クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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妄想する男

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 窓から見える月は満ちていた。あと数日で満月だろう。

 海老丸えびまるは、狼男の気分だ。血が騒いで仕方がない。愛用のナイフを思う存分ふるいたい。はっきり言って、誰かをぶっ殺してやりたい。

 せっかく新たに八人のカードホルダーが選ばれたというのに、海老丸は待機を命じられている。窓のない部屋で膝を抱えて、出動を待つしかないのだ。待ち時間は本当につらい。もし、海老丸が自由の身なら、いろいろな作業を堪能できるのに。

 例えば、標的の情報を丹念に収集し、綿密な計画を立案する。吟味に吟味を重ねる。繰り返し試行錯誤をおこなう。万全の準備と体調を整えた上で、カレンダーに赤マジックで決行日の印をつけるのだ。

 だが、今の海老丸には、計画立案の権利はない。標的を決める権利もない。それどころか、勝手に外出する自由すらない。三食昼寝付きという恵まれた待遇だが、見方を変えればワンルームマンションに軟禁されているようなものだ。

 シャワールームとトイレ付き。冷暖房完備だから、20代で二度入った刑務所よりはるかにましである。スタッフを介して、読みたい本、雑誌、映画DVDを取り寄せることはできる。提供される料理に文句はないし、身体を動かしたくなれば、トレーニングルームで好きなだけ汗を流すこともできる。

 だが、殺戮の自由は認められていない。

 息の詰まりそうな部屋の中で、海老丸は妄想する。ひたすら、妄想を重ねる。それはスポーツのイメージトレーニングと似ていた。理想的な動きを繰り返しイメージすることで、集中力を極限まで研ぎ澄ます。成功する自分をイメージすることで、雑念を捨て去り、現実への対応力を高める。

 海老丸は平常心のまま、歩調も崩さず、獲物との距離を詰めていく。殺気を表に出すことなく、さりげなく近づき、一瞬で相手の命を奪い取る。目の前で崩れ落ちる獲物。湯気をたてる血の海の前で、むせかえるような臭いを堪能する。断末魔の叫びを楽しむ。そんな映像を脳裏に思い描くのだ。

 海老丸は血に飢えていた。吸血鬼の気分だ。狼男も吸血鬼も基本的に、アウトサイダーである。社会の中に居場所がない代わりに、魂の自由を謳歌している。海老丸も物心がついた頃から、ずっとアウトサイダーだった。

 しかし、今は違う。目に見えない首輪をはめられている。今の海老丸は、猟犬にすぎない。この年になって宮仕えの辛さを知るとは、皮肉なものである。

 ハンドラーの命令には、絶対服従である。ハンドラーとは本来、狗の調教師のこと。拒絶と口答えは認められていない。もし、ハンドラーに歯向かえば、ジ・エンドだ。

 海老丸は冷酷な殺人者だが、ハンドラーはそれ以上である。海老丸以外にも幾人もの殺人者を飼っている。己の手を汚すことなく、命令一つで人間の命を奪いとる。

 ハンドラーは間接的にだが、三桁の人数を葬り去ってきた。ある意味、大量殺人者である。まともな神経では務まらない。海老丸以上の異常者といえた。だからこそ、絶好の獲物にもなりうる。

 実は、海老丸が最も殺したいと願っているのは、ハンドラーだった。毎晩、ハンドラーをいたぶって殺すシーンを脳裏に思い描いているのだ。

 ハンドラーは顔を歪めて、必死に命乞いをするだろう。高飛車な態度を改めて、土下座をしてくるだろう。それを受けて、海老丸は柔和な笑みを浮かべる。ハンドラーを許してやろうという態度を示す。

 もちろん、本心はちがう。

 ハンドラーが安堵した瞬間、一転して、海老丸の地獄の責めが始まるのだ。
 身体を少しずつ切り刻んで、ハンドラーの心が壊れていく様を見てみたい。
 具体的な妄想は、海老丸に待機の退屈さを忘れさせ、高揚させるのだった。

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