8 / 64
深紅銀行ATM
しおりを挟む
会議室での説明会、銀行関連の手続きを終えると、恭介たちは解散となった。解放感があったのだろう。リバーサイドビルから出るなり、堀部が騒ぎ始めた。
「めでたくカネが入ったんだ。これから飲みにいこうぜ」
船木は〈高級ブランド〉に付きまとい、必死にアピールする。
「なぁ、俺たちに付き合わねぇか? 焼き肉を食って、オールナイトでカラオケって、どうだ?」さらに腰を前後に振りながら、「退屈させないよーん」
あまりにも下品な誘い方なので、〈高級ブランド〉には完ぺきに無視された。彼女はヒールの音も高らかに、振り向きもせずに立ち去っていく。
恭介は〈可憐少女〉をさがしていた。このまま別れるのは、あまりにも惜しい。せめて、電話番号ぐらい聞いておきたい。ちょうどその時、〈可憐少女〉が階段を下りてきた。恭介はそそくさと、彼女に駆け寄る。
「あの、よかったら、連絡先の交換をしませんか? これも何かの縁だし。僕は、尾白恭介。尾っぽが白いと書きます」と、一気にまくしたてた。
〈可憐少女〉は少し驚いていたが、すぐ笑顔になった。
「私は、深原詩織といいます。いいですよ。こちらこそ、よろしく」
「あと、他のメンバーと飲みに行くんですが、深原さんもいかがですか?」
「すいません。私、これから用事があるんです。また今度、声をかけてください」
恭介は手を振りながら、〈可憐少女〉こと深原詩織の後ろ姿を見送った。大金をゲットできる上に、可愛い女の子との出会い。人生の風向きが180度かわったんじゃないの。恭介はスキップをしたい気分だった。
「ねぇ、よかったら、僕も……」
声の方を振り向くと、〈風船オタク〉が立っていた。モジモジしながら、スマホを手にしている。恭介は快く、電話番号の交換に応じた。
「おい、恭介、おいていくぞっ」
船木が大声で呼んでいる。〈風船オタク〉はペコリと頭を下げると、クルリと背を向けた。一緒に飲みに行く気はないようだ。
残ったのは結局、船木と堀部、恭介だけだ。三人はタクシーにのって、ターミナル駅の茅野原駅へと向かった。巨大な駅ビルや百貨店が立ち並び、駅前ロータリーからは長いアーケード商店街が伸びている。赤京区随一の繁華街である。
まず彼らが向かったのは、深紅銀行の茅野原支店だった。言うまでもなく、10万円の残高を確認するためだ。ATMコーナーに駆け込むと、慌ただしくタッチパネルを操作する。
説明会で言われた通り、深紅のカードをスリットに差し入れて、暗証番号を打ち込む。さらに、タッチパネル横のセンサーで指紋認証を行う。
オジロキョウスケ名義の普通預金口座には、確かに10万円が入っていた。隣では、船木と堀部が全額を引き出して、扇形に広げて騒いでいる。
「マジ入っていたぜ。明日も明後日も10万円」
「しかも、半年続ければ、毎日100万円だぜ」
恭介は胸をなでおろした。これまで半信半疑だったのだが、まちがいなく10万円を受け取ることができたのだ。これで何も問題はない。やっと幸運がめぐってきたのだろう。
もしかしたら、人生が180度かわって、バラ色の日々が始まるのかもしれない。
「めでたくカネが入ったんだ。これから飲みにいこうぜ」
船木は〈高級ブランド〉に付きまとい、必死にアピールする。
「なぁ、俺たちに付き合わねぇか? 焼き肉を食って、オールナイトでカラオケって、どうだ?」さらに腰を前後に振りながら、「退屈させないよーん」
あまりにも下品な誘い方なので、〈高級ブランド〉には完ぺきに無視された。彼女はヒールの音も高らかに、振り向きもせずに立ち去っていく。
恭介は〈可憐少女〉をさがしていた。このまま別れるのは、あまりにも惜しい。せめて、電話番号ぐらい聞いておきたい。ちょうどその時、〈可憐少女〉が階段を下りてきた。恭介はそそくさと、彼女に駆け寄る。
「あの、よかったら、連絡先の交換をしませんか? これも何かの縁だし。僕は、尾白恭介。尾っぽが白いと書きます」と、一気にまくしたてた。
〈可憐少女〉は少し驚いていたが、すぐ笑顔になった。
「私は、深原詩織といいます。いいですよ。こちらこそ、よろしく」
「あと、他のメンバーと飲みに行くんですが、深原さんもいかがですか?」
「すいません。私、これから用事があるんです。また今度、声をかけてください」
恭介は手を振りながら、〈可憐少女〉こと深原詩織の後ろ姿を見送った。大金をゲットできる上に、可愛い女の子との出会い。人生の風向きが180度かわったんじゃないの。恭介はスキップをしたい気分だった。
「ねぇ、よかったら、僕も……」
声の方を振り向くと、〈風船オタク〉が立っていた。モジモジしながら、スマホを手にしている。恭介は快く、電話番号の交換に応じた。
「おい、恭介、おいていくぞっ」
船木が大声で呼んでいる。〈風船オタク〉はペコリと頭を下げると、クルリと背を向けた。一緒に飲みに行く気はないようだ。
残ったのは結局、船木と堀部、恭介だけだ。三人はタクシーにのって、ターミナル駅の茅野原駅へと向かった。巨大な駅ビルや百貨店が立ち並び、駅前ロータリーからは長いアーケード商店街が伸びている。赤京区随一の繁華街である。
まず彼らが向かったのは、深紅銀行の茅野原支店だった。言うまでもなく、10万円の残高を確認するためだ。ATMコーナーに駆け込むと、慌ただしくタッチパネルを操作する。
説明会で言われた通り、深紅のカードをスリットに差し入れて、暗証番号を打ち込む。さらに、タッチパネル横のセンサーで指紋認証を行う。
オジロキョウスケ名義の普通預金口座には、確かに10万円が入っていた。隣では、船木と堀部が全額を引き出して、扇形に広げて騒いでいる。
「マジ入っていたぜ。明日も明後日も10万円」
「しかも、半年続ければ、毎日100万円だぜ」
恭介は胸をなでおろした。これまで半信半疑だったのだが、まちがいなく10万円を受け取ることができたのだ。これで何も問題はない。やっと幸運がめぐってきたのだろう。
もしかしたら、人生が180度かわって、バラ色の日々が始まるのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
妹の仇 兄の復讐
MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。
僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。
その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる