クリスマス・デス ~25歳で死ぬ病~

坂本 光陽

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再会の夜④

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「西尾くんは既に、この方法を実践している。食品や飲み物、生活に必要なものは全て、ネット通販で取り寄せているし、外には一歩も出ないんだ。ただ、籠城している場所はホテルではなくて、古いアパートの一室だけどね。どうだろう、これなら、ライズ財団の殺し屋に脅えることもない」

 本当にそうだろうか? 詩織は疑問に感じる。ずっと閉じこもっているなんて、精神衛生的によくないだろう。直感的に、何らかの問題があると思う。

「すいません、申し訳ありませんが、私にはピンにきません。そのやり方でライズ財団が見逃してくれるとは、どうしても思えないんです」
「そうかなぁ。一番安全な方法だと思うけど。深原さん、落ち着いているけど、怖くないんですか?」

 詩織のリアクションは、恭介にとって予想外だったようだ。やっぱり、私、演技が下手だ。もっと脅えた方がよかったかな。

「もちろん怖いですよ。同じバイトの人が五人も殺されているわけですし……」
 
「僕は怖くて仕方ないです。最悪なことばかり考えてしまって。3・11の大地震が起こった時、思い知らされました。想像もつかないような最悪な出来事が、突然起こりうる。そのことを痛いほど実感しました」
「……」

「だから、いつ死んでも納得できる、決して後悔のない人生にしようって、その時は思ったんです。一生懸命がんばろう、人のためになる仕事をしようって、心に誓ったはずなのに……。なのに、今の僕は、借金まみれのバカ野郎ですよ」
「……」

「僕は、最低最悪です。もしも今、このまま死んでしまったら、後悔だらけの人生だ。悔やんでも悔やみきれない。絶対に納得できない。……納得、できないよ」
 恭介は涙を流していた。
「ははは、ごめん。バカだな。何で泣いているんだろう。男のくせして、恥ずかしすぎだよ」
 涙を拭って、無理に笑おうとしている。

「……尾白さん」
「大丈夫、心配しないで。こんな情けなくて、どうしようもない僕だけど、精一杯がんばるから。殺し屋に襲われたとしても、深原さんのことだけは必ず守るから。何があっても絶対に守るから」

 恭介は詩織を真っ直ぐ見つめて言った。その言葉は、詩織の胸に突き刺さった。タイプ的に自分と似ているし、尾白恭介という男には好感をもっていた。
 でも無防備に涙を流すなんて……。母性本能をくすぐって、いきなり告白するなんて……。

 反則だ、と詩織は思った。

 気がついた時は、恭介のことを抱きしめていた。わが子を慈しむ母親のように、恭介の頭を胸に抱えて、頬をすりよせていた。若くて健康的な男の匂いがした。

「……深原さん?」
「ありがとう。とてもうれしいです。本当は私だって、怖くて仕方ないんです」

 ついさっきまでは、いつ死んでも構わないと思っていた。唯一の肉親である兄を失い、〈アンチ・ライズ〉に加入してから、詩織は自暴自棄になっていたのかもしれない。

 でも、今は違う。この人と一緒に、絶対に生き抜いてみせる。

 詩織は恭介の頬に手をやり、純朴な眼差しを覗きこむ。そっと目を閉じて、自分から唇を押し付けた。

 私、どうしちゃったんだろう。詩織は自分の大胆さに驚いていた。


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