クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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説明会

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 バイト希望者たちは30分ほど待たされた。五階まで階段を上ると、大きなフロアがあった。長机とパイプ椅子が整然と並んでおり、前列の隅から順に座っていく。ざっと見たところ、全員で5,60人ほどだろう。

「本日は御多忙の中、こうしてお越しいただき、ありがとうございます」
 いつのまにか、小太りの中年男性が壇上で立っていた。にこやかにマイクに向かって、
「スマイルリサーチの鈴木と申します。この度、私たちの考えているプロジェクトは、社会的に大変意義のあるものです。ぜひ、皆さんの御協力をお願いしたいと存じます」

 鈴木は思わせぶりに聴衆を見渡してから、
「ただ、最初に申し上げておきます。申し訳ありません。今回のアルバイトには人数制限があるため、ここにおられる全員にお願いするのは難しいのです。どうぞ、御了承ください」

 一斉に不満の声が上がった。隣にいる船木と堀部も野次っていたが、恭介は妙に納得していた。一日10万円なら、全員を雇うと500万円から600万円になる。常識的に考えて、そんなアルバイトはありえないだろう。

「御不満のある方は、どうぞ、お帰りください。私たちは、快く御協力いただける方にお願いしたいと考えておりますので」
 そのように言われては、全員、黙り込むしかない。退席する者は一人もいなかった。

 壇上の鈴木にうながされ、スタッフがアンケート用紙を配り始めた。氏名、年齢、住所、連絡先の記入欄があり、いくつかの質問が並んでいる。

 鈴木は笑顔を浮かべたまま、
「では、これから10分間を差し上げます。アンケート用紙に書かれた内容をお読みいただき、私たちの活動に参加するかどうかを御判断ください。尚、一切の御質問は受け付けません。用紙に書かれた文言の理解力も、こちらの選択基準に含まれるとお考えください」

 言葉は丁重でも、明らかに見下している言い方である。恭介は不愉快だったが、それで腹を立てるほど子供ではない。とりあえず、アンケート用紙に目を落とした。


『質問①「赤京区に住んで、何年ぐらい経ちますか?」
 質問②「赤京区の犯罪について、どう思いますか?」
 質問③「御家族とは、よく連絡をとっていますか?」』


 質問の意図がわからない。スマイルリサーチは何のために、これらの答えを求めているのだろう。逆に言えば、どう答えたら、気に入ってもらえるのか。

 しばらく考えてみたが、答えは出ない。とりあえず、正直に答えることにした。
 赤京区に住んで2年になるし、財政難については「由々しき問題である」と書いておいた。また、恭介は家族とはまったく連絡をとっていない。なぜなら、家出同然で上京したからである。

 裏面に続きが書かれていた。


『皆さんにお願いしたいのは、私たちの実験への協力です。つきましては、下記の条件があります。これらについては必ず守っていただきたい。そのように考えております。

 条件① 実験が終わるまで、赤京区から出ることはできません。出れば失格となります。
 条件② 私たちがお願いしたルールは、絶対に守ってください。違反すれば失格となります。
 条件③ 実験のことは、秘密厳守でお願いします。どなたにも口外しないでください。
 これらの条件を守り、私たちの実験に協力したいと思われた方は、以下の記入欄に御署名のほど、よろしくお願いいたします』


 実験とは何だ? アルバイトということだが、治験のようなものだろうか? 犯罪がらみの可能性も考えられるし、怪しげな気配を感じずにはいられない。

 案の定、退席する者がいた。一人また一人と席を立ち、10分間の間に、三分の一ほどの人間が帰っていった。恭介も席を立つこともできたが、迷っているうちに時間切れになってしまった。

 アンケート用紙を集められると、鈴木が再びマイクを手にして、
「本日は御足労いただき、ありがとうございました。皆さんのアンケートを慎重に検討して、合否を決定いたします。運よく選ばれた方々には、後日、御連絡をさしあげます。もし連絡がなかった場合は、縁がなかったものと御理解ください」

 こうして、説明会はあっさり終わった。前の方の席から鈴木に質問をする者がいたが、笑顔でスルーされた。

 恭介は諦めていた。合格の連絡など来るはずがない。物心がついてから、ずっと運に見離されているのだ。くじ引きや抽選で当たったことは一度もない。そんな自分に幸運が舞い込むなど絶対にありえない。

 だが、恭介の予想は見事に外れた。スマイルリサーチから連絡が入ったのだ。


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