銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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GカクテルⅢ⑪

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 くどいようだが、【Gカクテル】の真実は、雪村隆一郎の頭の中にしか存在していない。だから、誰も知らないし、どこまでいっても想像の産物だ。「これが本物の【Gカクテル】だ」と断定することはできない。

 だけど、こうして、【Gカクテル】を受け取るはずだった父さんから、お墨付きをもらったのだ。これは、【Gカクテル】として正式に認定された、と言ってもいいだろう。

 私の胸は熱くなる。

「桐野さん、黒と白、対照的な色使いですけど、二つとも【Gカクテル】なんですね」

「はい、色は違っても、テーマと切り口,モチーフはすべて共通です。もっとも、雪村隆一郎さんの【Gカクテル】は、黒の方に近いと思います」

 私はシャーベットのカクテルグラスを掲げる。

「そうですね。でも、液体窒素を使うなんて、さすがのお祖父ちゃんも思いつかないです」

「いや、わかりませんよ。雪村隆一郎さんは、【暗闇で光るカクテル】や【色が二段階変化するカクテル】を作った方ですから」
(ちなみに、この二つのレシピと正体は、もちろん謎のままだ)

 私はカウンターのゴジラ人形を指先で突いてみる。このサイズだと、案外かわいく思えるから不思議だ。

 新雪のようなシャーベットをスプーンですくい、パクッと食べてみる。口の中で上品な甘みが溶けていく。

「ミノリさん、口当たりがいいかもしれませんが、ベースのお酒はラムですからね」

「わかっています。ゆっくり味わいます。あの、それより、話は〈黒い獣〉に戻るんですが、私や桐野さんの中にも、たぶん〈黒い獣〉はいるんですね」

 そう、〈黒い獣〉は誰の中にもいる。制御不能の感情とか生理的嫌悪感とか、おそらく、そういうものを指しているのだ。

「ええ、確かにいますね。僕は30を過ぎても、未だに〈黒い獣〉に振り回されています。恥ずかしい限りです」

「いやいや、桐野さん、野心や衝動は年齢と関係ないよ。40にして惑わず、というが、僕なんか、50を過ぎても惑ってばかりだ。人間はいくつになっても、業の深い〈黒い獣〉を抱えている」

 その言葉に反論はない。ただ、はっきり言って、父さんは今、邪魔者でしかない。

「父さん、申し訳ないけど、しばらく黙っていてくれない。これから大事な話があるの」

 父さんは素直に、右手でOKマークを作ってくれた。

「桐野さんに一つお願いがあります」私は桐野さんの顔を真っ直ぐ見つめた。「入院中のお父さんに、顔を見せてあげてください。できれば……、いえ、やっぱり、じっくりとお父さんと話してきてください」

 桐野さんは黙って耳を傾けてくれた。
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