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浪人と岡っ引き②

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「マサとかいう半端者よ。昔は評判のいい飛脚だったが、博打にのめり込んで首が回らなくなったとかなんとか」
「そういえば、蕎麦屋の方も同病だったんだろ。博打狂いの店主のせいで、店は傾き、多額の借金をかかえていたと聞くぜ」

「『ない袖はふれねぇ』とか息巻きやがって、まぁ、蕎麦屋も言ってみりゃ自業自得だな。だから、マサに言って店に火をつけさせたんだ。まさか、その前にマサが『化け物から、火事で三人死ぬと告げられた』と吹聴しているなど、夢にも思わなかったぜ」

 つまり、蕎麦屋の火事は、予言獣にかこつけた放火だったのだ。現代で言えば、マッチポンプというところである。

「その上、現場で火事場泥棒をしていたわけか。信じられねぇ、うっかり者だな。『化け物のお告げを的中させるために、当人が火をつけたんじゃないか』。そう疑われても仕方がねぇぜ。普通なら警戒して近寄らねぇものだが」

 だから、希之介と源八は現場でマサを見とがめて、必死に追いかけていたのである。

「そんな風には思わねぇから半端者なのよ。場当たり的で、先の見通しが立てられねぇ」

 マサの行動はどう見ても合理的ではないが、その理由はすべて行き当たりばったりだった、ということに尽きる。

「でも、声をかけたのは親分でしょう。俺は賭場の借金取り立てで一枚噛んでいただけ。火事や殺しにまで巻き込まれちゃ迷惑だ」
「おいおい、てめぇ、俺様にそんな口を叩くのか」

 源八は急に声を荒げたが、すぐに周囲の目を気にした。いつのまにか、少しばかり人が増えている。希之介にしても、通行人には聞かれたくない。二人は目配せを交わし、場所を変えることにした。
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