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再会の夜③
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恭介は顔を伏せたままで、ポツリポツリと語り始めた。
〈深紅のカード〉をもらった初日、八人のバイトのうち四人が亡くなったこと。その理由は真壁マキナが言った三つのルールを破ったためであり、彼女の組織の殺し屋によって始末されたこと。そのうち二人は、恭介が親しくしていた船木と堀部だったこと。
詩織は恭介を見つめながら、
「尾白さんから電話を受けた後、新聞を見て、船木さんと堀部さんのことを知りました。本当にひどい事件ですね」
詩織が初めて聞いたことにしなかったのは、聞いて驚くという演技に自信がなかったためである。できるだけ嘘は吐かず、演技を最小限に留める。その方が後ろめたさは少ないし、言葉と行動がリアルになるからだ。
おとなしそうな外見に似合わず、詩織にはそういった計算が働く。良心の呵責を感じないわけではなかったが、用心深さは子供の頃から変わらない。
初めて聞く話もあった。恭介の目の前で、溝呂木が殺されたこと、さらに刑事と殺し屋が殺し合ったことだ。
実は、黒木という刑事のことは、以前から知っていた。詩織の所属する〈アンチ・ライズ〉内部で、黒木のことは噂になっていたのだ。
「黒木は娘を殺されて、ライズに強い恨みを抱いている。刑事という肩書きは役に立つし、武闘派として使える男だ。ぜひ仲間に取り込みたい」と主張する幹部もいた。
事実、黒木には接触したらしいのだが、結局、取り込みは失敗に終わった。黒木は個人的に恨みを晴らす道を選んだのだ。
詩織は黒木に一度会ってみたかった。それは詩織の兄が警察官だったせいもある。
詩織にとって、年の離れた兄は唯一の肉親だった。いつも朗らかで頼りになる兄だった。その兄が何も言わずに、突然、失踪したのだ。後に、兄が借金まみれだったことを知った。兄の借金の中には、詩織の教育費や生活費も含まれていたはずだ。
兄の失踪は、ライズ財団がらみだった。詩織は何も知らなかった自分を責めたし、兄を殺したライズは絶対に許せなかった。これが〈アンチ・ライズ〉という集団に加わった動機である。
「……というわけなんです。深原さんは、どう思いますか?」
「えっ?」
詩織は兄のことを考えていて、つい話を聞き逃してしまった。
「すいません、ボーっとしていました」
「深原さん、仕事で疲れているんじゃないですか?」
「いえ、大丈夫です。それより、何のお話でしたっけ」
「今後の対策についてです。生き残りは、僕たちと西尾くんの三人。一ヵ所に集まって協力し合った方が良いと思うんだ」
「一ヵ所に集まる?」
「ええ、例えば、ホテルで一緒に暮らすんです。ビジネスホテルじゃなくて、食事や洗濯などのサービスが行き届いた、大きなホテルに。三人合わせれば、毎日30万円が口座に入る。それだけあれば、VIPルームにだって籠城できます。ホテルのサービスで手に入らないものは、ネット通販で取り寄せればいい」
「ずっとホテルに滞在ですか? 外には一歩も出ないということ?」
「外出はできるだけ控えた方がいいと思う。こっちはルールを守っているつもりでも、向こうの解釈ではルール違反ということがありうるから」
悪くない考えだ、と詩織は思う。恭介の言う通り、生き延びるためには、部屋に閉じこもっていた方がいいのかもしれない。少なくとも、他人との接触はできるだけ避けた方がベターである。
〈深紅のカード〉をもらった初日、八人のバイトのうち四人が亡くなったこと。その理由は真壁マキナが言った三つのルールを破ったためであり、彼女の組織の殺し屋によって始末されたこと。そのうち二人は、恭介が親しくしていた船木と堀部だったこと。
詩織は恭介を見つめながら、
「尾白さんから電話を受けた後、新聞を見て、船木さんと堀部さんのことを知りました。本当にひどい事件ですね」
詩織が初めて聞いたことにしなかったのは、聞いて驚くという演技に自信がなかったためである。できるだけ嘘は吐かず、演技を最小限に留める。その方が後ろめたさは少ないし、言葉と行動がリアルになるからだ。
おとなしそうな外見に似合わず、詩織にはそういった計算が働く。良心の呵責を感じないわけではなかったが、用心深さは子供の頃から変わらない。
初めて聞く話もあった。恭介の目の前で、溝呂木が殺されたこと、さらに刑事と殺し屋が殺し合ったことだ。
実は、黒木という刑事のことは、以前から知っていた。詩織の所属する〈アンチ・ライズ〉内部で、黒木のことは噂になっていたのだ。
「黒木は娘を殺されて、ライズに強い恨みを抱いている。刑事という肩書きは役に立つし、武闘派として使える男だ。ぜひ仲間に取り込みたい」と主張する幹部もいた。
事実、黒木には接触したらしいのだが、結局、取り込みは失敗に終わった。黒木は個人的に恨みを晴らす道を選んだのだ。
詩織は黒木に一度会ってみたかった。それは詩織の兄が警察官だったせいもある。
詩織にとって、年の離れた兄は唯一の肉親だった。いつも朗らかで頼りになる兄だった。その兄が何も言わずに、突然、失踪したのだ。後に、兄が借金まみれだったことを知った。兄の借金の中には、詩織の教育費や生活費も含まれていたはずだ。
兄の失踪は、ライズ財団がらみだった。詩織は何も知らなかった自分を責めたし、兄を殺したライズは絶対に許せなかった。これが〈アンチ・ライズ〉という集団に加わった動機である。
「……というわけなんです。深原さんは、どう思いますか?」
「えっ?」
詩織は兄のことを考えていて、つい話を聞き逃してしまった。
「すいません、ボーっとしていました」
「深原さん、仕事で疲れているんじゃないですか?」
「いえ、大丈夫です。それより、何のお話でしたっけ」
「今後の対策についてです。生き残りは、僕たちと西尾くんの三人。一ヵ所に集まって協力し合った方が良いと思うんだ」
「一ヵ所に集まる?」
「ええ、例えば、ホテルで一緒に暮らすんです。ビジネスホテルじゃなくて、食事や洗濯などのサービスが行き届いた、大きなホテルに。三人合わせれば、毎日30万円が口座に入る。それだけあれば、VIPルームにだって籠城できます。ホテルのサービスで手に入らないものは、ネット通販で取り寄せればいい」
「ずっとホテルに滞在ですか? 外には一歩も出ないということ?」
「外出はできるだけ控えた方がいいと思う。こっちはルールを守っているつもりでも、向こうの解釈ではルール違反ということがありうるから」
悪くない考えだ、と詩織は思う。恭介の言う通り、生き延びるためには、部屋に閉じこもっていた方がいいのかもしれない。少なくとも、他人との接触はできるだけ避けた方がベターである。
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