ、わかりました」
「もう一つの【Gカクテル】は、作る過程が逆にパフォーマンスになっています。こちらは、ぜひ見ていただきたい、と思います」
「【Gカクテル】は2パターンあるんですね。わかりました。今おっしゃった件は問題ありません。ただ、終わった後で構いませんから、レシピは教えてくださいね」
桐野さんは頷いた。
コロッケサンド効果のせいか、少し柔らかくなったようだ。桐野さんの〈壁〉の話。私はアップルジュースを一口飲み、ホッと小さく息をつく。気のせいだろうけど、店内の空気がゆったり感じられる。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる