クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

文字の大きさ
31 / 64

区議連審判①

しおりを挟む
 真壁マキナは激怒していた。OMの我儘や独断専行は悩みの種だったが、今回の一件は度を越している。溝呂木亮の始末を命じた浅野と宇部が大きなミスを犯したのだ。

 浅野は溝呂木の反撃を受けて肋骨を折られた。体力に優れたアスリートが相手とはいえ、殺しのプロが素人の反撃をくらうなど、あってはならないことである。

 宇部に関しては問題外である。尾白恭介がルール違反を犯していないのに、襲いかかった上に意識を奪ったからだ。これは明らかにOMのルールを逸脱している。

 これらは深刻な問題である。OMの連中はマキナたちを舐めきっている。OM管理の責任者として、なすべきことをなさねばならない。自分が命運を握っていることを骨の髄まで思い知らせてやる。

 マキナは部下に命じて、OMたちを特殊な部屋を入れさせた。防弾ガラスで囲まれた小部屋に入ってきたのは、浅野と宇部、森山、そして海老丸だった。王島は始末したので、この四人がOMの全メンバーとなる。

 ちなみに、浅野とはクロスボウを扱う長身男であり、宇部とはスタンガンを扱う痩身男を指す。森山は筋肉質の身体をもつ元警察官、海老丸はIQ180の大量殺人鬼である。

「あなたたちに来てもらったのは他でもない。自分の立場を思いだしてもらうためよ」
 マキナは隣の部屋からマイクを介して、四人に語りかけた。
「あなたたちのハンドラーは私。私の命令には、もちろん絶対服従だし、私が白といえば、黒だって白になる。それぐらいはあなたたちの頭でもわかるわよね」

 浅野と森山は神妙な顔つきで聞いているが、宇部は薄ら笑いを浮かべているし、海老丸にいたってはそっぽを向いて欠伸あくびをしている。

「宇部、尾白恭介に手を出したわね。ルールに違反したわけでもないのに、あやうく殺しかけたと聞いている。OMが殺していいのはルール違反者だけよ。まさかとは思うけど、それすら理解していないの?」

 宇部は肩をすくめて、
「作戦の邪魔をしたので、ちょっと手を出しただけですよ。もちろん、手加減はしました。殺すつもりなどサラサラありません」

「あら、口答えをする気? 私に意見するなんて、ずいぶんと怖い者知らずじゃない」
「それってパワハラになりませんか? OMにだって人権ぐらいはあるでしょう」
「よろしい、それでは〈区議連審判〉を仰ぎましょう」

 マキナはスマホを取り出すと、ルーマニアのIT企業のサイトを呼び出し、IDとパスワードを入力した。

 ライズ財団のデータファイルは機密保持のために全て電子化され、ファイルストレージサービスによって、ネット上のデータバンクに厳重に保管されているのだ。ちなみに、このIT企業の顧客の20%は、世界各国の諜報機関だという噂である。

 マキナはデータバンクから、宇部に関する報告資料を呼び出す。次いで、赤京区の裏HPを開くと、区議連審判申請書と報告資料を区議連窓口へと送信する。

 ところで、〈区議連審判〉とは何か?

 ルールには、「アウト・セーフ」の境界線がある。「法律は伸び縮みする物差し」の言葉通り、その境目は時と場合、状況によって変化する。つまり、時と場合、状況によっては、グレーゾーンが存在し、必然的に判断基準はあいまいだ。

 例えば、カードホルダーの行為が、ルール違反に該当するかどうか? その判断が微妙である場合、絶対者として九人の区議が「アウト・セーフ」の審判を下す。それが〈区議連審判〉である。

 通常は映像や音声などを基にジャッジを下すため、最低一時間はかかる。しかし、今回は10分もかからなかった。マキナは審判結果を見て、口元をゆるめる。

 なぜなら、九人の区議のうち、七人が「アウト」だったからだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

処理中です...