クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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〈元ヤンキー〉①

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 大村吾郎。現在無職。苦労が顔に沁みついているため、老けて見られることが多いが、れっきとした25歳である。

 中学を卒業してから、ずっと調理関係の仕事についてきた。寿司屋の見習いを皮切りに、洋食屋、中華料理店、ラーメン屋、ファミレス、給食センター……。

 どこも長続きしなかった。安月給でこき使われたからだ。バカな店主や先輩に顎で使われては、たまりにたまった不満がある日突然爆発する。店主や先輩大喧嘩をやらかして、あっさり失職する。

 その繰り返しの人生だった。カネを貯めて独立しようと目論む同僚もいたが、大村にそんな甲斐性はない。目下のところ、家賃3万のボロアパート暮らしである。

 貯金ができない理由の一つは、パチンコがやめられないからだ。ハコからあふれる玉、明滅する光の乱舞、垂れ流しの騒音。それらを楽しむためだけに、稼いだカネは右から左へ消えていった。

 パチンコのためにバイトをする。嫌々働いているからストレスがたまる。ムカつくから周囲と喧嘩して、またバイトを辞めるハメになる。結局、大村が得たものといえば、七桁にふくらんだ借金と「パチンコ依存症」だけだ。

 おまけに「ニコチン依存症」でもある。「料理人のくせに煙草を吸うのか」「そんなに吸うと、舌が効かなくなるぞ」「ヤニ臭い男には女が寄り付かないぞ」周囲から何度も言われた。どうせ、大した舌じゃない。味見のために
禁煙するなど考えもしたくないし、煙草を嫌う女はこっちから願い下げである。

 そもそも女性とは、まるっきり縁がなかったし、性欲処理は風俗で済ませてきた。

 いや、一人だけ気になる女がいた。行きつけのパチンコ店で時々見かける常連客だ。おそらくは30代だろう。泣きボクロがチャームポイントで、大村と同じ喫煙者だった。

 煙草の火を貸したことが縁で、顔を合わせると世間話をする関係になった。珍しく大勝した時に食事に誘ったこともあるが、その時はやんわりと断られた。

「家族が心配だから、早く帰らないと」〈泣きボクロ〉は寂しげに笑った。寝たきりの父親を介護しているという。彼女にとって、パチンコは唯一の気晴らしなのだろう。

 大村が彼女に、ほのかな恋心を抱いた。女性に好意を持つなど、十数年ぶりのことである。〈泣きボクロ〉と結婚して、子供が生まれて……。そんなことに思いを巡らせた。カネさえあれば、違った人生があるかもしれない。

 だが、地道に働いてカネを貯めるのは性に合わない。大村の性格上、まず不可能だ。そうなると残る手段は、莫大な遺産が転がり込むか、宝くじに当たるぐらいしかない。

〈泣きボクロ〉には、介護が必要な家族がいる。一緒になるためには、まとまったカネが必要である。

 そんな時、あのチラシを公衆トイレで拾ったのだ。「一日10万円がもらえる」というバカげたキャッチフレーズ。こんなものに釣られるバカがいるとは思えない。もっと騙しようがあるだろう。詐欺だとしても、信憑性がなさすぎる。

 なのに、気がつくと釣られていた。〈泣きボクロ〉との新生活を夢見て血迷っていたせいかもしれない。

 バイト説明会に出席しても、まだ半信半疑だった。しかし、深紅銀行のATMで、10万円の現金を引き出すことができた。夢のような出来事が起こったのだ。

 これから毎日、10万円が入る。半年たてば、毎日100万になると言っていた。こんなことが現実に起こるなど、思いもしていなかった。頭のネジがゆるんでいなければ、チャンスを棒に振っていたことだろう。

 大村は高揚した気分で、行きつけのパチンコ店に向かった。こんな日は必ず、出るはずである。大村には確信があったし、見事その通りになった。

 10万円の御利益だろうか、次々とハコを銀色の玉で満たすことができた。今なら、何でもできそうな気がした。こんな日は何でも向こうからやってくるはずだ。カネや出玉だけでなく、女さえも。

 もし、〈泣きボクロ〉が来たら、もう一度食事に誘ってみよう。大村は玉を弾きながら、ひたすら待ち続けた。煙草は次々と灰になっていく。午後9時を回った頃、窓越しに〈泣きボクロ〉に似た女性を見かけた。店の前を通りすぎたような気がしたのだ。

 大村は反射的に席を立った。パチンコ台をキープする手間も惜しんで、自動ドアを潜り抜けると、〈泣きボクロ〉の背中を追いかけた。
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