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〈高級ブランド〉②
しおりを挟む最初に異変に気づいたのは、カフェの女性店員だった。窓際の女性客がいつのまにか消えている。テーブルに伝票があるので、帰ったわけではない。大きな紙袋がイスに置かれている。知らない海外ブランドだが、とても高価なものに見えた。
トイレだろうか。それにしても、無用心な客だ。そう思って、一応トイレに行き、個室の中まで確認した。しかし、女性客の姿はどこにもない。
まさか、無銭飲食? 女性店員はレジの担当者に訊いてみたが、そんな女性客は見ていないという。とたんに気味が悪くなり、慌てて店長に報告した。
「そのお客さん、どんな方だった?」と、店長から訊かれた。
「若い女性の方です。お一人で来られて、アイスカフェオレを注文されて……」
「僕もレジの近くにいたけど、そのお客様の出て行くところは見ていないな。とすると、やっぱり裏口か?」
二人で裏口に向かった。営業中はほとんど使わないので、必ずドアロックをするようにしている。確認してみると案の定、施錠されていなかった。
「ここから出て行ったんだ。やっぱり、無銭飲食か」
「嫌ですね。勝手に出入りされるなんて」
二人はフロアに戻る。
「そのお客様、ひょっとして財布を忘れたのかな。正直に言ってもらえたら、こちらも普通に対応するのにさ」
店長は大きな紙袋の中身を確認する。中味は派手な色のワンピースだった。
「高級品みたいだし、とりあえず預かっておくか」
その後、いくら待っても、持ち主が受け取りに来ることはなかった。
女性店員は翌日、フロアの掃除の後、裏口に近い路地で奇妙なものが見つけた。赤黒い液体が、道路をぬらしている。誰かが赤ワインのボトルでも割ったみたいだ。
昼前から降り始めた雨は、午後にはどしゃ降りとなり、路地の汚れをきれいに洗い流してしまった。
*
三好キヨ子は日頃から無断欠勤が多かった。遊び友達はいても、キヨ子のことを真剣に心配する人間など一人もいなかった。そのため、勤務先が異常に気づくまで、かなり時間を要したようだ。
また両親はすでに亡くなっており、親戚とも疎遠だったらしい。これらの理由から、まもなく、キヨ子の失踪は忘れ去られてしまった。
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