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天狗の正体
しおりを挟む亜湖には気になっていたことが一つある。天狗もどきの姿は、一般的な天狗とは似ても似つかなかったのだ。顔が毛むくじゃらだったし、まるで犬か狼のようだった。
「天音くん、天狗って一体なに? 私にもわかるように説明してよ」
「天狗が鼻の長い人型になる前は、四つ足の獣だったんだ。『源氏物語』では、狐と同類の妖怪として語られている。そのルーツは中国にあって、吠えながら空を駆ける犬の姿なんだ」
蛇足だが、『日本書紀』には、天狗の吠える声が雷に似ている、という記述がある。雷神社の雷も天狗と関わりがあるのだ。
「そうか、天狗って天の狗って書くのは、そういうこと」
「おっ、理解が早いね。さすが、役小角」
「ちゃかさないで。私の中から小角さんを追い出すことはできないの? これから一体どうすればいいのよ」
「上手に付き合っていくしかないんじゃない。何かあれば力を貸してくれると思うよ。妖怪がらみの事件があれば頼りになる」
「もうっ、無責任なことを言わないでよ」
「いやいや、君の面倒はキチンとみるって。14年前の件もあるし」
「14年前? 何それ」
「覚えてないだろうが、俺たちは3歳の時、雷神社の境内で会っている」
亜湖は少し考えこみ、
「えっ、まさか、嘘でしょ? あの時、一緒に遊んだ仔犬が天音くん?」
「嘘みたいだろうが、これ、本当の話」
「……そうだったんだ。初恋の女の子に会うために転校してきたのか」
「いやいや、初恋とまでは言ってない」
「いやいや、照れなくていいから」
かつて、役小角は鬼を部下にもっていた。天狗を使っていたこともある。その意味では、小津野亜湖と天音翔は悪くない組み合わせなのだろう。
二人はふざけあいながら、イチョウ並木の金色の絨毯の上を歩いていく。
了
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