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健康診断
しおりを挟む半月前と同じリバーサイドビルの五階フロアに入ると、見覚えのある顔が二つあった。巨漢の船木と坊主頭の堀部である。
「よかったですね。お二人とも、そろって合格ですか」
「ひょっとしたら一生分の運を使い切っちまったかもな」船木が言うと、
「よせよ。俺のリターンマッチはここからが始まるんだぜ」と、堀部が続いた。
彼らの他に三人の男がいた。高齢者は一人もいない。若さが決め手だったのだろうか。
最も年配に見えるのは、角刈りで痩身の男だった。たぶんアラサーだろう。目つきが悪く、世の中すべてに苛立っているように見える。まるで〈元ヤンキー〉である。
対照的なのは、長身の好青年だろう。180ゼンチ以上の背丈があり、たぶん20代半ば。見事な体格をしているので、現役の〈アスリート〉なのかもしれない。
最後の一人は、風船のように丸々と太っていた。たぶん、同じ年ぐらい。ジャケットの下にアニメTシャツを着ているので、こっそり〈風船オタク〉と名付けた。
しばらくして、スマイルリサーチの鈴木が現れた。今日もやわらかな笑顔を浮かべている。恭介たちは、鈴木に導かれて四階フロアに降り、そこで健康診断を受けることになった。
全員、パンツ一枚の姿にさせられた。健康診断の内容は、学校や職場で行われるそれと変わらない。身長と体重、血圧を測定。聴診器で心音の確認。身体にあちこちにコードをつけて心電図の測定。最後は、採血だった。
「おいおい、血ぃまで抜くのかよ」
「ビョーキ持ちは帰れとさ」
船木と堀部が軽口を叩いている。
恭介の前では、女性看護師が〈風船オタク〉の太い腕をつかみ、血液採取を行おうとしていた。彼の脂肪が分厚いせいで、血管が見えないらしい。注射器を刺すのに何度も失敗している。〈風船オタク〉は悲鳴を上げていた。
恭介はそっぽを向いていたが、さりげなく注射の順番から外れようとする。顔面蒼白になっているのを船木に気づかれて、
「おいおい、注射が怖いって、てめぇはガキかよ」と、からかわれてしまう。
「僕は後回しで結構です。お先にどうぞ」
「そういうわけにいくかよっ」
恭介の悪あがきを、船木と堀部が笑いながら抑えつける。
「おい、うるせぇぞ、このボケっ!」
彼らを一喝したのは、目つきの悪い〈元ヤンキー〉だった。
「ああぁん、何か言いましたぁ?」堀部は相手に近づいて、下から睨み上げる。
「るせぇのは、そっちだろ!」と、目をむく船木。
一触即発の状態である。しかし、スタッフは何も言わない。ただ、遠巻きに見ているだけだ。
「まあまあ、みんな僕が悪いんです」と、仲裁に入ったのは恭介だった。「子供みたいに騒いじゃって、本当にすいません。マジ恥ずかしいですよ」
〈元ヤンキー〉の方は、体格で勝る〈アスリート〉が笑顔でなだめていた。
船木と堀部から乱暴に小突かれたが、恭介はホッと胸をなでおろす。懸案事項の採血も、そっぽを向いて目を閉じることで何とかやりすごした。
注射器で採られた血液は、赤というより赤黒く見えた。その不気味な色を見てしまい、恭介は大きく身震いをする。
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