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情けは人のためならず②

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「ご、ご、ごめんなさいっ」反射的に頭を下げる私。
「そんな風に見られていたか」ニヤニヤ笑う霊能者。「まぁ、思い当たる点がないでもない。というか昔からよく言われている」

 この人、相当に人が悪い。もうとりつくろっても仕方がない。
 頭を下げたら、直ちに正攻法に入る。玉砕ぎょくさい覚悟で正面突破だ。

「あの、厚かましいのはわかっているんですが、テレビ出演の件、もう一度考え直してもらえませんか」
「はあっ? 信じられない。このタイミングで、頼み事なんかするかな」

「図々しいのは百も承知です。この一週間、霊能者の人たちと会ったり話したりしましたけど、はっきり言ってインチキっぽいというか、怪しい人ばっかりでした。信用に足る人は桐生さんだけです。私、桐生さんは本物だと思います」
「……」

「桐生さんはこの前、テレビの嘘が大嫌いだと言いましたよね。私も同じ気持ちです。だからこそ、桐生さんと一緒に仕事をしてみたい。そう思ったんです。お願いします。一緒に、嘘のない番組を作りましょう!」
「……」

 桐生さんはたっぷり間をとってから、
「君もなんだかんだ言っても、業界の人間だな。迫真の演技に、あやうく信じかけたよ。そんな嘘まで吐いて、俺を口説き落とそうというわけか」
 嘘じゃない。本心なのに。あちゃー、やっぱり玉砕か。

「晋之介、その子の言葉に嘘はないで」
 どこからか、女性の声がした。
 桐生さんの顔がにわかにくもる。初めて見た、困った表情。

 黒い垂れ幕をめくって奥から現れたのは、マネージャー女史ではない。
 小柄なおばあさんだった。
 高齢だけど、背筋はピンと伸びている。ラメ入りのワンピースに、きらびやかなアクセサリー。シックなバーのマダムといったイメージ。
 あれ、このおばあさん、どこかで会ったような気がする。

 マダム風おばあさんは、満面の笑みを浮かべて、
「やっぱり、あんたか。この間はホンマにおおきに」
「え、あの、すいません。どちらかでお会いしたと思うのですが」
「あんた、何いうてんのん。ほら、カレーパンを分けてもろうた」

 ああーっ、確かにあの時のマダム。どうしてここにいるの?
 わけがわからない。もう一つわからない。どうして関西弁?
 桐生さんも、この状況にかなり戸惑っている御様子である。
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