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ラブ・スパイラルⅡ③

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 だから、ついつい連絡をしそびれてしまった。それがまた新たなトラブルを生むとは思いもせずに。

 昼下がりに、スマホが鳴った。見ると、真由莉さんからだ。

「すいません。昨日は本当にすいませんでした」

 何てことだ。お詫びの電話を入れる件をすっかり忘れていた。先方には見えないけれど、僕は深々と頭を下げた。

「僕のプライベートでお客様に御迷惑をかけるなんて、本来あってはならないことです。以後、二度とないように注意いたします」

「うん、恋の鞘当さやあてなんて初めてだけど、私に火の粉が及ぶのは避けてもらわないとね」そう言って、溜め息を吐いた。「だから、今すぐマンションに来てくれない?」

「えっ?」

 悪い予感がした。それも、とびきり悪い予感だ。

「シュウくんが私と一緒にいると思い込んでいるんじゃないかな。彼女がまた下に来てるのよ」

 一瞬、何を言われたのか、わからなかった。彼女? まさか、千鶴か?

「君に連絡がとれないんで、しびれを切らしたんじゃないかな」

「重ね重ね申し訳ありません。すぐ、彼女に連絡をとります。一度切らせていただきますね」

 千鶴はツーコールで出た。

「はい、もしもし」

「チィちゃん、今、何をしているんだ」

 つい、険のある言い方になってしまう。それは千鶴も同じだった。

「何って、シュウくんが出てくるのを待ってるだけよ」

「自分が何をしているか、わかっているのか? 一歩間違えたら、ストーカーじゃないか」

「文句があるなら、こそこそしていないで、早く出てらっしゃいよ。私はここで待ってるから」

 やはり、千鶴は誤解していた。

「僕は自分の部屋にいる。そのマンションにはいない」

 千鶴は鼻で笑った。

「どうだか、私の電話を無視するような人は信用できません」

 電源を切っていたので気づかなかったが、千鶴は何度も僕にコールしていたらしい。

「早く出てこないと、私、何をするかわからないわよ」

 その言い草はまるで脅迫だった。

 何を言っても無駄なので、僕は急いで現地に向かうしかなかった。
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