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〈巨漢男〉と〈坊主頭〉②
しおりを挟む運転手が何も言わずに後部ドアを開けた。ここで降りるように促しているらしい。
「運ちゃん、ワケわかんねぇな。外の連中とグルかぁ?」
船木が訊いても、運転手は無言である。
外の長身男と肥満体が鼻で笑った。これ見よがしに、船木たちを嘲笑している。
「けっ、あんだよ。カツアゲかぁ?」
「腹ごなしにはちょうどいい運動だな」
挑発にのって、船木と堀部は車外に出た。二人は元チーマーの武闘派だ。度胸と腕っ節には自信がある。濃紺シャツの二人に負けるとは思わなかった。
ただ、路上でもめていて、後続車両に撥ねられるのもバカバカしい。四人は場所を移すために、無言で歩き出した。
近くの脇道に入って、しばらく歩くと、大きな駐車場があった。数台の車しか利用しておらず、スペースはガラ空きである。周辺は閑散としており、人影ひとつ見当たらない。
「一応確認するが、ひと間違いじゃねぇのか?」
船木が訊ねたが、濃紺シャツの二人は無反応だ。彼らの思惑は不明だが、拳を交えることはやぶさかではない。ケンカをふっかけてきたのは向こうなのだから、思い切りぶちのめしてやる。
堀部が肩をゆすりながら、
「後悔するなよ。俺たちを誰だと」
言葉が途切れたのは、左脚に強力な一撃を受けたからだ。堀部の身体がクルリと半回転するほどの衝撃だった。何が起こったのか、とっさにはわからない。左太股を見下ろすと、20センチほどの白い棒が生えている。
長身の男がクロスボウを構えていた。よろめいた堀部の右太腿に第二射が襲う。情けない悲鳴が上がった。
船木は驚いた顔を男たちに向けた。長身男は武装しているが、肥満体は何も持っていない。背中を向ければ、背後からクロスボウで撃たれる。船木は肥満体に突進した。
「くそったれがぁっ!」
次の瞬間、天地が逆転して、アスファルトに背中を叩きつけられていた。呼吸が止まった。肥満体の一本背負いがきれいに決まったのだ。
船木は立ち上がれない。戦意はあっさり蒸発した。がら空きの脇腹を肥満体のサッカーボールキックが襲う。船木は両腕で頭部をかばって転げまわるしかない。
あっさり勝負はついた。船木は呻きながら横たわっていた。この二人は何者だ? 顔色一つ変えずに他人を痛めつけやがる。まともな神経じゃねぇ。
すぐ近くで、堀部が叫んでいた。
「カネならやるから、命だけは助けてくれ。今すぐ病院に連れていってくれよぉ」
すでに堀部は全身から白い棒を生やしていた。長身男は矢が尽きると、堀部の身体から引き抜いて、それを再度撃った。平然と、ためらいもなく。
船木も全身を殴打され、身体がバラバラになりそうだった。もはや立ち上がる気力もない。気づくと、堀部の声が消えていた。船木は目を疑った。堀部の額の真ん中から、白い棒が生えている。
「なぜだ、なぜ、こんなことをっ!」
長身男と肥満体は顔を見合わせて、初めて人間らしさを見せた。肩をすくめたり、苦笑したり、溜め息をついたりして、船木を見下ろした。
肥満体が膝を折って、顔を寄せてきた。腐ったチーズのような口臭がした。分厚い唇の間から、初めて言葉がもれた。
「あのな、ここは、区外だ。わかるか? 赤京区の外」
「それって、どういう意味だ」そういや、誰かが言っていたな。船木は必死に考える。
そうだ、思い出した。〈ロケットおっぱい〉だ。あの女が言っていた。
「赤京区内で生活し、区外には出ないこと」
ということは、これはバイトがらみなのか?
なぜだ? 俺はどこで道を誤ったんだ。
船木は必死に頭を巡らせる。だが、それも長くは続かなかった。肥満体が全体重をかけたエルボー・ドロップが、船木の頭部に落ちてきたからだ。ハンマーのような肘とアスファルトのサンドイッチで、頭蓋骨はあっけなく粉砕された。
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