クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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〈高級ブランド〉①

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 三好キヨ子。25歳。広告代理店の事務員。

 高校生の頃からスタイルには自信をもっている。高級ブランドを身に着けているのは、何といっても自分にふさわしいからだ。

 お気に入りのブランドは、シャネルでも、エルメスでも、ルイヴィトンでもない。知る人ぞ知るヴァルアレンである。かつて愛人関係にあったファッション誌の編集長から勧められ、それ以来、好んで着ているのだ。

 ヴァルアレンは派手な色使いが多く、着こなしが難しい、と言われている。「ケバ過ぎるデザイン」「まるで商売女のイメージ」と陰口を叩かれることもあるが、着こなすことのできない女の戯言など、相手にするだけ無駄である。

 最近の痛恨事は、ヴァルアレンの新作ワンピースを購入できなかったことだ。理由は極めてシンプル。新作ワンピを全カラー揃えれば、軽く50万は超えてしまうからである。

 キヨ子には貯金がない。いつもなら金づるのパパたちにねだるところだが、うっかり二股がバレてしまい、お手当てがゼロになってしまった。アフター5にバイトをしようにも、以前、会社から厳重に注意されたので、キャバクラで稼ぐこともできない。

 そんな時、このアルバイトを知った。DMの山に混じって、安っぽいチラシがメールボックスに入っていたのだ。
 一日10万円がもらえて、ただ浪費するだけでいい。どう考えても、ペテンである。普段のキヨ子なら絶対に見向きもしない。

 だが、街角でヴァルアレンを着た女を見かけると、もう我慢できなかった。あんな女より私の方が、優雅に着こなしてみせるのに。そう考えたら、もう止まらない。新作ワンピを購入するために、怪しいバイトに手を出してしまった。

 説明会の後、即座に、深紅銀行のATMで口座の全額を引き出した。ただ、10万円では、ワンピが1着しか買えない。毎日振込むのは手間なのだから、一週間分をまとめて入金してくれればいいのに。そんな身勝手なことを考えもした。

 新作ワンピは5色あった。ライトパープルにするかイエローグリーンにするか、キヨコは散々迷った末に、ライトパープルを選んだ。

 キヨ子はカフェに入ると、ワンピを身につけた自分を思い浮かべて悦に入っていた。だが、窓越しに通行人を見て、あっと声を上げそうになった。同じライトパープルの新作ワンピを着た中年女性が、店の前を通りすぎたのだ。

 洋梨体型を無理やりワンピに押し込んで、パンパンに膨らませている。まるで仮装パーティのような不恰好な後ろ姿だった。

 瞬時に醒めた。キヨ子の脳裏に、後悔が頭をもたげてくる。やっぱり、イエローグリーンにすればよかった。明日になれば10万円が口座に入り、イエローグリーンのワンピを買うことができる。頭では納得できても、身体が言うことをきかなかった。

 閉店時間まで、まだ少し余裕がある。店に戻って交換してもらおう。そう決意して立ち上がりかけた時、スマホに着信が入った。かけてきたのは、職場で唯一の友人だった。

「キヨ子、どうだった?」
「どうって、何が?」キヨ子は気が急いているので、つい無愛想な受け答えになる。

「何がって、例のバイトよ。一日10万円って、どういう意味だったの?」
「ああ、心配することなかったよ。きちんと10万もらえたし、犯罪がらみでもなかった。よくわからないけど、とりあえずラッキーって感じ」

「そう、マジだったんだ。ずっと心配していたんだよ。本当に大丈夫なんだね?」
「うん、心配いらない」

「でも、注意しな。うまい話には裏がある。そう疑ってかかるぐらいで、ちょうどいいんだから」
 友人の話は延々と続く。要約すれば、予定外の出費が相次いで、ローンの支払いが滞って困っているようだ。どうやら、彼女もおカネが欲しいということらしい。
「キヨ子ぉ、私も紹介してもらえないかなぁ」

「うーん、私には何とも言えないね」
「冷たいなぁ。私たち親友じゃん」
 すがりつくような猫なで声である。ホント現金なヤツだ。

 ふと、視線を感じてキヨ子は振り向いた。声が大きすぎたのか、男性店員がキヨ子をジッと見ていた。筋肉質の男性である。胸板が厚く、腕も太い。濃紺の開襟シャツがはちきれそうになっていた。

「わかった。スタッフの人に訊くだけ訊いてみる。でも、どうなるかわからないから、あまり期待しないで」
「ありがとう。マジ助かる。やっぱり、キヨ子は優しいね。持つべきものは親友だよ」
「そんなこと言っても、何も出ないからっ」

 いつのまにか、筋肉質の店員がキヨ子のすぐそばに来ていた。キヨ子は送話口に「ちょっと、待ってて」と伝えて、店員を見上げた。
「あの、ここって通話禁止でしょうか?」

「いえ、大丈夫ですよ」店員はにっこり微笑んだ。「ただ、お客様に御伝言がございまして。ちょっと、こちらまでお願いできますか?」
そのさわやかな笑顔に、キヨ子は胸の奥が熱くなった。

「用事ができた。じゃあ、またね」

 友人にそっけなく伝えて、さっさと通話を切る。キヨ子は立ち上がり、店員に笑いかけた。そして、彼に導かれるままに、店の奥へと向かうのだった。

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