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〈可憐少女〉②
しおりを挟む真壁マキナの所属するライズ財団は、膨大な情報データを複合的に駆使して、詩織や恭介たちの日常生活を丸裸にしている。そして、ルール違反を察知すると、即座に命を奪いにくるのだ。油断は一時も許されない。
それに対抗するため、詩織は仲間とともに行動している。24時間監視の目をかいくぐるため、昨晩、階下で待機中の仲間と緻密な連携プレイをとった。
まず、マンションに戻っていた詩織は、時間通りに仲間と玄関フロアで落ち合うと、同じエレベーターに乗り込んだ。箱の中でクリムゾンカードの受け渡しを行ってから、それぞれの部屋に向かったのだ。
GPSは平面上の移動を察知することはできても、上下移動をとらえることはできない。クリムゾンカードが詩織の手から離れたことを、ライズ財団側は知りえないのだ。仲間はカードの電波を遮断した上で、システムデータの抜き取りに着手し、充分な成果を上げたはずである。
このように、詩織と仲間はGPSの盲点をついた。準備は完璧だった。事前に何度も、詩織のクリムゾンカードの不具合を起こし、本番に備えて伏線を張っておいた。手渡しのメモで連絡を取り合い、同じ食べ物をとったりもした。
例えば、詩織がコンビニ弁当を買って帰宅したのに、仲間はカップラーメンを食べたとしたら、盗聴チップを介して、矛盾した咀嚼音を聞かれることになるからだ。同じ映画DVDをレンタルしてきて、互いの整合性をとったこともあった。
詩織は危機感をもって、日常生活を送っている。部屋には、必要最低限のものしか置かない。異常があればすぐ気づくし、盗聴器や小型カメラの有無をチェックしやすいからだ。
ちなみに、深原詩織という名前は、偽名である。彼女はライズ財団に立ち向かうことを決意した時に、本名を捨てた。本物の深原詩織がどこで何をしているのか、詩織自身は知らない。信頼できる仲間が用意してくれた本籍と身分証明書を使っているだけだ。
ここまで計画は順調に進んでいる。ライズ財団に詩織を怪しむ気配はない。詩織たちは時間をかけて、慎重に準備を重ねてきた。すべての準備が万全に整い、その時が至れば、ライズ財団に対して鉄槌を下すつもりだ。
詩織は予定通りに過ごした。午前中は英会話の勉強をしたが、あまり集中できなかった。尾白恭介からの連絡がないからだ。つい、最悪の状況ばかり考えてしまう。恭介は何かしらのルール違反を犯して、ライズ財団の手にかかったのではないか。
仕方なく、勉強は早めに打ち切った。気分転換を図ろうと、冷えた麦茶を飲んだり、新刊本を読んだりしたが、恭介のことばかり考えてしまう。我慢できなくなって、詩織の方から電話をかけてみることにした。
コール音が続いてから、留守番電話を告げる音声に切り替わった。元気な声さえ聞ければ、安心できるのに。これでは無事なのかそうでないのか判断がつかない。また、ネガティブな考えに支配されそうになってしまう。
窓の外は快晴なのに、詩織の表情は曇りっぱなしである。
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